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『オッペンハイマー』はノーラン初の一人称脚本 ─ 「皆さんにも倫理的ジレンマに対峙してもらいます」

クリストファー・ノーラン
HellaCinema https://commons.wikimedia.org/wiki/File:DunkirkFilmGearPatrolLeadFull.jpg

映画は歴史的に、知性や天才を表現することに苦戦してきました。人々を惹きつけるのに失敗したことも少なくありません」。映画監督クリストファー・ノーランはこう語る。しかし最新作『オッペンハイマー(原題)』は、第二次世界大戦下で原子爆弾の開発・製造計画「マンハッタン計画」を主導した物理学者ロバート・オッペンハイマーの物語だ。

この歴史に名を残す“天才”を表現するため、ノーランは自身初の挑戦に取り組んだ。それは、脚本を一人称で執筆すること。英Empireでは、“この人物の脳内に入り込み、物理の再発明を映像化する”という課題へのアプローチが語られている。

「視覚効果スーパーバイザーのアンドリュー・ジャクソンに脚本を読んでもらった時、“この人の脳内に入り込み、彼と同じように世界を、原子の動きを見つめなければいけない”と話しました。彼が想像しているエネルギーの波や量子世界を見せ、それらがいかにしてトリニティ実験(注:史上初の核実験)に結びついたかを描き、その危険や脅威を感じなければいけないのだと。彼への宿題は、“それらを全部やる。ただしCGなしで”というものでした。」

オッペンハイマーを描く以上、オッペンハイマー自身の視点で全編の脚本を執筆し、映画全編を主人公の視点から見せていく。ノーランのアプローチはシンプルだが、もちろんそこにはツイストが用意されている。“全編にわたり”一人称というわけではないということだ。

AP Newsにて、ノーランは「この映画には2つの時間が流れています。ひとつはオッペンハイマーの主観的経験で、カラーで表現されるもの。もうひとつはモノクロで表現される、異なる人物の視点から彼の物語を客観的に描くものです」と語っている。もっとも、映画の大部分がカラーのパート、すなわち“オッペンハイマーの視点”で構成されているようだ。

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ちなみにノーランによると、オッペンハイマーの一人称視点を採用することには、もうひとつの狙いがあったという。それはオッペンハイマーを描きつつ、歴史的惨事である原爆投下を招いた彼に対し、なんらかの評価を下すような作品にしないことだった。

「私はオッペンハイマーとともにこの物語を経験したかったのであって、彼を傍観したり、彼を評価したりはしたくなかったんです。それは無意味なことのように思えたし、どちらかといえばドキュメンタリーや政治的主張、科学史に近いもの。この作品は、彼とともに物語を経験する映画であって、彼を評価するものではありません。皆さんにも、折り合いのつかない倫理的ジレンマに対峙してもらいます。」

映画『オッペンハイマー(原題:Oppenheimer)』は2023年7月21日に米国公開予定。日本公開情報が待たれる。

Source: Empire, AP News

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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