『オッペンハイマー』ノーラン監督、「若者は核兵器に関心がない」と10代の息子に言われ ─ オスカー受賞後インタビューで語る

第96回アカデミー賞では作品賞・監督賞を含む7部門を総なめにした『オッペンハイマー』のクリストファー・ノーラン監督。原子爆弾の父とされる科学者ロバート・オッペンハイマーの生涯を描く作品とあって、主題に対する政治的な議論は避けられない。
特に被爆国である日本では様々な注目を集めている。劇場公開予定がなかなか決まらない状況が続いていたが、ついに2024年3月29日に日本公開を迎える。
原子爆弾の誕生を描く作品であるため、フィルムメーカーがどのような考えを持っているのかについて気になる観客は多いだろう。ノーラン監督はアカデミー賞受賞後のオフィシャルインタビューで、控え目ながらその一部を語っている。

受賞後の現地バックステージ・インタビューでノーランが受けた質問のうちのひとつは、次のようなものである。「この映画は多くの若者に観られたということですが、それは非常に重要なことです。この映画には芸術的な長所もたくさんありますが、映画のメッセージという点についていかがでしょうか。この映画を観た若者たちが、将来のために、ヘイトを抱かず、今現在ガザ地区やあちこちで起こっているような他者への攻撃を行わないために、何ができるでしょうか」。
これに対しノーランは、「私は、自分が作る映画のメッセージについて、あまり詳細を語らないようにしています。なぜなら、映画が教訓的になると、あまりドラマチックにならない傾向があると感じるからです」と前置きしながら、次のように答えている。
「しかし、本作を仕上げて、観客の反応を見た時は、自分の中でとても印象的に思いました。
このプロジェクトに着手した当初、今こういう仕事をしていると10代の息子に話すと、彼がこう言ったんです。若い人たちは核兵器にそんなに興味がないって。(核兵器は)彼らの恐怖の最前線にないわけです。そのことは、この映画が成功し、多くの人に観てもらうことに、ある程度貢献できるものであるように、私は思いました。
より広範なメッセージとしては、私が指摘したかったことは、この映画は私が劇的に必要だと考える、絶望の瞬間に終わるということです。しかしながら現実では、絶望が核兵器の問題に対するアンサーになるとは考えていません。
1945年以来、個人や組織によって行われてきた(核兵器)不拡散の活動を見れば、1967年以来、地球上の核兵器の数はおよそ90%減少しています。
ここ数年、それは間違った方向に進んでいます。現実に絶望するのではなく、アドボカシー(=擁護・代弁)に目を向け、地球から核兵器の数を減らして安全な世界を作るべく政治家や指導者たちに圧力をかける組織に目を向けることが極めて重要です。」
本作『オッペンハイマー』は、原爆の開発者ロバート・オッペンハイマーの目線に徹底的に絞ったストーリーテリングとなっており、広島・長崎に投下される様子や、それに関連する映像は描かれない。そのことの是非については別の大物監督であり社会派の作風で知られるスパイク・リーが指摘している通りだ。

本作がアカデミー賞で脚光を浴びた際、主演男優賞を獲得したキリアン・マーフィーは壇上のスピーチでこう述べている。「僕たちは、原爆を作った男についての映画を作りました。良くも悪くも、僕たちはオッペンハイマーの世界に生きています。だからこそ、この受賞を、すべての平和主義者に捧げたい」。
映画『オッペンハイマー』は2024年3月29日、日本公開。
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Source:Oscar