ニュースではわからないテロの現実がここにある ─ 映画『パトリオット・デイ』が描いたメッセージとは

映画『パトリオット・デイ』とは
2013年4月15日、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストンで開かれたボストンマラソンの競技中に爆弾テロが起きました。その日はアメリカ独立戦争にちなんだ「愛国者の日」でもありました。一般人の負傷者は200人を超え、3人の尊い命も奪われました。アメリカ国内では2001年の同時多発テロ以来となる大規模なテロ事件であり、世界中に衝撃が走ったことは記憶に鮮明でしょう。
たった4年前の出来事です。まだまだ人びとの傷も生々しいであろうこの事件ですが、さっそく映画化されました。監督は『バトル・シップ』でおなじみのピーター・バーグ。主演は『トランスフォーマー』や『テッド』などで日本での知名度も高いマーク・ウォルバーグです。『バーニング・オーシャン』に引き続き、実録映画でのタッグになります。
内容は事前の高い期待度に応える非常に素晴らしいものでした。中東地域における悲惨な戦争や、先進国各地で起こるテロの恐怖に立ち向かわなければならない今だからこそ、見て、感じて、一人ひとりが考えなければならない映画になっています。今回わたしは本作を『アメリカン・スナイパー』や『ハドソン川の奇跡』などと並べながら、詳しく考えてみたいと思います。
最初から最後まで手に汗握る緊迫のサスペンス
映画はボストンの平和な日曜日からはじまります。それぞれが翌日のボストンマラソンを気にかけながら、なんでもない幸せな休日を過ごす様を、カメラは写します。もちろん、彼らは全てテロ事件に巻き込まれる人たちです。観客の私たちはそれを知っているため、嵐の前のような静寂に胸騒ぎを覚えます。
また、ここで注目すべきは彼らが「ボストンの住人である」こと以外に接点を持たないということです。これから起こる凄惨な事件に彼らは巻き込まれていくわけですが、「ボストンの住人である」という意識はこの映画を貫く重要なテーマになっています。
そして、ボストンマラソン当日。一般ランナーが徐々にゴールに到着する中、突如観客席から爆音と噴煙がまき上ります。会場全体が大混乱に陥る中、二つ目の爆弾が作動し、あたりは地獄絵図と化します。この場面はニュース映像でも多く目にしたことがあるシチュエーションでしょう。テレビ画面や監視カメラの映像を交えながら、まるでドキュメンタリーのように現場の空気を再現します。一体が血まみれになる様は、じっさいに起きたときの記憶が鮮明であるぶん、切実に観客の心を引き裂きます。ボストン警察やFBIが事件の対処に動き出し、いよいよ映画は動きはじめます。
なにが起きているのか誰も全容をつかめない中、捜査は走り続けます。FBI特別捜査官のリック・デローリエ(ケヴィン・ベーコン)、ボストン警察警視総監のエド・デイヴィス(ジョン・グッドマン)などが陣頭指揮を執り、事態の収拾と犯人逮捕に向けた壮絶な戦いに挑みます。地元を知り尽くす主人公のトニーや、クウォータータウン警察のピュジリーズ巡査部長(J・K・シモンズ)も各々の役割を果たし、警察組織一丸となって死力を尽くす姿は、緊張感にあふれています。前述のとおりキャストも名優たちを揃えており、絵的にも華やか。おじさんたちの演技合戦だけでもかなりの見応えがあります。
特定の人物の目線によらず、ドキュメンタリータッチで事件をまなざす演出がとられており、観客も捜査員の一員として現場に放り込まれたかのような感覚を味わえます。生々しくも、その場にいる人間たちの焦りや恐怖、緊張が画面越しに伝わってくるため、たとえこの後に起きる事実を知っていたとしても全く気を抜くことはできません。ドキュメンタリータッチであるがゆえに、当事者目線で映画にのめり込めるのです。
ここから先の展開はぜひ映画館で目撃してほしいと思います。見せ場の一つである中盤の銃撃戦は『ヒート』を彷彿とさせる白熱のシーンです。重々しい銃声が、弾丸ひとつで人の命が奪えてしまうということの恐ろしさを、否が応でも思い起こさせます。実録映画というと最初から最後まで事実がわかってしまうので敬遠する人もいるようですが、『パトリオット・デイ』に関しては心配いりません。むしろ、「事実」の裏に隠された戦いの「真実」を目撃することになるでしょう。
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