ニュースではわからないテロの現実がここにある ─ 映画『パトリオット・デイ』が描いたメッセージとは

映画『パトリオット・デイ』とは

© 2017 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

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みなさんはボストンマラソン爆弾テロ事件のことを覚えているでしょうか?

2013年4月15日、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ボストンで開かれたボストンマラソンの競技中に爆弾テロが起きました。その日はアメリカ独立戦争にちなんだ「愛国者の日」でもありました。一般人の負傷者は200人を超え、3人の尊い命も奪われました。アメリカ国内では2001年の同時多発テロ以来となる大規模なテロ事件であり、世界中に衝撃が走ったことは記憶に鮮明でしょう。

たった4年前の出来事です。まだまだ人びとの傷も生々しいであろうこの事件ですが、さっそく映画化されました。監督は『バトル・シップ』でおなじみのピーター・バーグ。主演は『トランスフォーマー』や『テッド』などで日本での知名度も高いマーク・ウォルバーグです。『バーニング・オーシャン』に引き続き、実録映画でのタッグになります。

内容は事前の高い期待度に応える非常に素晴らしいものでした。中東地域における悲惨な戦争や、先進国各地で起こるテロの恐怖に立ち向かわなければならない今だからこそ、見て、感じて、一人ひとりが考えなければならない映画になっています。今回わたしは本作を『アメリカン・スナイパー』や『ハドソン川の奇跡』などと並べながら、詳しく考えてみたいと思います。

最初から最後まで手に汗握る緊迫のサスペンス

映画はボストンの平和な日曜日からはじまります。それぞれが翌日のボストンマラソンを気にかけながら、なんでもない幸せな休日を過ごす様を、カメラは写します。もちろん、彼らは全てテロ事件に巻き込まれる人たちです。観客の私たちはそれを知っているため、嵐の前のような静寂に胸騒ぎを覚えます。

また、ここで注目すべきは彼らが「ボストンの住人である」こと以外に接点を持たないということです。これから起こる凄惨な事件に彼らは巻き込まれていくわけですが、「ボストンの住人である」という意識はこの映画を貫く重要なテーマになっています。

そして、ボストンマラソン当日。一般ランナーが徐々にゴールに到着する中、突如観客席から爆音と噴煙がまき上ります。会場全体が大混乱に陥る中、二つ目の爆弾が作動し、あたりは地獄絵図と化します。この場面はニュース映像でも多く目にしたことがあるシチュエーションでしょう。テレビ画面や監視カメラの映像を交えながら、まるでドキュメンタリーのように現場の空気を再現します。一体が血まみれになる様は、じっさいに起きたときの記憶が鮮明であるぶん、切実に観客の心を引き裂きます。ボストン警察やFBIが事件の対処に動き出し、いよいよ映画は動きはじめます。

なにが起きているのか誰も全容をつかめない中、捜査は走り続けます。FBI特別捜査官のリック・デローリエ(ケヴィン・ベーコン)、ボストン警察警視総監のエド・デイヴィス(ジョン・グッドマン)などが陣頭指揮を執り、事態の収拾と犯人逮捕に向けた壮絶な戦いに挑みます。地元を知り尽くす主人公のトニーや、クウォータータウン警察のピュジリーズ巡査部長(J・K・シモンズ)も各々の役割を果たし、警察組織一丸となって死力を尽くす姿は、緊張感にあふれています。前述のとおりキャストも名優たちを揃えており、絵的にも華やか。おじさんたちの演技合戦だけでもかなりの見応えがあります。

特定の人物の目線によらず、ドキュメンタリータッチで事件をまなざす演出がとられており、観客も捜査員の一員として現場に放り込まれたかのような感覚を味わえます。生々しくも、その場にいる人間たちの焦りや恐怖、緊張が画面越しに伝わってくるため、たとえこの後に起きる事実を知っていたとしても全く気を抜くことはできません。ドキュメンタリータッチであるがゆえに、当事者目線で映画にのめり込めるのです。

ここから先の展開はぜひ映画館で目撃してほしいと思います。見せ場の一つである中盤の銃撃戦は『ヒート』を彷彿とさせる白熱のシーンです。重々しい銃声が、弾丸ひとつで人の命が奪えてしまうということの恐ろしさを、否が応でも思い起こさせます。実録映画というと最初から最後まで事実がわかってしまうので敬遠する人もいるようですが、『パトリオット・デイ』に関しては心配いりません。むしろ、「事実」の裏に隠された戦いの「真実」を目撃することになるでしょう。

テロと戦う武器は「愛国心」じゃない

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『パトリオット・デイ』=「愛国者の日」というタイトルでありながら、本作で描かれるのは決して愛国心やイデオロギーではありません。

では、なにが描かれているのか。それはずばり「愛」であると考えます。あまりに青臭く直球なテーマだと思われるかもしれません。しかし『パトリオット・デイ』は「テロ」という国際政治の壮大なトレンドを扱いながら、常に「愛」という非常に身近でパーソナルなアプローチに固執した映画になっています。

記事の冒頭に書いたように、『パトリオット・デイ』はあくまで「ボストンで起きたこと」なのです。冒頭の平和なボストンを写すシーンで、のちにテロに巻き込まれることになる男女はレッドソックス(もしくはソークス?)の話をしています。スタートからかなり「ボストンで起きたこと」であることを強く意識させます。

途中、オバマ前大統領の演説シーンなどを挟みますが、本作が扱う範囲はあくまでボストンに留まります。FBI特別捜査官のデローリエを除くと、事件の解決にあたるのはボストン警察の職員です。安っぽい言い方をすれば、地元のおっちゃんたちです。星条旗を背負ってアメリカのために戦うのではありません。愛する地元ボストンの平和を取り戻すため、彼らは粉骨砕身、事件の解決に努力するのです。

『パトリオット・デイ』はテロや戦争に絡んだ実録映画という点で『アメリカン・スナイパー』や『ハドソン川の奇跡』と似たような印象を受けますが、アメリカの描き方が決定的に異なっています。

『アメリカン・スナイパー』『ハドソン川の奇跡』もご存知の通りクリント・イーストウッド監督の傑作です。彼の作品は常に「男の力強さ」や「マッチョなアメリカ」の思想が裏に隠れていますが、この2作も例外ではありません。これらの思想は古き良きアメリカ人の「愛国心」に繋がるものであり、イーストウッド作品は常に「アメリカ人の愛国心」を描いてきました。

しかし『パトリオット・デイ』はタイトルに「パトリオット=愛国者」の単語を冠しながら、アメリカ人の愛国心とは一定の距離を置いています。というより、そこまで話が広がりません。ボストン警察の職員たちはボストンを守るために戦います。自由主義世界や星条旗のためではありません。彼らの戦いに愛国心やイデオロギーが入り込む隙はないのです。

ここに『パトリオット・デイ』の示すテロとの戦いのアンサーがあります。つまり、人びとの命を奪い、心を傷つける邪悪な敵に立ち向かう原動力は、純粋に平和を取り戻したいという善の心であり、愛でなければならないのです。この戦いに愛国心やイデオロギーは関係ありません。誰かを理不尽に痛めつけ、暴力を振るった時点で、それは排除すべき悪です。相手がムスリムであろうと、アメリカ人であろうと関係ありません。なぜ悪に立ち向かわなければならないかの答えは、いつも隣で微笑んでくれる、あなたの大切な家族や友人、恋人を見ればわかるのです。

非常に青臭いメッセージです。しかし、『パトリオット・デイ』の作り手は大まじめにこのことを世界に伝えようとしていると思います。それはクライマックス前にトニーが語る妻への愛だったり、後日談として描かれる当事者たちの「その後」の様子に込められてていると思います。いま、世界中でテロや戦争が起きて社会全体がふたたび不安定な時期を迎えています。ニュースで機械的に伝えられる惨事の裏には、常に生身の人間の苦しみや悲しみがあります。この映画はその一人ひとりの顔を生々しく映し出し、現実を突きつけます。しかし、それは同じ不安や恐怖、痛みを共有できる人が、同じ地球上にたくさんいるということでもあるのです。愛を信じよう、前向きに世界を考えようというメッセージは、今だからこそ必要なものでしょう。必見の大傑作です。

『パトリオット・デイ』で考える「良心」と「圧力」の違い ─ 事実に忠実な映画の主人公が「創作」である理由とは?

About the author

和洋様々なジャンルの映画を鑑賞しています。とくにMCUやDCEUなどアメコミ映画が大好き。ライター名は「ウルトラQ」のキャラクターからとりました。「ウルトラQ」は万城目君だけじゃないんです。

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