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【長文インタビュー】『ファントム・スレッド』ポール・アンダーソン監督 ─ 「仕立て屋も映画も、誇大妄想患者の男が叫んでる」

ファントム・スレッド
© 2017 Phantom Thread, LLC. All Rights Reserved.

世界三大映画祭で監督賞を制覇した若き巨匠、ポール・トーマス・アンダーソン監督の最新作ファントム・スレッドのBlu-ray+DVDセットが、2018年11月7日より発売中だ。

『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)に続き、アンダーソン監督と名俳優ダニエル・デイ=ルイスが2度目のコラボを果たした本作。1950年代のロンドンを舞台に、オートクチュールの仕立て屋レイノルズ・ウッドコックと若きウェイトレスのアルマの衝撃的な恋愛模様を描いた。ダニエル・デイ=ルイスの引退作としても話題となっている。

このたび、そんな本作を手がけたアンダーソン監督の真髄に迫る貴重なロング・インタビュー原稿を入手。全文訳でお届けする。

アルマ役ヴィッキー・クリープスのインタビューはこちら

敢えて閉所的な作品に

── 本作『ファントム・スレッド』は、まるでヨーロッパ映画を鑑賞しているように感じました。それは意図的なものですか?

んー、少し奇妙な場面を撮影していた時、そのことについて話しはしましたね。「ひどくフランス要素が入ってきてるよ!」みたいな(笑)。僕はヨーロッパで仕事をしていると、少しフランスかヨーロッパ風になるんですよ。

今回の場合もおそらく、ロンドンっていう場所が関係しているんじゃないかな。うん、それが原因なはず。

── 何か特別に意識したことはありましたか?

僕は映画の中で機能して、はっきりと無駄なく物語を伝えようと試みるんですけど、「この部分をこうしよう。いや、ああしよう」という風に、何かアイデアを意識することは決してなかったですね。

敢えて言うならば、かすかに古風なスタイルにしようと努めてはいたかな。あ、古風とはカメラの動きを真っ直ぐシンプルにして、何も強調しないこと。ただ置いてあるだけって感じ。カメラの動きは、映像内で動いている人に影響されるんですよ。マックス・オフュルス みたいな撮影技法も少し使用できるけど、願わくばそれもしっかりと物語に結びついていて欲しい。本作には、そうした撮り方がふさわしかった。なので映画の大部分は、小さな場所で人々がテーブルに対角上で座っているだけなんです。バンバンと派手に行ったらまずいし。 

ファントム・スレッド
© 2017 Phantom Thread, LLC. All Rights Reserved.

── 座っての対話シーンを意識したということですが、では本作で屋外の場面が少なかったのは、ウッドコックの内面や心理戦に集中するためですか?

それも計画したわけではなく、たまたまですね。敢えて言うならば、状況設定ショットをあまり配置しないよう心がけてはいました。一回家を映したら、再びはいらないんです。通常、状況設定ショットというのは、映画が閉所的にならないよう観客に対する一種の息抜きとして与えられていますからね。

── 確かに、閉所的に感じました。

そうです。そうなるべきでしたし。ですが、閉所恐怖症と誰かが首を絞める感覚は違うと願っていますよ。この映画を観ていると、首を絞められる感じがして好きじゃなかったって言う人がいるんですよ。

あと舞台劇的なものがある場合は、観客がつまらないと感じるかもしれません。なので、舞台劇の映像を作る際は、何か新しい要素を加えるように試みないといけないんです。できれば、自然で不必要だと感じない程度にね。まあでも、結局は全部不必要だと言えるけど。ある場面から次の瞬間まで、顔だけに集中することもできますしね。結局は映画なので、他のこともしているように見せないといけないんです。

── イギリスが舞台の本作は、アメリカを舞台とした監督の過去の作品と全く違うテイストに感じました。

それはもちろん、とても良いことですね。この映画をロサンゼルス出身の人物が作ったとは、誰にも思って欲しくないですし。出身地は自身のパラノイアなんですよ。外国に行き映画を製作する場合、正しく描きたいと思うんです。それは他の監督も同じですね。

本作を鑑賞したイギリス在住の人が、「ちょっと待って!この国まで運転するのに何時間かかったの?」とか「彼はどこに住んでるつもりなの?」「なんであそこから日が昇るわけ?」「ヨークシャーとコッツウォルズに行って、2つを組み合わせたとでも言うわけ?」って思うことはあると思いますよ。でもそれは良いんです。だって外国の監督がロサンゼルスを舞台に製作すると、みんながベニスビーチを歩いているみたいなことが起こるし。そんな時は僕たちも、「俺たちみんなここに住んでるとでも思ってるの?」ってなるんです。

Writer

Marika Hiraoka
Marika Hiraoka

THE RIVER編集部。アメリカのあちこちに住んでいました。

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