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冤罪はなぜ起こる、弁護士に訊いた無実の闘い ─ 法廷ドラマ「プルーブン・イノセント 冤罪弁護士」特集

プルーブン・イノセント 冤罪弁護士
© 2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

自宅に火を放ち、息子を殺害した容疑で起訴されたルシアは、「なぜ放火したのか」と問われ、次のように自白した。「天使に言われたからよ。こう言ってた。“ママ 天国に帰るね”」──不気味に笑うルシアの目元には、まるで邪悪な魔女のような黒いメイク。

その猟奇性は明らかだったが、弁護士マデリンは無罪を信じていた。ルシアの本来の人となりを知っていたからだ。ルシア自身も身に覚えがなく、なぜ自白したのか分からないと主張している。


実際のところ、ルシア宅の火災は不慮の事故だった。自ら火を放ったように聞こえる自白は、一酸化炭素中毒による幻覚症状のためだったのだ。魔女のような目元の黒いメイクは、火災時の“すす”に過ぎなかった。つまりルシアは、無実の罪で有罪判決を下される手前だった。弁護士マデリンがどうしてもルシアを救いたかったのは、彼女自身もかつて“冤罪”に苦しんだ過去を持つためだ。

プルーブン・イノセント 冤罪弁護士
© 2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

マデリンは18歳の頃、親友を殺害したとして無実にもかかわらず有罪に。服役中に学士号を取得し、釈放後にロースクールを卒業し“冤罪弁護士”となって帰ってきたマデリンは、冤罪で苦しむ人々の疑いを晴らすべく闘う。新たな法廷エンターテイメントドラマ「プルーブン・イノセント 冤罪弁護士」が、2019年11月13日よりリリースとなる。

なぜ、冤罪は起こるのか。やってもいない罪を問われるなんて、そんな恐ろしいことがあって良いものか。THE RIVERでは「プルーブン・イノセント」を通じて冤罪の恐怖に迫るべく、弁護士の趙 誠峰 先生(早稲田リーガルコモンズ法律事務所)の元を訪ねた。

趙 誠峰先生(早稲田リーガルコモンズ法律事務所)

趙先生はこれまでに7件の無罪判決を獲得。「刑事弁護界のレジェンド」高野隆弁護士に師事し、最近では俳優・新井浩文氏の弁護も担当。「無罪請負人」と呼ばれる趙先生に、“冤罪”のリアルを聞く。

なぜ冤罪は起こるのか

放火殺人の罪を問われるルシアの例は、「プルーブン・イノセント」第1話で描かれるエピソードだ。火災による一酸化炭素中毒の症状として、記憶喪失を補うため作り話をするものがある。その真偽は本人しか知り得ないが……。

「裁判で、最終的に判断を下すのは裁判官。裁判員制度の場合は一般国民ですね。判断を下す人たち自身も経験のあることなら、“あぁ、あのことだね”と想像しやすい。だけど、一酸化炭素中毒で朦朧として……という経験は滅多にありませんよね。僕たちがそういう事案に出会った時には、徹底的に調べることから始めます。例えば一酸化炭素中毒でしたら、専門家に話をたくさん聞きに行く。地道な調査をコツコツ積み重ねる中で、こういうこともあり得るのかと理解していく。弁護士である僕らが理解して腑に落ちていないと、裁判官を説得することはできませんから。」

幻覚に関する事例は、趙先生にも経験がある。男性外科医師が、執刀した女性患者の乳首を舐めたとして起訴された“乳腺外科医師わいせつ冤罪事件”だ。女性患者の訴えた被害は、全身麻酔に伴う「術後せん妄」による幻覚症状であるか否かが争点となった。趙先生は男性外科医師の弁護を担当し、術後せん妄の可能性を証明。一審で無罪を獲得した。「最も難しいのは、想像が難しいことの可能性を理解してもらうことです」と振り返る。

プルーブン・イノセント 冤罪弁護士
「プルーブン・イノセント 冤罪弁護士」より。 © 2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

ドラマ「プルーブン・イノセント」では、主人公マデリンが数々の冤罪事件に果敢に挑んでいく。彼女自身も冤罪によって人生を奪われた過去を持つが、そもそもなぜ冤罪は起こるのか。「実際に裁判をやっていて思うのは……」と、趙先生が実情を語る。

“この人が犯人なんだ”と一度思ったら、警察官にしろ検察官にしろ、途中で引き返せなくなる。彼らは彼らで突き進むんですね。その結果、冤罪が生まれる。そもそも検察官が有罪と信じて起訴しているので、裁判官も(有罪という)先入観で事件を見てしまう。日本の有罪率は99.9%なんですから。

弁護士の立場からすると、初めからバイアスがかかっていると感じてしまうこともあります。すごく恐ろしいことです。弁護側が一生懸命“そうじゃない”と言っても、最後に判断するのは裁判官で、そこも人間です。だから最終的に判断を誤るということは、どうしても出てしまう。」

しかし、検察官が有罪と信じる過程は、密室で行われる一方的な取り調べから始まることがある。やってもいない罪を強制的に自白させられるということだ。特に日本の取り調べは「人質司法」と呼ばれ、カルロス・ゴーン事件を契機に国際的にも問題視されていると趙先生は解説する。

「アメリカだと、黙秘権を行使しますと言えば、基本的に取り調べはそれ以上行われない。一方、日本では最大23日間も拘束されるんですよ。日本の特徴は、無罪を主張すればするほど身体拘束の期間が伸びること。釈放されるためには、(たとえ無実でも)罪を認めるしかなくなってしまう。こうした“人質司法”は、世界的にも“簡単に身体拘束をしすぎではないか” “無罪と言えば言うほど釈放されにくくなるのは、問題ではないか”と指摘されています。」

たとえ無実でも、罪を認めるまで帰れない── こうした不当な取り調べは、『疑わしきは罰せず』の原則に反するのではないか。「そうです。そこが忠実になされていないです。大きな問題ですね。いつ自分が冤罪に陥るかが分からない。誰もが紙一重なんですよ。」

冤罪か否かが問われるケースとして話題に挙がりやすいのが痴漢事件だろう。日本では、映画『それでもボクはやってない』(2007)に衝撃を覚えた方も少なくないのではないか。(ちなみに趙先生は、「『それでもボクはやってない』はリアルすぎて、映画ではなく事例を観ているようだ」と言う。)趙先生は、「実際に僕が経験した痴漢事件でも、無事に無罪になった事件もあれば、間違いなく無罪だと確信できる事件でも有罪になってしまったケースもあります」と悔しさを滲ませる。

冤罪発生に拍車をかけるのが、日本独特の司法制度だ。たとえば日本の裁判の場合、すべての証拠を検察官が独占できるようになっている。つまり検察側は、自らに有利な証拠だけを法廷に提出し、逆に被告側に有利な証拠は隠しておくことができる。「無罪を証明できたはずの証拠が、検察庁の倉庫に眠ったまま有罪にされた事件もあるはずです」と趙先生は指摘する。

しかも、検察官が持つ証拠の収集には、税金が使われているもの。「つまり、本来は公にされるべきもので、被告人や弁護側だってアクセス出来るべき。最近では法律も変わって、開示請求が出来るようにはなっているのですが、現状はまだまだ不十分なんです。」

「プルーブン・イノセント 冤罪弁護士」インタビュー

正しき道を求めて

どうやら日本の司法制度は、今も正しき道を模索中であるらしい。例えば、ドラマ「プルーブン・イノセント」第1話に登場するルシアの(取り調べ中の)自白は映像に収められていたものとして登場するが、日本の取り調べでビデオ撮影(録音・録画)が実施できるようになったのは、2019年6月になってのことだという。そんなに最近なんですか、と驚いた。

「そうです。『取調べの可視化』と言うんですけど。取調室に入る時から出る時まで、ずっとカメラを回して、後から検証ができるようになりました。だけど、全ての事件で録音録画できるわけではなく、一部の類型の事件だけです。それでも、以前に比べれば無茶苦茶な取り調べは、少なくともカメラが回っている事件に関しては減っているのは事実でしょう。これは本当の自白ではないんだということが問題になって、法廷でビデオが再生されて、というケースも稀にあります。」

ところで、日米の裁判の違いについて趙先生が指摘することのひとつに、「一般の方の裁判への接し方」がある。

多くの場合、どうしても報道を通じてしか裁判を知る機会がない。報道記者は最初と最後の裁判しか取材に来ないんですよ。でも本来、裁判って様々な証言が出て、あらゆる情報を整理した上で判決が下されるものです。そのプロセスを見ずに判決結果を批判するのは、あまり良くないと思っていて。

法廷でどういう証言がなされていたのか、生の記録にインターネットなどでアクセスできれば良いと思うんですけど、現状はそうなっていない。アメリカでは、州によっては裁判にテレビカメラが入って中継しているところもあるらしい。だから一般の方もテレビで生の証言を聞けるんですよ。マスコミを通してではなく、自分で確かめることができる。日本では、なかなか公開のハードルが高い。だから報道が誤っていると、深刻な問題に繋がりかねない。」

裁判における報道のあり方は、常に深刻なトピックだ。実際、趙先生は新井浩文被告のケースでマスコミ報道の伝え方が適切ではないとして、「報道の威力はみなさんが想像しているよりも遙かに大きいものです。正しい報道をしていただきますようお願いいたします」と警鐘を鳴らしている

「(インターネットにおける)報道の恐ろしいところは、情報訂正が難しいこと。たとえ訂正記事を出しても、全然広まらないんですよね。」

趙先生も、ドラマ「プルーブン・イノセント」主人公マデリンも、正しい真実を求めて法廷で闘う。無事に無実の罪を晴らした瞬間は、弁護士として何ものにも代え難いものがあるという。「無罪になる事件って、無罪でなければおかしいという事件なんですよ。これは絶対に無罪だと思っていても、有罪になってしまうことの方がやっぱり多くて。その中で無罪になった時って、むしろホッとするというか。本当に良かったなと。嬉しいというか、安堵というか……。」

ちなみに趙先生自身も、「プルーブン・イノセント」のような海外の法廷ドラマは大好きだとか。「日本の法廷モノは、リアルさに欠けていて……。海外の法廷ドラマはよく観ています。弁護士として観ても、違和感なく楽しめる。ドラマの登場人物の弁論を参考にすることもありますよ。大事な裁判の前日に必ず観返すお気に入りのシーンもあって、イメトレに使ったりしています(笑)。」

「プルーブン・イノセント 冤罪弁護士」で描かれる冤罪事件は一話完結で展開。一方で全編を通して描かれるのが、マデリンの10年を奪った殺人事件の真相。陰謀を張り巡らせる検事官との因縁の対決がスリリングに描かれる。その中で鍵を握るのがマスメディア。マスコミを利用して世論を操るリアルな攻防戦にも是非注目して欲しい。

プルーブン・イノセント 冤罪弁護士
© 2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

「グッド・ワイフ」「クローサー」に続く新たな法廷エンターテイメント「プルーブン・イノセント 冤罪弁護士」(全13話)は、先行デジタル配信中。2019年11月13日(水)コンパクトBOX発売(¥4,752+税)。DVD vol.1-7 同時レンタル開始。クライム・サスペンスがお好みの海外ドラマファンにイチオシだ。

 

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER編集長。ライター、メディアの運営や映画などのプロモーション企画を行っています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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