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『リチャード・ジュエル』が突きつけるフェイクの恐怖 ─ イーストウッド「無罪を伝えたメディアは、非難したメディアよりもずっと少なかった」

リチャード・ジュエル
© 2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

『アメリカン・スナイパー』(2014)『運び屋』(2018)のクリント・イーストウッド監督最新作、『リチャード・ジュエル』が2020年1月17日(金)に日本公開を迎えた。

近年、実話に眠る“真実”を掘り起こす仕事を続けてきた巨匠イーストウッドが「いま我々の周りで起きていることとすごく似ている」と語る本作は、1996年のアトランタ爆破事件を描く実話サスペンス。人々を救ったはずの男が犯人扱いを受け、実名を報じられ、FBIの執拗な追及を受けるのだ。どうして、冤罪は生まれてしまったのか。

『リチャード・ジュエル』では、事件解決を急ぐFBIが、決定的な証拠なきままにプロファイリング捜査でリチャードを容疑者に仕立て上げていった実態が描かれる。イーストウッドは「FBIにはジレンマがあった。早く犯人を捕まえないと、オリンピックが中止になって資金が無駄になる。誰かを捕まえることが重要だったから、リチャードを捕まえたんでしょう」と推察する。

FBIのミスは、メディアによる拡散を受けて、あたかも真実のように世間へと広がっていった。“リチャードが爆弾犯なのだ”という世論が生まれてしまえば、一度定着したイメージを簡単に払拭することはできなくなってしまうのだ。

リチャードの無罪を伝えたメディアは、彼を非難したメディアよりもずっと少ないんです。人はすぐ忘れるもので、事件に深く思いを巡らせることはありません。“ああ、爆弾犯の話ね”と思い、記事を読み過ごすだけ。事件の真犯人は6年後に逮捕されましたが、最初の報道ほどは広がりませんでした。」

そこでイーストウッドは、「真実を明らかにすることで、実在する被害者に救いの手を差し伸べたい」と決意した。『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017)を観たイーストウッドは、リチャード役にポール・ウォルター・ハウザーを抜擢。リチャードの母親ボビは、ポールに会って衝撃を受けたという。「ポールがリチャード本人にあまりにもそっくりだから。その衝撃が落ち着いて、映画を作る意義を改めて感じてくださいました」。

リチャード・ジュエル
ⓒ2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

『アメリカン・スナイパー』で“史上最強の狙撃者”に、『ハドソン川の奇跡』(2016)で155人の命を救ったパイロットを描いたイーストウッドは、自身の扱ってきた実在の人々を「みんながそれぞれ違い、違うからこそ現実の英雄なんです」と語る。「それぞれに違う人間が、人生のなかで異なる困難に直面し、苦境に立ち向かっていく。それが英雄の共通点です」

リチャード・ジュエル本人は2007年に44歳で逝去したが、母のボビと弁護士のワトソンは、「映画を作ることを良いことだと思ってくれていた」という。「この作品はリチャードへのトリビュート」だと語るイーストウッドは、本作を通して「悲劇とはなにかを感じてほしい」とも述べた。

「物事が常軌を逸していき、そのことで多くの人間が苦しむことはあるものです。人は自分が非難を受けないようにと証拠を隠滅するものですが、それは正しいことではありません。」

御年90歳の巨匠は、『リチャード・ジュエル』を通して現代社会に継承を鳴らし、この時代を生き抜く勇気を語りかける。今こそ観るべき実話の“真実”を劇場で目撃してほしい。

『リチャード・ジュエル』

1996年、警備員のリチャード・ジュエルは米アトランタのセンテニアル公園で不審なリュックを発見。その中身は、無数の釘が仕込まれたパイプ爆弾だった。テロを未然に防いだことでジュエルは英雄視されるが、わずか3日後に状況は一変。FBIの捜査情報が流出し、地元メディアが「容疑者はリチャード」と報じたのだ。FBIによる捜査と連日の過剰報道で、ジュエルは名誉とプライバシーを奪われる。そんな中、リチャードの潔白を信じる弁護士ワトソンが立ち上がった。しかし、二人の前にはメディアとFBIという2大権力が立ちはだかり……。

リチャード・ジュエル
ⓒ2019 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED, WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

英雄から一転して凶悪犯扱いを受ける男リチャード・ジュエルを演じるのは、『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017)のポール・ウォルター・ハウザー。母親ボビー役をオスカー女優のキャシー・ベイツ、ジュエルの無実を信じる弁護士ワトソン役を『スリー・ビルボード』(2017)でアカデミー賞助演男優賞に輝いたサム・ロックウェル、リチャードを追い詰める記者キャシー役を『her/世界でひとつの彼女』(2013)のオリヴィア・ワイルド、刑事役を『ベイビー・ドライバー』(2017)のジョン・ハムを演じる。

映画『リチャード・ジュエル』は2020年1月17日(金)より全国公開中

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THE RIVER編集部THE RIVER

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