『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』撮影中もストーリーが決まっていなかった ─ キーアイテムも結末も「未定」衝撃の製作秘話

『ミッション:インポッシブル』シリーズの最高傑作ともいわれる『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』(2015)は、その完成度とは裏腹に、過酷な製作過程を経て完成した作品だ。米国公開の6ヶ月前にあたる2015年2月下旬、脚本・監督のクリストファー・マッカリーや主演のトム・クルーズらが結末に満足しておらず、内容を改善するため撮影を中断していると報じられたのである。
しかし、実際の撮影現場はそれどころではなかった。本作でマッカリー監督やトムたちは、撮影しながら脚本を固めるという独自のスタイルを採用。製作トラブルではないものの、“撮影中も展開がぜんぜん決まっていなかった”のである。映画の終盤、トム演じるイーサン・ハントがロンドンのカフェを訪れ、サイモン・ペッグ演じるベンジー・ダン、レベッカ・ファーガソン演じるイルサ・ファウストとテーブルを囲むくだりは、そもそも当初の脚本には存在しなかったもの。米Cinema Blendにて、ペッグは「製作中も結末は常に変化していきました」と語っている。
「最初に脚本をもらったんですが、クリス(マッカリー監督)の中では、“脚本家”のクリストファー・マッカリーと、作りながら結末を見つけたがる“監督”のクリストファー・マッカリーが対立しているんですよ。だから撮影がずいぶん進むまで、結末がどうなるかはわからなかった。」
もっとも、サイモンは「あらかじめ脚本に書かれていたものより、自然に生まれたものをやるほうが良いと全員で決めたんです」と語っている。いったい、それはどういうことか。「怖い作り方だったけれど、ちゃんと映画のためになったと思う」という壮絶な舞台裏は、ブルーレイに収録されたマッカリー監督&トムの音声解説で詳しく語られている。

「展開にあわせてセリフを変えた」「本作で学んだことのひとつは、物語の説明部分は後から変えられるということ」。笑いながら監督が語るエピソードの数々は序盤からおそろしい。たとえば、ペッグ演じるベンジーの登場シーンを撮影する時点で、まだ二人はストーリーの展開を練っていたのだ。アレック・ボールドウィン演じるハンリー長官にベンジーが呼び出されるくだりで、ハンリーはベンジーに資料を投げてよこすが、引きの画でハンリーが投げている資料の小道具はフェイク。「中身は重要だが、後から撮る。記事の見出しや写真、人の顔、すべて決まっていないから、物語を構築するうえで大きな要素から撮り、本筋が固まってから細部を詰めていく」。
そればかりではない。ある場所でイーサンとベンジー、イルサが話すシーンでは、3人の見ているスクリーンに何も映っていなかった(のちに合成)とか、キーアイテムとなるUSBメモリの中身を決めていなかったとか、それゆえジェレミー・レナーやヴィング・レイムスらも含めた俳優陣も機密情報の正体を知らないままセリフを喋っているとか、とある俳優に「このセリフの意味は?」と聞かれた監督が「未定だけど重要なセリフ」と答えたという逸話さえある。
さらには、水中セットのデザインは決まっていたが本編でどう使うかは未定だった、状況説明のシーンを撮ったが使い方は決めていなかった、ロケ地は決めていたが展開と出演者は撮影の数日前までわからなかったなど、映画の後半になればなるほど、とんでもないエピソードのオンパレード。もちろん、ここに挙げたものは全体のごく一部だ。「うそでしょ…」と唖然としてしまう話題が出てこないシーンのほうが少ないので、気になった方はぜひブルーレイで音声解説を堪能してほしい。
ちなみにサイモンが例に挙げた、イーサンとベンジー、イルサの3人がカフェのテーブルを囲むシーンは、撮影当日の朝に脚本が書きあげられたとか。膨大なセリフ量を覚えきれなかったトムが、実はサイモンの持っているカンペを読んでいたというウラ話もある。

ところで、どうしてこのようなことになったのか。米Deadlineでマッカリーが語ったところによれば、もともと本作の脚本はクレジットされているドリュー・ピアースが最初に執筆したが、ピアースは別のプロジェクトのため離脱。そこでマッカリーが改稿に入ったが、「細かい部分を変え始めたら連鎖的にすべてを変更することになり、ほぼ一から脚本を開発し直すことになった」というのだ。結末が決まらなかったのも、そうした経緯のためだった。
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