トイザらス潜伏強盗実話『Roofman』レビュー ─ チャニング・テイタムが「いいやつ」犯罪者、世界仰天の逃亡劇

(カナダ・トロントから現地レポート) アカデミー賞の前哨戦として注目を集めるトロント国際映画祭(TIFF)が、現地時間9月4日から開催中だ。数々の話題作が上映される中、チャニング・テイタム主演のクライム・コメディ『Roofman(原題)』がプレミア上映を迎えた。実在の強盗犯ジェフリー・マンチェスターによる“驚きの逃亡劇”を描くという風変わりな注目作だ。
2004年、元アメリカ陸軍予備役兵士のジェフリーは刑務所を脱走。その後、なんとトイザらスの店舗に潜伏し、6か月間も店内で暮らしていたという“まさかの実話”が映像化された。強盗犯でありながら、どこか憎めず親切でもある人物像を『21ジャンプストリート』(2012)など多くのコメディ作品に出演してきたチャニング・テイタムが好演している。
彼と恋に落ちるシングルマザーのリー役には、『スパイダーマン』シリーズで知られるキルステン・ダンスト。さらにピーター・ディンクレイジ、ラキース・スタンフィールドら実力派が脇を固めている。メガホンを取ったのは、『ブルーバレンタイン』(2011)『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』(2012)などで知られるデレク・シアンフランス監督。
物語の舞台は、2000年代初頭の北カロライナ。幼い娘ベッキーと生まれたばかりの双子の息子を養えずに苦しむジェフリーは、マクドナルドへ屋根から侵入し、強盗を繰り返していた。その手口から「Roofman(屋根男)」と呼ばれた彼は、なんと45店舗以上を襲撃。しかし、ベッキーの誕生日パーティーに警察が現れ、逮捕される。
1999年に重武装強盗罪と誘拐罪で45年の刑を宣告されたジェフリーだったが、2004年に脱獄に成功。逃亡先に選んだのは、意外にも玩具量販店の「トイザらス」だった。閉店後には監視カメラを切り、M&Mを盗み食いしながら日々を過ごすジェフリー。やがて彼は店員のリーに惹かれ、彼女が通う教会に足を運ぶ。教会の人々とも交流を重ね、リーとの恋も始まり、二重生活を送るようになる。
最大の見どころは、チャニング・テイタムの全力を注ぎ込んだ演技だ。冒頭のマクドナルド強盗シーンでは、冷蔵庫に店員を閉じ込めながらもジャケットを貸す“妙に親切”な姿に思わず笑ってしまう。さらに、ぬいぐるみを抱え、ローラーシューズで徘徊したり、トイレでシャワーを浴びたりと、トイザらスでの奇妙な日常はコメディのようで、笑いを誘う場面が盛りだくさんだ。一方で、娘を愛し必死に父親であろうとする姿には胸を打たれる。
この暮らしが持続不可能なのは明らかだ。それでも観客の目を釘付けにするのは、彼が法を犯していても、なぜか“悪人”とは思えないからだ。実際のニュース映像や関係者の証言では、「彼はいいやつだった」というコメントも。ここまで魅力的に描かれる犯罪者は珍しい。
さらに注目すべきはチャニングの役作り。米Varietyのインタビューで、彼はこの役のために約70ポンド(約32kg)の減量を敢行したと語っている。撮影中も体重は減り続け、キャラクターが抱える「空虚さ」や「孤独」にまで自らを重ねたそうだ。「満たされたい」という欲求を表現する過程は、“リアルな瞑想”のようでもあったという。
本作は2025年9月6日にTIFFでワールドプレミアを迎え、Rotten Tomatoesでは批評家スコア84%と高評価を獲得(9月10日時点)。犯罪者の繊細な心情と人間性を描きつつ、笑いと感動が混ざり合った良作に仕上がっている。北米では10月10日から劇場公開予定。日本での公開は現時点で未定となっている。