美しき独裁者?人と話し合いたくなる映画『シークレット・オブ・モンスター』レビュー
11月25日に公開された、ブラディ・コーベット監督による映画『シークレット・オブ・モンスター』。
奥行きを感じさせる廊下に1人で佇む美少年のポスター。天使のようなかわいらしさだけれどその顔はにこりともしておらず、子供らしい生気も感じさせません。
「いかにして美少年は独裁者へと変貌をとげたか」”美少年”と”独裁者”という全く異なる2つのキーワードが結びつけられていることに心惹かれ、観に行ってまいりました。
「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミ監督がひれ伏したと言われているこの”心理サスペンス(!?)”作品について、考察したいと思います。(少々ネタバレを含みます。)
『シークレット・オブ・モンスター』ストーリー
舞台は1918年、ベルサイユ条約締結を目前に控えたフランス。アメリカの政府高官の父と信仰深い母親を親にもつ美しい少年、プレスコット。終始不可解な行動を繰り返すプレスコットは、大人を困惑させてばかり…そしてついにベルサイユ条約が調印された夜、プレスコットの中の”何か”が目覚める。
本作は”独裁者”が誕生するまでを描いた物語です。時代背景についてはまた後で詳しく見ていきたいと思います。
音楽と映像、構成
オープニングからずっしりと心に刺さる不協和音が鳴り響き、一気に心を奪われました。それもそのはず、「シークレット・オブ・モンスター」の音楽を手がけたのは元” ウォーカー・ブラサーズ”のボーカル、ソロとしても活躍したスコット・ウォーカー。彼の音楽がこの映画の陰鬱さ、重苦しさ、作品の中に潜んでいることを予感させる”恐ろしい何か”をよく表しています。
映画の始まり方、そして4つの章に分けられているストーリー構成、詩的な章のタイトルは「二ンフォマニアック」や「メランコリア」を思い出させました。監督したブラディ・コーベットは「メランコリア」に出演している俳優ですのでなんだか納得。
映像もこの「美しい後の独裁者」を表しているかのような キューブリック映画のようにシンメトリーで、秩序的で、それでいて冷たくがらんどうな印象を与えるもの。絵画の写真集にページを1枚1枚まくっているかのような映像は、観ていてとても引きこまれてしまうものと思います。
本当にモンスター…?
邦題『シークレット・オブ・モンスター』。この美少年がどんな恐ろしい内面を隠し持っているんだ!どんなヤバいことをしてくれるんだ!と期待を(どんな)していったのですが、観終わった後は「この子別にモンスターではないんじゃ…?」という印象。
主人公の少年、プレスコットの父親は政府の仕事で忙しく、プレスコットにも愛情を注ぐというよりは父親の威厳を保つことに必死。”俺の言うことに従え!”と家族を”独裁”したがるお父さんです。
母親はといえばとにかく信仰熱心。彼女もまた、底知れぬ悩みや自分の”人生への諦め”を抱えているように感じます。
“仲の良い母親と娘”だと、まるで女友達のように一緒に買い物に出かけたり、恋の話をすることがあるでしょう。逆に”そんなに仲が良くない母親と娘”だと、親子というより”気に食わない同性”として見てしまうことがあるかもしれません。今回は描かれているのは母と娘ではなく、母と息子でしたが”気に食わない人間対人間”という関係のように見えました。
大人になるとだんだんと薄れていく幼少期の思い出ですが、その頃に感じた感情や経験は たとえ記憶から無くなってしまっても 自身の脳に刻みこまれていると思います。多感で大人が思っているより複雑、愛情を一身に受けたい年頃の時に 1番愛を注がれたい両親に自分への理解を示しもらえないとしたら…だからプレスコットのことを”モンスター”とくくってしまうのは少し違うのではないのかと。
「シークレット・オブ・モンスター」を一家族の話として捉えると、そのような考えを抱きました。
この物語の時代背景
次はこの作品の時代背景について触れてみたいと思います。
第一次世界大戦後、イギリス、フランス、ロシア、日本、アメリカの連合国と 敗戦国であるロアの間で結ばれた講話条約”ベルサイユ条約”。多額の賠償金や、全ての海外の領土や植民地をとりあげるなどとした 敗戦国のドイツにかなりの重い内容となっています。このベルサイユ条約は後に発足したヒトラー政権によって破られ、第二次世界大戦へと繋がっていくこととなります。
この作品で印象深かったのは”異端なものは排除しよう”としたり”自分の意思に周りの者を従わせよう”としたり”従わない者からはその者のものを奪ってしまおう”とする大人たちの考え方。
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