ハリウッドの日本描写、いかに間違っていたか ─ 「SHOGUN」海外プロデューサーが語る「これまでの過ち」と「日本への希望」【ロングインタビュー】

──そもそもこの企画がいかに実現したのかについて、興味があります。このドラマは7割近くが日本語で話されるわけですが、日本というマーケットは、そこまで大きくない気もします。スタジオにとっては、従来通り、英語圏の視聴者に向けて、英語のドラマを制作する方が、簡単ですし、安全なことだったと思います。そこでスタジオは、いかにしてこのリスクを取ったのでしょうか?
レイチェル:素晴らしい質問ですね。
ジャスティン:今の世の中は国際的になりました。その点で言うと、アメリカの観客は、これまで見たことのないような物語を渇望しています。そしてここ数年、必然的に、アメリカの観客だけなく、世界中の観客に訴求できる物語を探すため、日本や韓国、そのほかの国にもっと手を伸ばすようになったと思います。
日本は、私たちの見積もりでは、非常に大きなマーケットです。日本では、視聴者のビューワーシップや情熱が大きいんです。私は映画を尊重する文化に惹かれるのですが、日本人は映画を愛していますね。アメリカ人が映画を愛するのと同じように。そこに惹かれますし、そういった文化のために物語を語りたいと思わされます。
そして、かつて原作小説がアメリカ文化に与えたインパクトが非常に大きかった。だからこそスタジオは、そのリスクを取ったのだと思います。

レイチェル:FXスタジオの幹部であるジョン・ランドグラフとジーナ・バリアンは、この企画に10年も取り掛かってくれました。10年もの間、この企画を信じ続けてくれたのです。とんでもないことです。
私たちが参加したのは5年前のことですが、それまでに彼らは少しずつ企画を前進させていたのです。正しい形でやれるまで、絶対にやらないと。何かが違っていたら、戻ってやり直すのだと。
ジャスティン:この原作小説は、1970年代と1980年代前半のアメリカに重大な影響を及ぼしました。それまでのアメリカ人は、日本文化についてほとんど何も知らなかったんです。当時は全く無知でした。しかし、この小説が、たくさんの人を開眼させることになった。今となっては、アメリカではどこに行ってもお寿司屋さんがありますが、当時は新しいものだったんです。
そして、この本が発売された時と同じような真新しさを、もう私たちは享受することができません。私たちにできることは、同じようなインパクトを、今の私たちにもたらすことができるだろうか、と考えることでした。このグローバル社会において、日本文化は明らかに日常に浸透していますからね。
この物語を伝える最善の形は、お互いをどう見るのか、お互いとどう出会うのか、自分自身とどう出会うのか、そして異文化と出会ったときに、異なる文化の中にどう帰属するのか、あるいは帰属しないのか、そして純粋に、敬意を持って互いの文化を受け入れ合うかについてを語ることです。(相手や相手の文化を)コントロールしなくてはいけない、と考えることなしにです。こうした考え方は、今の社会にすごく重要なことだと思います。

レイチェル:(原作小説から)40年、50年後の私たちが、物語をアップデートしよう、より現代的にしようとするのは興味深いことです。しかし私たちがしたことは、同じ疑問を考え、現代的なレンズを通じてそれに答えようとしただけです。原作者は本書の中で、当時からこうした問いかけをしていました。異文化の出会いにどのような意義を見出すのか?お互いの違いについてを学び、好奇心や敬意を持つことは、どれだけ重要なことなのだろうか?ということ。そして、違いこそが重要なのだ、ということです。
ジャスティン:ここまで私たちは、本作が日本のプロデューサーや日本人俳優、日本人アドバイザーやスタッフとのコラボレーションであることをお話ししてきました。しかし同時に、本作はあくまでもハリウッド作品であるということも自覚しています。本作をもって、私たちの業界がこれまで世界中の物語を語る上で犯してきた過ちを改善できたことを願っています。

このドラマが、アメリカや日本だけでなく、世界中で成功すれば、それはすなわち、世界中の観客がもっと多くの日本の物語を、できれば日本のフィルムメーカーによるものを望んでいるのだということでしょう。おこがましい言い方になってしまいますが、視聴者として、私もそれを求めています。
私たちは、日本の物語が、世界水準のスケールで語られることを望んでいます。ソファに座ってテレビをつけたら、日本の作品が流れているような状況になって欲しい。グローバル化した社会の中で、もっと多くの日本の物語が、世界に羽ばたいて欲しいと願っています。
レイチェル:日本人俳優についてもそうです。彼らも世界的な存在になってほしいです。真田さんがアメリカで有名になったように。日本の役者たちは、本当に素晴らしい。あんなに素晴らしい役者たちがいたなんて、私たちは知らなかったんです。
ジャスティン:彼らは、私たちにとって新鮮でした。真田さんはお馴染みの俳優ですが、若い役者たちに驚かされました。向里祐香、穂志もえか、金井浩人、阿部進之介、他にも……。アメリカ人の私たちにとって、彼らは新しい存在なのです。

──ありがとうございました。本当に素晴らしいドラマでした。こんな素晴らしい作品を作ってくれてありがとうございます。
レイチェル:こちらこそ本当にありがとうございます。思慮深い質問をありがとうございました。
ジャスティン:あなたの質問内容は、僕たちとって意義深いものでした。この瞬間を、5年間待ち侘びていました(笑)。ありがとうございました。

「SHOGUN 将軍」は2024年2月27日(火)より、ディズニープラスの「スター」にて独占配信。全10話のリミテッドシリーズ。初回は2話配信、その後毎週1話ずつ配信。最終話は4月23日(火)配信予定。
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