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最高かよ!大傑作『シング・ストリート 未来へのうた』が素晴らしい6つの理由

『ONCE ダブリンの街角で』や『はじまりのうた』などで、音楽とドラマを見事に融合させたジョン・カーニー監督。

彼の最新作『シング・ストリート 未来へのうた』は完璧な青春映画に仕上がった。

『シング・ストリート 未来へのうた』あらすじ

舞台は1985年のアイルランド、ダブリン。不況により失業中の父親と、崩壊寸前の両親の関係は少年コナーを悩ませていた。家計のために荒れた公立高校に転校させられたコナーだが、転校先の高校では、いじめや校長のいびりに悩まされることになる。コナーにとって唯一の楽しみは、兄と一緒にミュージックビデオを見ることだけだった。

そんなある日、コナーは学校の向かいに住む美少女ラフィーナに声をかける。彼女の気を引くために、自分たちのバンドのMVに出てくれと出まかせを言うコナー。急ごしらえのバンドを結成したコナーは、オリジナル曲を演奏することにして、無事にラフィーナをMVに出演させる。ふたりの仲は縮まるが、ラフィーナには彼氏がいた。ラフィーナはコナーにアイルランドを出てロンドン行くことが夢だと告げるが……。

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【理由1】音楽が最高

ジョン・カーニーの他の作品同様、『シング・ストリート』も多くのオリジナル曲が登場する。しかも、それがどれもこれも良いのだ。コナーの心境を反映させた歌詞は厨二感満載で、その背伸びした感じがどうしようもなく観ているこちらの胸を締め付けてくる。

ストレートにラフィーナへの想いを綴ったバラードも、切なさのあまり卒倒しそうになる出来栄え。他の作品でもそうだったが、ジョン・カーニー監督作品はオリジナル曲が素晴らしすぎて、理性をぶっ飛ばしてしまうからズルい。

だって、どう見てもダサいのはずなのだ。圧倒的にダサい。

ダブリンの田舎だし、お金はないし、最初は特にイモくさいし、歌詞だって厨二病感満載だし、ギターはウサギに夢中だし、これでもかと”ダサさ”を畳みかけてくるのに、オリジナル曲を奏で始めた瞬間、すべてが”カッコイイ”に変わってしまう。ジョン・カーニーは心の底から音楽の力を信じているのだろう。

そして、エンディングでは『はじまりのうた』に出演していたmaroon5のアダム・レヴィーンが歌う『GO NOW』が流れる。得意のハイトーンを駆使した超絶テクニックを封印して、敢えて絞り出すように訥々と歌うアダムの歌唱は、胸に響く。

【理由2】コナー役のフェルディア・ウォルシュ・ピーロが最高

主人公コナーを演じるのは、オーディションで選ばれたというフェルディア・ウォルシュ・ピーロ。この少年がまた、バツグンのキャラクターで輝いている。

ぷっくりと膨らんだバラ色の頬に、あどけない表情。ガリガリでもムキムキでもない、ややぽっちゃりめの中肉中背スタイル。不良っぽさが微塵もない平凡オーラ。

登場したときはこんな↑感じなのだが、バンドを組んで自信をつけていくと、奇抜なファッションになっていき、どんどんと個性が出てくる。しかし、”みちがえるほどカッコよく”なるわけではない。(よく泣いちゃうし)

しかし!ラフィーナを見つめるとき、ボーカルとして歌うとき、瞬間的にゾクっとするほどセクシーになるのだ。その、”イモ”と”セクシー”の振り幅が凄い。とにかく凄い。

また、ボーイソプラノで歌っていたという経験に裏打ちされた安定感のある歌唱も魅力的。”敢えて崩してる感”が堪らない。

ギターと作曲を担当するエイモン役のマーク・マッケンナも良い。少年らしからぬ低い声と、思慮深そうな引いた眼差しがキラリと光る。(マザコンな感じも、ウサギ好き設定も良い)

とことんダサい中に、絶妙なスパイスを効かせてくるこの感じ。『ONCE ダブリンの街角で』『はじまりのうた』でもそうだったが、ジョン・カーニーには性的魅力に対する天性の勘が備わっているに違いない。

【理由3】80年代のブリティッシュミュージックがいっぱい出てきて最高

もはやここで指摘するまでもないが、『シング・ストリート 未来へのうた』には様々な懐かしい音楽が登場する。

デュラン・デュラン、ザ・キュアー、ザ・クラッシュ、ザ・ジャム、ホール&オーツ、a-haなどなど、当時のブリティッシュミュージックが目白押し。ちょっと奇天烈なあの時代のMVも登場するし、いま40代の元音楽少年だったら、懐かしさのあまり泣いてしまうのではないだろうか。

筆者は1979年生まれなのでやや外れた世代なのだが、きっとジェネシスに関しての会話など、ど真ん中世代だったらニヤリとするネタも満載なのだろう。

【理由4】ミュージカルのへオマージュが出てくるのも最高

当時のブリティッシュミュージックが登場しまくる一方で、ミュージカルへのオマージュと思わせるシーンがちょいちょい挟まれているのも面白い。

まず、ラフィーナの登場スタイルは『グリース』のオリビア・ニュートン=ジョンを彷彿とさせるし、アメリカのプロムをモチーフにしたMV撮影での妄想部分は、そのまま『ヘアスプレー』(1962年のボルチモアが舞台)あたりの雰囲気だ。妄想の途中で現れる兄ブレイダンは『ウェストサイド物語』ルックだし、決闘シーンまで再現される。

『カッコーの巣の上で』へのオマージュだけに留まらない、多種多様な遊び心が嬉しい。

【理由5】ジョン・カーニーが描く恋心は最高

個人的に、ジョン・カーニーの描く恋愛が大好きだ。『ONCE ダブリンの街角で』では音楽を通して心を通わせたし、『はじまりのうた』で耳に片方ずつイヤホンをはめてNYの街を彷徨うシーンは、どんな濃厚なラブシーンも遠く及ばないほどロマンチックだった。

ジョン・カーニーは直接的な性的表現はしない。直接的な台詞すら使わない。それなのに、人間の心と人間の心が触れ合ったときの、奇跡のような化学反応を巧みに切り取ることができる。

『シング・ストリート  未来のうた』でも同じだ。ラフィーナに一目惚れしたコニーだったが、本当の意味で彼女に恋をしたのはそこではない。MV撮影で海に飛び込み、「やるからには中途半端ではだめ」と言ったらラフィーナに恋をしたのだ。スクリーンには、人が本物の恋に落ちる瞬間が映し出されていた。

【理由6】青春って最高

『シング・ストリート 未来のうた』は結局のところ、純粋なる青春映画だ。兄の夢を託された少年が、成長して旅立つというシンプルな物語。そこにあるのが”GO NOW”というシンプルなメッセージだからこそ、こんなにも心が揺さぶられるのだ。

女の子に好かれたいという理由だけでバンドを組み、一気にのめりこんでいくコニーたちは眩しい。ただ単純になにかに熱中できたあの頃が、誰かとの関わりで地球が滅んでしまうような気がしたあの頃が、ひたすら懐かしく思い出される。

“青春”を完璧に切り取った、完璧な”恋愛”映画。しかも、極上の音楽つき。これ以上、映画になにを望むことがあるだろうか?『シング・ストリート 未来へのうた』最高かよ!

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umisodachi

ホラー以外はなんでも観る分析好きです。元イベントプロデューサー(ミュージカル・美術展など)。

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