【ネタバレ解説】『スプリット』スリラー・ホラーというジャンルの背後に隠された裏テーマとは

5月12日(金)に公開された、M.ナイト・シャマラン監督による待望の新作『スピリット』をご鑑賞された方は、その驚きの結末に思わず開いた口が閉まらなかったはず。毎度“どんでん返し”に定評があると謳われる監督だが、今作でもその才能を思う存分に発揮し、まさに“復帰作”とファンの間で賞賛されている。
さて、今作における“どんでん返し”だが、それはあのラストシーンであったのだろうか?私には、あの人物の登場以外にこの映画のテーマ性における“どんでん返し”があったように思えるのだ。
【注意】
この記事には、映画『スプリット』に関する重大なネタバレ内容が含まれています。
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ケヴィンの患う解離性同一障害と、生み出された23人格
そもそも、この映画における誘拐犯であるケヴィンについて考えてみたい。彼は解離性同一障害(DID)を患っていて、元となるケヴィンの他に23人もの人格を有している。
この解離性同一障害とは、所謂“多重人格”として知られており、原因は主に幼少期のトラウマだといわれている。
この病に関して知識のない人が、それを目の当たりにすれば思わず演技だと疑ってしまうだろう。映画の中でも、誘拐された3人組のうちの2人が「自分たちを怖がらせているだけだ」と怯えていた。しかし、今作の主人公であるアニャ・テイラー・ジョイ演じるケイシーは「どうやら演技ではなさそうだ」という事に勘づいていた。
「信じる」という精神的な行為が、肉体に影響を与える

この解離性同一障害だが、劇中にもケヴィンの主治医であるフレッシャー先生のテレビ電話学会でのシーンで挙げられている患者の症例は全て実在のものに基づいていると、監督は語っている。ある一人格は失明していながらも、他の人格に切り替われば再び目が見える。また、ある一人格が持っているアレルギーを他の人格は持っていないということ。
これらから提示されるのは、「潜在意識が信じるものが、身体的にそれを可能とさせる」ということ。コレステロールの高い人格は「自分はコレステロールが高い」と信じている。しかし、母体となっている元人格、又は他人格はそんな意識を全く持っていないためその症例を持っていないのだ。
シャマラン監督はこの定義を用いて、簡潔に述べると今作で「人は信じれば何にでもなれる/できる」というメッセージを我々に送っているのではないだろうか。
これは、ヒロインのケイシーというキャラクター設定にも繋がってくる。
ケイシーという少女
ここで今作の主人公であるケイシーについて振り返ってみたい。彼女はクラスメイトが善かれと思って誕生日会に呼んだ、一匹狼だ。どうやら普段、学校で突然怒って叫んだりする問題児のようだ。しかし、彼女は誘拐されたものの中で最も聡明な少女である。何故そんな子が問題児で除け者になっていたのか?
それは彼女自身が独りになりたいと望んで“わざと”していた事だったのだ。誘拐された後も、皆一緒に力を合わせましょうよと、普段から別に友達ってわけでもないのにこんな時だけ仲間面した2人の少女に対して、「leave me alone.(一人にさせて)」と意思を貫いた辺、相当かっこいい。
そして一番最初にデニスが潔癖性であるのを見抜いて、連れて行かれそうになった友人に「おしっこをかけろ」とアドバイスをした、その洞察力の高さも素晴らしい。これは恐らく、彼女が幼少期に父と叔父に連れられて森にハントをしに行っていた時に培われたものだろう。その成果はクライマックスであるビーストとの対決での銃の扱いにも表れていた。
だが、彼女も決して強いわけではないのだ。気転のきく彼女でさえ、最初デニスが車に乗ってきた時誰よりも異変に気づいたのに涙を流して竦むだけだった。得体が知れず自分にとって危害のある存在だと感じたデニスを、ずっと信じていたのに変貌した叔父と重ねて見たのではないだろうか。