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【解説レビュー】かつての世界を超えろ!多民族共生の平和と理想を描く『スター・トレック BEYOND』

10月21日からリブート版シリーズ第3作『スター・トレック BEYOND』が公開されました。残念ながら夏に公開されたアメリカ本国では期待されたほどよい結果は残せなかったようで、日本公開を待つ間、ちょっと不安も感じていました。
しかし、そんな不安は無用でした。成長したクルーたちの活躍を素直なストーリーとアクロバティックな映像にのせて描く大娯楽作です。非常に楽しめました。その素晴らしさについて、一つずつご紹介したいと思います。ストーリー全体のネタバレはありませんが、細かいシーン内容について触れる箇所があるためお気をつけください。

【注意】

この記事には、映画『スタートレック BEYOND』に関するネタバレ内容が一部含まれています。

大きく成長し、逞しくなったクルーたち

リブート版シリーズもいよいよ3作目。第1作『スター・トレック』と比べるとUSSエンタープライズ号のクルーたちは大きく成長し、逞しくなっています。

酒場で酔って暴れまわるような荒くれ者だったカークも今や経験豊富な船長です。たくさんの船員の命を預かり任務を遂行する平和の使者としての責務に燃えています。すっかりオトナになった感があり、暴走するような人間ではもはやありませんが時として大胆な作戦を選びます。普通ならばしないであろう斬新な判断を、経験と知識と勘に基づき、確信を持って行います。クルーに対する責任を自覚した上で勝利を信じて決断するのだから、決して無茶ではありません。あくまで大胆なのです。3作目にして魅力ある船長へと成長しました。

スポックもそんなカークと彼に従うクルーたちに全幅の信頼を寄せる船長の良き相棒です。冷静で理性的な分析を得意としつつ、既成の枠にとらわれないカークの野生的な指揮も必ず成功するものとして信頼しています。ユーモアに欠ける性格もまた逆説的にユーモラスで、クルーとの掛け合いが楽しみなキャラクターでもあります。

また彼のガールフレンドであるウフーラもメインメンバーの中で紅一点、仲間を信じてひたすら自分の役割に徹する貴重な戦力として活躍します。

医師のボーンズはこれまで以上にカークに振り回される不憫なコメディ担当ですが、その分だけ、やる時はキッチリやる格好良さが光ります。

操縦士のスールーは男のパートナーと娘のいるゲイという新しい設定が明かされました。大切な家族を愛する戦士としてその顔つきもよりいっそう勇ましく見えてきます。非常事態時、カークとスポックにコックピットの全権を任されてキャプテンの席に座る彼が個人的に好きだったりします。いつも以上に責任感と緊張を漂わせた表情へ切り替える瞬間に燃えるのです。

チェコフはチームでいちばんの若手です。少々未熟な部分も残しつつチームの弟分として可愛らしい魅力を放ちます。演じたアントン・イェルチンは事故で急死したため、彼のチェコフはこれで見納めです。それを知ってて見ているから、彼の登場シーンは時に切なく、映画が終わりに近づくにしたがってチェコフとのお別れが近いこともわかってしまい、悲しい気持ちになりました。

最後の紹介になりますが、エンジニアのスコッティはとてもお茶目で可愛らしいおじさんとして愛嬌を振りまきます。もはやマスコットです。演じたサイモン・ペグは脚本も務めており、『BEYOND』全体の明るくハイテンションな雰囲気に大きく寄与しているでしょう。

そんな彼らがひとつの船に集ったとき、類まれなる才能と経験と知識を活かし、困難に立ち向かう強い力を得られるというのが非常に燃えるポイントです。本作はこれまで以上にチームワークが強調されており、どの任務シーンも堪らなく格好良いものになっています。

多様なUSSエンタープライズ号のクルー構成

ここまで各クルーのキャラについて考えてきましたが、すこし目線を引いてチームのメンバー構成をみてみると、非常に多種多様な組み合わせであることがわかります。カークとボーンズはアメリカ人、ウフーラは詳しくは不明ですがアフリカ系、スコッティはイギリス人、スールーは日本人の血が入ったアジア系、チェコフはロシア人です。彼らは全員純血地球人ですが、スポックはバルカン人の父と地球人の母を持つハーフ、正確にはUSSエンタープライズ号のクルーではないものの、途中から冒険に加わるジェイラもまた白い肌をしたエイリアンです。

ジャスティン・リン監督は台湾出身のアジア系のクリエイターです。5歳のときに家族でアメリカに移住したとき、多国籍のクルーが一致団結して冒険するスタートレックの世界に魅了され、大いに勇気をもらったそうです。『BEYOND』にはそういう原点があります。つまりUSSエンタープライズ号のクルーたちが見せる疑似家族的連携はリン少年が熱中した多元主義社会の象徴なのです。実はこれと結びつく重要な設定がもうひとつあります。宇宙基地ヨークタウンです。

平和の象徴、ヨークタウン

宇宙空間に浮かぶ惑星連邦の基地、それがヨークタウンです。高度に発展した文明の技術で築かれた大都市は極めてユートピア的に、圧倒的な情報量をもって描かれています。特に行き交う人々の姿に注目してみると、一人として同じ見た目の人はいません。宇宙の様々な領域からやってきた異なる見た目の人々が、なに不自由なく楽しげに暮らしています。惑星連邦という存在、それからその前線基地としてのヨークタウンは、多民族共生の理想を突き詰めた究極的なゴールと言っても過言ではありません。

すべての人が手を取り合って築き上げる”明るい未来”

USSエンタープライズ号とヨークタウンは惑星連邦という中心点で繋がり、『スター・トレック BEYOND』の掲げる理想であり基盤、そして最重要テーマである「多民族共生で築き上げる明るい未来」に収斂します。この楽観的な未来イメージこそスター・トレックに欠かせない魅力ですが、本作ではストーリーの核に直結していると思います。これまではカークの成長や、カークとスポックの友情といったパーソナルな問題に終始していました。ここにきてよりスケールを拡大した普遍的なテーマに踏み込んでいると言えるでしょう。お互いを認め合い、ひたすらに平和を祈り続けることで完成されるユートピアがスター・トレックにはあります。

今回のヴィラン、クラルはそんな惑星連邦のあり方と対置されており、とある理由から怒りに燃えて侵略行為に走る凶悪なテロリストです。そんな彼にカークは「俺たちは平和を信じる時代に生まれた。だから争いなんて望まない。」と言い放ちます。争いや対立ではなく、協調を信じる人にこそ明るい未来は開けるのだという、あまりに繰り返され過ぎて陳腐だけど、現実に目を向ければ切実に心に響く、力強いメッセージが本作には込められているのです。

もちろん、本作の魅力はそれだけではありません。工夫溢れるギミックで飽きさせないアクションシーンや軽妙な会話、オールドリスペクトなガジェットやポップミュージックの使い方など、ほかにも素晴らしいポイントはたくさんあります。残念ながら、先週の興行収入はランキング初登場4位と芳しくありませんでした。こんなの勿体無い!と思っています。どんどん劇場に足を運び、クチコミを広げて、スター・トレック50周年を盛り上げていきましょう!

 

Writer

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トガワ イッペー

和洋様々なジャンルの映画を鑑賞しています。とくにMCUやDCEUなどアメコミ映画が大好き。ライター名は「ウルトラQ」のキャラクターからとりました。「ウルトラQ」は万城目君だけじゃないんです。

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