【解説】なぜ『スター・トレック BEYOND』最大のハイライトでビースティ・ボーイズ『サボタージュ』が流れるのか?

我慢できないぜ

おまえの画策はバレている

このウォーターゲートをはっきりさせよう

ここにいるとじっとしていられない

おまえの水晶玉はもう濁っているからさ

おまえがバカやっている間に

俺は逆境を味方につけるだけ

それは蜃気楼だ

おまえに教えてやるよ

俺のやっていることは破壊行為さ

(ビースティ・ボーイズ『サボタージュ』)

映画をいろどる二曲のヒップホップチューン

『スター・トレック BEYOND』で、謎の軍隊から急襲を受けたエンタープライズ号の面々は未知の惑星に脱出し、乗組員がバラバラになってしまう。ジャングルで悪漢に襲われそうになった機関室長のスコット(サイモン・ペッグ)は原住エイリアンのジェイラー(ソフィア・ブテラ)に助けられる。彼女は地球から不時着した宇宙船に一人で暮らしていた。宇宙船のオーディオから流れる音楽を歌詞の意味も分からずに聴くのが彼女の楽しみだった。 

「古いけどいい曲だね」スコットがそういうのはパブリック・エナミーの『ファイト・ザ・パワー』だ。スパイク・リー監督『ドゥ・ザ・ライト・シング』の実質上のテーマソングであるこのヒップホップチューンは、人種差別と戦う若い黒人たちから発せられたメッセージである。公民権運動の中心人物だったキング牧師は歌詞の中で批判されている。平和主義の時代は終わった。攻撃には攻撃で応えてやる。そんな楽曲は、暴君の抑圧に苦しむ惑星では、たとえ異星の言語だろうとジェイラーの胸に響くものがあったに違いない。

もう一曲、『スター・トレック BEYOND』ではヒップホップチューンが流れる。カーク船長やスポックたちが反撃を始めるときに鳴り響くビースティ・ボーイズの『サボタージュ』だ。音楽によって敵の通信回路を妨害し、巨大な戦闘機の群れに隙を生むという作戦で、選曲されたのが『サボタージュ』だったのである。

その理由を「前々作で流れていたから」と答えた人はかなりのトレッキー。その通りでキャストが一新したリブート版第一作、『スター・トレック』(’09)でも確かに『サボタージュ』は使用されていた。また、3MC方式のヒップホップであるのもカーク、スポック、レナードの主要人物三人にかけているのかもしれない。しかし、ここではあえて歌詞の意味、そして『サボタージュ』という楽曲が孕んでいる歴史から選曲理由を考察してみたいと思う。

『サボタージュ』に込められたメッセージ

『サボタージュ』の中で歌われている「このウォーターゲート」とはおそらく時の大統領、ビル・クリントンが引き起こしたホワイトウォーター疑惑のことだろう。クリントンが州知事時代に行っていた土地の不正取引に関する疑惑だが、最後は証拠不十分で事件に至らなかった。ビースティーズはそれをニクソンの起こしたウォーターゲート事件とかけているのだ。そして、クリントンに象徴されるような権力者の横暴を糾弾し、反抗の意をこめて自分たちの楽曲を高らかに『サボタージュ=破壊行為』と宣言したのである。そんな楽曲がハイライトのアクションシーンで流れる高揚感といったらたまらない。

本作の脚本にはサイモン・ペッグがタッチしている。ペッグは『ホット・ファズ -俺たちスーパーポリスメン!-』や『宇宙人ポール』など数々の主演映画で脚本を執筆してきたが、いずれも映画や音楽やコミックなどのポップカルチャーが絶妙に色を添えていた。本作での『サボタージュ』の使用もまた、ペッグの功績ではないだろうかと考えてしまう。 

9.11直後、放送禁止楽曲だった『サボタージュ』

そして、もう一つ。『サボタージュ』には過酷な歴史がある。2001年、ニューヨークで同時多発テロが起こり、アメリカが中東への報復戦争を始めた過程で全米のラジオに150曲もの放送禁止リストが送られてきた。全米で1,000を超えるラジオ局を牛耳っていた企業、クリア・チャンネルの判断である。メタリカやAC/DCなどの扇情的なハードロックや、U2『ブラッディ・サンデー』、ジョン・レノンの『イマジン』などの反戦歌、タイトルに『ニューヨーク』が入っているだけでフランク・シナトラの『ニューヨーク・ニューヨーク』もリストに掲載された。そして、『サボタージュ』も放送禁止にされた一曲だったのだ。 

タイトルか、それとも反権力的な内容か、何が引っかかったのかは分からない。いずれにせよ、クリア・チャンネルが行ったことは紛れもない思想統制である。アメリカは長年にわたり中国や旧ソ連などの全体主義国家を牽制し続けてきた。しかし、9.11はアメリカを全体主義国家と同じ空気に変貌させたのだ。 

圧制を敷く軍隊に対して『サボタージュ』をぶつけること。そのカタルシスはゼロ年代初頭の文化的鎖国が行われていたアメリカを知る者からすれば感慨深いものがある。『スター・トレック BEYOND』は民衆の自由を『サボタージュ』に込めて訴えかけた、と深読みしたくなるほどには。

About the author

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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