【レポート】『スター・ウォーズ歌舞伎』は『フォースの覚醒』『最後のジェダイ』をどう歌舞伎化したか ─ 市川海老蔵、カイロ・レン&ルーク一人二役

1977年『スター・ウォーズ/新たなる希望』から42年、『スター・ウォーズ』スカイウォーカー・サーガの完結編『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』が、いよいよ2019年12月20日(金)に公開される。
このたび、記念すべき完結編の到来に先がけて、市川海老蔵・堀越勸玄らが出演する『スター・ウォーズ歌舞伎 ―煉之介光刃三本―』が開催された。ルーカスフィルムがストーリーの監修を担当、海老蔵が監修・主演を務める本作は、『フォースの覚醒』(2015)『最後のジェダイ』(2017)の物語を歌舞伎の世界に置き換えた演目。日本の伝統芸能である歌舞伎と、『スター・ウォーズ』の世界観を表現する演出が融合した、一日かぎりのパフォーマンスとなった。
上演に先がけては、C-3PO&R2-D2、BB-8、そして海老蔵と勸玄が登場しての舞台挨拶と、映画の大ヒット&『スター・ウォーズ歌舞伎』の成功を祈っての御祈祷、およびトークセッションも開催されている。

『スター・ウォーズ歌舞伎』舞台挨拶~トーク
MCの呼び込みで、C-3POとR2-D2、BB-8が登場。続いて市川海老蔵、堀越勸玄が登場しての舞台挨拶が行われた。海老蔵は「本日は『スカイウォーカーの夜明け』の公開を記念して歌舞伎をするということで、このような大役を仰せつかって、どうなるか分かりませんけれども、一生懸命務めさせていただいて、一生懸命演じさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします」とコメント。続いて、勸玄が「堀越勸玄です。どうぞよろしくお願いします」と挨拶すれば、会場からは拍手と歓声が上がった。
大本山 増上寺の御導師様方による御祈祷が行われ、ウォルト・ディズニー・ジャパン映画部門代表の目黒淳氏も登場。『スカイウォーカーの夜明け』の大ヒット、および『スター・ウォーズ歌舞伎』の成功が祈願された。

続いて海老蔵のトークセッションでは、芸能界屈指の『スター・ウォーズ』ファンといわれる海老蔵に直撃。本番の支度のため、息子の勸玄が舞台を退場したことを受けて、「私は支度しなくても良いんですか?」と会場を笑わせた。
『スター・ウォーズ』ファンになったきっかけは、父親である市川團十郎とのこと。大の宇宙好きだったという團十郎は、家の近くにある公園で、まだ幼い頃の海老蔵を連れ、望遠鏡で星を眺めていたという。父と初めて映画館で観たのが『スター・ウォーズ』だったという海老蔵いわく、「(当時の父は)まだ海老蔵だったんじゃないでしょうか」。
そんな海老蔵が考える『スター・ウォーズ』の魅力は、「ジェダイと暗黒面に分かれているところ」だという。「歌舞伎十八番というものがあり、勧善懲悪なんですが、『スター・ウォーズ』も(ジェダイと暗黒面が)しのぎを削っていますよね。これからどうなるかは分かりませんけれど、優秀なジェダイは暗黒面に引き込まれていく。そういうところが魅力だと思います」。創造主ジョージ・ルーカスが「ジェダイ」という名称を「時代」から付けたというエピソードや、歌舞伎の隈取を参考にしたという背景などにも言及しつつ、「歌舞伎との共通点もあるのかもしれませんね」と話した。なお、好きなキャラクターはジャー・ジャー・ビンクス。意外なセレクトに会場から笑い声が上がるも、「癒されますよね、なんか好きなんですよ」。
いよいよ公開が迫る『スカイウォーカーの夜明け』について、海老蔵は「本当に終わるんですか? 終わってほしくないですよね」と話した。「本当に終わるんなら(最後は)正義に勝ってほしい。映画を観ていると、そうじゃないんじゃないかとも思えますから。カイロ・レンを見てると、どっちにも行きそうだなと思うんです」。ちなみに子どもたちと『スター・ウォーズ』を観ることもあるというが、「勸玄は古い方が好きなんですよ。映像がクリアじゃない、古い方に見入ってます」と話した。
本日かぎりのお披露目となる『スター・ウォーズ歌舞伎』について、「以前から『スター・ウォーズ』のお仕事を頂戴しておりまして、“そのようなことができたらいいですね…”という話をみなさんがなさっていたのが、今日になってしまったんです」と語った。「僕も“できますよ”ということを言ったりもしていたんですが、いざやることになって、自分が言ったことを反省しましたね。『スター・ウォーズ』をお好きな方の気持ちを裏切らないよう、話は忠実にしたいし、歌舞伎の要素もきっちりと入れるというのが難しかったです」。
なお見どころについては、カイロ・レンが魁煉之介(かい・れんのすけ)、ルーク・スカイウォーカーが皇海大陸琉空(すかいおおおか・るくう)といった名前に変換されていること、煉之介と琉空の戦いでは、琉空が分身であることも表現されていることのほか、歌舞伎の手法として、人物の「出」や荒事(歴代團十郎が得意としてきた演技)風の立ち廻り、そしてケレンの効いた締めくくりを挙げた。

『スター・ウォーズ歌舞伎 ―煉之介光刃三本―』
『スター・ウォーズ歌舞伎』は、C-3POとR2-D2、BB-8による前説から始まった。C-3POが歌舞伎に参加することが明かされると、スクリーンに映し出されていた定式幕が開き、「東西東西」の声から、海老蔵の口上が始まる。
「まずは、いずれの様方も、麗しき御尊顔を拝し奉り、お慶び申し上げ奉ります。市川海老蔵でござりまする。
このたびは『スター・ウォーズ歌舞伎』でございまして、本日、私、主役の魁煉之介と皇海大陸琉空の二役を務めさせていただく運びと相成りましてござりまする。『スター・ウォーズ歌舞伎』と申しまするは、“家族の愛と喪失”をテーマに、『スター・ウォーズ』の完結編『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』の公開を記念いたしまして、直近の2作品、カイロ・レンに焦点を当てて構成されておりまする。父、そして主君、そして師匠に対する3つの刃の物語でござります。
さて、私事で大変恐縮ではございますが、『スター・ウォーズ』は1977年に初めて映画化されてございます。私も実は1977年生まれでございまして、同い年でございます。その『スター・ウォーズ』が今年完結編を迎え、私は来年に市川團十郎白猿を襲名するという、何か深いご縁を感じる次第でございます。
何はともあれ、日本の文化に大きな影響を受けたと言われているジョージ・ルーカスさんが作り上げた、この『スター・ウォーズ』が42年の時を経て、再び海を渡り、日本の伝統文化でございます歌舞伎と融合するという画期的な企画でござりますれば、いずれの様方におかせられましては、最後まで、ゆるゆると、鷹揚のご見物のほど、よろしくお願いを申し上げまするとともに、隅から隅まで、ずずずい~っと、希い上げ奉りまする。」
大向こうの声と拍手、囃子の中で照明が暗転すると、スクリーンには『スター・ウォーズ』おなじみ「A long time ago in a galaxy far, far away…(遠い昔、はるかかなたの銀河系で)」の映像が投影された。シリーズでおなじみのタイトル~クロールが歌舞伎版のあらすじに改められ、ジョン・ウィリアムズによるテーマ曲から『スター・ウォーズ歌舞伎』は始まる。
第一刃「父への刃」
幕が上がると、暗い舞台上に、赤く光る魁煉の光刃が浮かび上がった。第一場で上演されたのは、『フォースの覚醒』よりスターキラー基地でカイロ・レンが父ハン・ソロ(半蔵)を殺める場面と、『最後のジェダイ』より指揮官アミリン・ホルド(愛深理[あみり])がレイア・オーガナ(澪殷[れいあん])を助けるべく、捨て身の作戦に出る場面だ。
壽臺(じゅだい)軍と反目する、旺拿(おうだ)軍の基地・超兵器星に潜入した半蔵は、魁煉と出会うや、本名である「弁壮(べんそう)」の名を呼び、すべては數能角(すのうかく)の企みであると説得する。しかし魁煉は「私は引き裂かれた。父からも母からも、それゆえに孤独じや」と言い捨て、半蔵は橋から転落する。演出には歌舞伎としてのアレンジが加わっており、半蔵を殺害する場面では、ハン・ソロの身体をライトセーバーが貫くのではなく、橋から落ちかけた半蔵の腕を魁煉が刺して落とす趣向になった。続いて、女形の演じる愛深理と澪殷が登場し、そこにC-3POも加わる。やり取りの末、愛深理が母艦に残ることを伝えると、澪殷は「希望の光とともにあらんことを」と別れの言葉を告げた。
第二刃「主君への刃」
この場面で上演されたのは、『最後のジェダイ』より、スノークの玉座の間にてカイロ・レンがスノークを倒し、レイ(麗那)と共闘してプレトリアン・ガード(數能角衛兵)を倒す場面。魁煉に焦点を当てるため、麗那との共闘ではなく、魁煉が単独で衛兵を倒していく立ち廻りが見どころの場面となった。
トークで海老蔵が語っていたように、この場面は「荒事風の立廻り」が見どころ。魁煉は、數能角の座る玉座へと続く階段にて「おのれの命運を成すべし」と語りかけられ、「なすべきことは疾くより承知」と答え、數能角に斬りかかる。映画ではスノークの胴体が真っ二つになる場面だが、歌舞伎版では數能角が倒れ、魁煉が首筋に刃を立てて見得を切るという、歌舞伎ならではの演出に変更された。衛兵との立ち廻りにはアクロバットも部分的に取り入れられた。
第三刃「師への刃」
愛深理の作戦が功を奏し、壽臺(じゅだい)軍は辺境の星へ逃げ込むが、そこに魁煉ら旺拿軍がやってくる。遅れて現れた麗那によって軍が救出された一部始終を伝えるのは、C-3POのもとにご注進にやってきた八十七だ。旺拿軍の歩行戦車が並ぶ中、魁煉と琉空が対峙する。『最後のジェダイ』のクライマックス、塩の惑星クレイトにおけるカイロ・レンとルークの対決を、この場面では海老蔵が一人二役、早替わりで演じている。

「半蔵同様、私との縁を切ることはできぬ」と語りかける琉空に、魁煉が光刃を振り下ろそうとする時、勸玄演じる幼い日の魁煉が現れる。「私は切り裂かれた」と悲しみを語る幼い日の魁煉を振り払い、琉空に斬りかかる魁煉だったが、その刃が貫いたのは幻だった。魁煉は一人、「まだ時は来ない。夜明けはいつ来るのであろう、琉空、そして弁壮、時満たば、また会おう」とつぶやき、その姿は星々の光の中に消えていく。
ギャラリー













『スター・ウォーズ歌舞伎』番付
魁煉之介/皇海大陸琉空 | 市川海老蔵 |
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幼き魁煉 | 市川勸 玄 |
八十七 | 市川新十郎 |
愛深理 | 市川右 若 |
麗那 | 市川福太郎 |
半蔵 | 市川右左次 |
數能角衛兵 | 市川新 次 |
同 | 市川新 八 市川福五郎 市川右田六 石塚智 司 佐藤喬 也 椎野健 人 植野 洵 |
數能角衛兵 | 市川新 蔵 |
澪殷 | 大谷廣 松 |
數能角衛兵 | 市川九團次 |
脚本 | 今井豊 茂 |
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演出・振付 | 藤間勘十郎 |
監修 | 團 栗 |
照明 | 高山晴 彦 |
作曲 | 鶴澤慎 治 杵屋巳太郎 |
作調 | 田中傳次郎 |
狂言作者 | 竹柴康 平 |
立師 | 市川新十郎 |
附打 | 大熊 史朗 |
映画『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』は2019年12月20日(金)全国公開(配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン)。
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