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【特集】映画『ワンダーウーマン』スティーブ・トレバーという男は、なぜ私たちの心に残るのか

スーパーヒーローには、その活躍を支えるパートナーがつきもの。スーパーマンにはロイス・レーンが、スパイダーマンにはメリー・ジェーンやグウェン・ステイシーが、アイアンマンにはペッパー・ポッツが、戦うヒーローの傷を癒やした。

女性ヒーローの活躍描くワンダーウーマンでその役を担ったのは、アメリカ人パイロットのスティーブ・トレバー。自然と男性になるが、しかしながらこの転換は画期的。『ワンダーウーマン』は、女性ヒーローが逞しく、されど美しく戦う作品としての革新性が取り上げられるが、スティーブ・トレバーとてこれまでのヒーロー映画に登場した”サポート・キャラクター”とは区別できる、注目すべき存在だ。

この記事では、クリス・パインが演じたスティーブ・トレバーという男について、出演者や制作者の数々のインタビュー証言と共に掘り下げていく。

注意
この記事には、『ワンダーウーマン』のネタバレが含まれています。

補佐的役柄に徹した男性キャラクター

スティーブ・トレバーのキャラクター性を語るために、まずは『ワンダーウーマン』そのものがいかにこれまでのジェンダーバイアスを打ち破る作品であったかを少しだけ振り返っておきたい。

「自立した、待っているだけではない女性像」は、ハリウッド映画においては特段真新しいことではない。しかし、こと男女のペア像を描くとなったとき、強い女性と、やや尻に惹かれて振り回されがちな、または少々お馬鹿な男性という組み合わせを登場させるようになってからは、まだまだ歴史が浅いように感じる。スーパーヒーロー映画においてはことさらだ。パティ・ジェンキンス監督は、ワンダーマンの描く男女性差がいかにブレイクスルーであったかを語る

今まで、長らく女性ヒーローを取り巻くものは、皮肉なことに性的なものだったように思うんですよ。普遍的なストーリーテリングからは外されてしまっていて。例えば、男性ヒーローにはロイス・レーン(スーパーマンの恋人。献身的な一般女性)がいるじゃないですか。愛があって、弱さと複雑さもあって。でも女性のスーパーヒーローとか強い女性って、いつも“私は何も要らない、私は世界一難しい人間よ”みたいなキャラクターばかりで。それって全然フェアじゃない。人間は、”持ちつ持たれつ”なのですから。

このように監督は、ヒーロー作品における女性の役割のほとんどが、男性ヒーローの活躍を支えるだけの補佐的な位置にとどまっていたと指摘する。スティーブ・トレバー役のクリス・パインも、ヒーロー映画の根底にあった男性至上主義の転覆を歓迎する

「僕たちって、男目線の物語をたくさん観てきましたよね。男ってそんなに賢くないんですよ。いっつも殺し合いをしてばっかりですし。だからこそ、重要なテーマを持ったフレッシュな女性の視点がようやく現れたことは素晴らしいこと。対立ではなく、愛と思いやりと生命の慈悲を掲げる女性のスーパーヒーロー物語、っていうのがとても重要なところですね。」

クリスは「『ワンダーウーマン』の真のテーマとは、平等と同格」であり「女性はなんでも出来るんだということ」だと説く。主演のガル・ガドットも「女性は強いし、賢いし、愛を捧げられる。男性と同じように強い立場にいられるんです。強い女性像を描くことがすごく大切で、ワンダーウーマンが男女平等を示してくれれば」として、意見を共にしている。

浜辺に打ち上げられた男性を女性が救護するという出会いは、『リトル・マーメイド』を思い出させる。決定的に異なるのは、『リトル・マーメイド』では何かに囚われていたのが女性(人魚アリエルは海中の生活よりも地上の自由に憧れていた)だったのに対し、『ワンダーウーマン』では男性側が「冷酷な現実」という足枷に囚われていたと言える点だ。俗世から離れたパラダイス島出身のダイアナは、それ故に外界を知らずまま育ったが、それは「世間知らず」や「天然女子」と揶揄できる類のものではなく、むしろ「自由」「純白」といった高潔さを維持するもの。一方でスティーブ・トレバーは、クリス自身が言うところの「現代文明の酷い野蛮さを見てきた皮肉な現実主義者」だったのである。

スティーブ・トレバー(ワンダーウーマン)

また、『ワンダーウーマン』におけるスティーブ・トレバーは、これまで補佐的女性キャラクターが担わされたであろう「外し」の要素も兼ねた。これは、第一次世界大戦を舞台としたことを由来とする緊迫な空気の中で一際意味を持った。劇中、ダイアナに全裸を目撃されたスティーブが「僕は平均以上だよ」と粋がる場面があるが、クリスはこれを男って虚しいよねっていうジョーク」だと解説。男とは、常に女性の前では粋がっていたいのだという性(さが)を皮肉る。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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