【インタビュー】『ストックホルム・ケース』のイーサン・ホーク新境地 ─ 素早く完成の強盗映画、監督が解説

『ストックホルム症候群』という言葉をご存知だろうか。誘拐や監禁事件において、被害者が犯人との間に心理的なつながりを築く心理現象のことだ。
この現象の語源となったのが、ストックホルムで実際にあった銀行強盗事件。強盗が人質を取って銀行に立てこもったのだが、その5日の間で人質が犯人に好意を抱き、犯人をかばうなど協力的な行動を取るようになったという。
この奇妙な実話を、イーサン・ホーク主演で映画化した『ストックホルム・ケース』が、2020年11月6日より日本で劇場公開となる。監督は、『ブルーに生まれついて』(2015)でイーサンと共に伝説的ジャズ・ミュージシャンのチェット・ベイカーの半生を綴ったロバート・バドロー。今作ではイーサンに、ハイテンションでクレイジーな強盗犯を演じさせた。共演には『キングスマン』シリーズなどでおなじみのマーク・ストロングに、『ミレニアム』シリーズのノオミ・ラパスを迎えている。

監督は雑誌「ニューヨーカー」の記事を読んでこの事件に惹かれ、一気に映画化したという。ボブ・ディランの名曲と共に、クライム映画ならではのスリルの中にも、お茶目なイーサンのダークユーモアも加えて仕上げた一作。THE RIVERでは、カナダはトロントにいる監督とビデオ通話をつなぎ、一対一の単独インタビューを行った。

イーサン・ホークの新たな一面が観られる
──映画『ストックホルム・ケース』が、2020年11月6日よりついに日本で劇場公開になります。製作からは2年くらい経つと思いますが、改めて本作を振り返っていかがですか?
いつも映画を撮り終えると、振り返ってどうだったかを考えるんですよ。私がこのストーリーに惹かれたのは、奇妙でダーク、コミックっぽさもあるところ。振り返ってみても、この実話はなんてクレイジーだったのかと驚かされんます。この映画を通じて、ストックホルム症候群や登場人物について、より深く学ぶことができました。
──主演のイーサン・ホークは『ブルーに生まれついて』からの再タッグですね。『ブルーに生まれついて』の繊細さとは全く違う演技を見せてくれています。イーサンは監督のファースト・チョイスだったんですか?
はい。まずイーサンに、映画の原案になったニューヨーカーの記事を見せたんです。この役をオファーしたのはイーサンだけでした。ありがいことに、彼もすぐに快諾してくれました。
──オファーを受けたイーサンは、はじめどんな反応でしたか?
興奮していたと思います。こんなカラフルなキャラクター、イーサンはこれまであまり演じたことがないですから。今作はコメディでもありますが、シリアスなドラマでもある。彼にとってちょっと新しい役だと思います。
イーサンは役者歴も長いですが、彼はいつも新しいチャレンジを求めている。それに『ブルーに生まれついて』で良い関係も築けたから、新しいチャレンジに今作はもってこいでした。

──今作でイーサンが演じた強盗ラースは、クレイジーでファニーですが、繊細さもある弱い男でした。彼の二面性が見どころですよね。
今作はアイデンティティに対する映画です。彼はコスチュームを着て、ウィッグをかぶって、クレイジーな恰好をする。イーサンにとっても、こういうアイデンティティを演じるのは面白いことだったと思います。やっぱり彼は人を共感させる力を持つ役者。観客は彼のことが好きになってしまいますよね。この役ではダークな面もある。それは彼にとっても挑戦的だったと思います。
──ちなみにラースは、実際の史実にどれくらい忠実なんですか?