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【ネタバレ】『サスペリア』徹底解説 ─ オリジナル版からの変更点、エンディングの謎、ラストシーンの意味

サスペリア
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『君の名前で僕を呼んで』(2017)ルカ・グァダニーノ監督によるリメイク版サスペリアほど、オリジナル版との強い緊張関係で結ばれた映画もそう多くはないだろう。ダリオ・アルジェント監督が1977年に製作した“聖典”の基本設定のみを残し、ストーリーは換骨奪胎して大幅に脚色。オリジナル版の色彩をも取り入れず、まったく新しい“ルカ・グァダニーノ版『サスペリア』”に仕上げてみせたのだ。

それでも本作は、あまりに膨大な情報と映像美、激しい破壊描写で観客を正面からねじ伏せにかかった。映画ファンを騒然とさせたリメイク版に対して、生みの親であるアルジェントは、奇しくも日本公開直前に「オリジナル版の精神に対する裏切りだ」とのコメントを発した。いわく「恐怖がない、音楽性がない。十分には満足しなかった」……。

しかしその一方で、リメイク版の脚本を執筆したデヴィッド・カイガニックは、自身がオリジナル版に不満を抱いていたことも明かしている「芸術作品としては大好きです。しかし物語はほとんど意味をなしていない」。グァダニーノ監督はオリジナル版を敬愛していることで知られるが、リメイク版『サスペリア』がオリジナル版とは一種対立した作品になることは自明だったのだろう。

では、脚本家のデヴィッドやグァダニーノ監督は、伝説のホラー映画をいかにして再創造したのか。オリジナル版からの変更点やエンディングにはいかなる意味が込められているのか。本人たちのインタビューから、新生『サスペリア』の核に迫ってみたい。

この記事には、『サスペリア』オリジナル版・リメイク版のネタバレが含まれています。

サスペリア
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1977年のドイツ、魔術と女性の関係

リメイク版『サスペリア』には、オリジナル版との共通点がいくつも存在する。バレエの名門校≒舞踊団という舞台設定、その頂上に座するエレナ・マルコス、『インフェルノ』(1980)『サスペリア・テルザ 最後の魔女』(2007)で掘り下げられる「三人の魔女」、そして主人公スージー・バニヨンをはじめとする登場人物たちだ(ただし人物の多くは名前のみの継承となっている)。

しかしそれでも本作が「オリジナル版と違う」という印象を与えるのは、オリジナル版に存在しない要素が多数用意されているためだ。特別に大きなポイントは、オリジナル版の公開年である1977年のベルリンを舞台と定め、当時実際に起きたドイツ赤軍によるハイジャック事件(「ドイツの秋」)を物語の背景に置いたところ。ホロコーストの爪痕が見え隠れすることや、スージーの生育環境にキリスト教メノナイト派という設定を取り入れたことも大きいだろう。

脚本を執筆したデヴィッドによれば、1977年のドイツ・ベルリンの社会情勢を取り入れることを提案したのは、意外にもグァダニーノ監督のほうだったという。

「ルカは1977年版に忠実なものを考えていると言っていました。それでも(監督が)当時のベルリンやドイツの情勢を物語に流れ込ませたんです。その話を聞いてすぐに、どうすれば作品が成立するかがわかりました。“ドイツの秋”や、当時のドイツの政治に照らすことで、魔女集会の権力闘争を描くことができると。密封されて熱にうかされたようなオリジナル版から、いきなり劇的に視野が広がったようでした。当時の政治を理解するという意味でも、さらにスケールの大きいものになりますから。」

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オリジナル版に不満を抱いていたというデヴィッドだが、それでもリメイク版の執筆は非常に不安だったそう。しかし、こうした背景設定が固まり始めてから「心配はなくなった」ということだ。その後、デヴィッドは魔術について研究を重ねていくうち、リメイク版の持つもうひとつのテーマに行き当たったことを明かしている。

「魔術や魔女の恐怖が、いかに女性の社会進出への恐怖につながっていたのかということをしっかりと研究しました。男女同権への動きは、オカルトの恐怖とあるところで交わるんです。これらのふたつは、歴史的にお互い関係しあっている。女性の社会進出に恐怖をおぼえた人たちが、そういった神話を作っていて、時にオカルトと関係しているんです。」

脚本の執筆にあたって、デヴィッドは「実在の魔術の研究には忠実でありながら、女性の社会進出についての物語を転覆、破壊しようとした」という。1977年のベルリンにいた魔女の集団はどのような見た目をしていたか、どのようにふるまっていたか、どんな儀式を行っていたのか……。舞踊団やその内実については、できるかぎり現実的なものとなるよう描写していったとのことだ。物語はその方向性を維持したまま、“魔女集会の権力闘争”そして“真の解放”へと向けて突き進んでいく。

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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