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『TENET テネット』という「不可能な任務」、メイキング映像で知るクリストファー・ノーランの挑戦

TENET テネット
Tenet (c)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ダークナイト』3部作や『インセプション』(2010)で知られるクリストファー・ノーラン監督の最新作TENET テネットは、新型コロナウイルスによって世界中の映画業界が停止状態に追い込まれたあと、劇場公開に踏み切った最初のハリウッド大作だ。製作中は誰も予想しなかった役割を、この映画は図らずも背負うことになったのである。

世界滅亡の危機を、〈時間の逆行〉という不可能な任務によって食い止めようとする主人公と、映画業界の危機に出現した本作は、すでに存在としてどこか重なっている。しかし2021年1月8日(金)にリリースされるブルーレイ&DVDの特典映像「メイキング・オブ・テネット」を観ると、この映画はさらなる意味を帯びることになるだろう。本作は、クリストファー・ノーランという映画監督が史上まれに見る“不可能”に挑んだ作品でもあるからだ。

『TENET テネット』という「不可能なミッション」

TENET テネット
Tenet (c)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

メイキングが始まって早々、ノーランは「堂々たる体験」を生み出したかったと語る。彼と、妻でプロデューサーのエマ・トーマスは、この映画が実に10年以上を費やして構想されたものであることを明かしているのだ。すなわち、『インセプション』よりも前から『TENET テネット』のアイデアはあったことになる。そう考えてみると、本作と『インセプション』に認められるいくつかの共通点も偶然ではないと思えてくる。

『インセプション』と『TENET テネット』は、ともに「ジャンル映画」と呼ばれる作品だ。『インセプション』は『オーシャンズ』シリーズを思わせる犯罪群像劇だったが、『TENET テネット』は世界を股にかける大作スパイ映画。ジャンル映画や『007』シリーズへの愛情を携えて、ノーランは自己流のスパイ映画に挑んだのである。もうひとつの共通点は、主人公たちがチームで任務に取り組むというプロットと、ノーラン作品おなじみの〈時間〉というテーマだ。

同時に本作には、『インセプション』からの10年でノーランが蓄積したものがそのまま反映されてもいる。『インセプション』はレオナルド・ディカプリオを主演に迎えたスター映画だったが、本作でノーランは、ジョン・デイビッド・ワシントンやロバート・パティンソンエリザベス・デビッキ、ケネス・ブラナー、マイケル・ケインなど、世界的スターではなく、将来を嘱望される新鋭と名優たちを絶妙なバランスで配した。これは興行的にはチャレンジングな選択だったはずだが、製作費はノーラン史上最高額ともいわれる2億ドル超え。この企画が実現したこと自体に、ノーランの映画界における実績と信頼が表れているだろう。

TENET テネット
Tenet (c)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

メイキング映像では、ノーランがキャスト&スタッフの支持を得ながら作品を作り上げていたことがよくわかる。ジョン、ロバート、エリザベス、ケネスは役づくりや撮影について笑顔を浮かべながら(冗談まじりに)話してくれるし、ディンプル・カパディアやヒメーシュ・パテル、アーロン・テイラー=ジョンソンら共演者たちも饒舌に制作秘話や自身の思いを語るのだ。脇を固める役者たちは、ネタバレを避けるためか、映画公開前の取材にほぼ登場しなかった顔ぶれ。これだけでも作品を新たな角度から見つめられるはずだ。

一方、ノーランは作品へのあくなきこだわりで知られる。精緻に織り上げられた物語、IMAXカメラでの撮影、なるべくCGに頼らず実写撮影を追求する姿勢……。高いハードルを超えるべく、“チームを組んで任務に取り組んだ”のが精鋭ぞろいのスタッフ陣だった。『インターステラー』(2014)『ダンケルク』(2017)に続いて3度目のタッグとなる撮影監督ホイテ・ヴァン・ホイテマは、たとえば巨大なIMAXカメラを手持ちカメラのごとく抱えてセットを歩き回る。ホイテいわく、IMAX撮影の魅力は画面の大きさよりも「没入感」、ゆえに物語に有益だとか。もっとも、世界有数の実力者であるホイテにとっても、撮影は「勉強の連続だった」という。ホイテをはじめ、インタビューに登場するスタッフたちはみな、それぞれの苦労を口にしながら、やりがいとノーランへの信頼を言葉の端々ににじませている。

そもそも、時間の〈逆行〉と〈順行〉が複雑に入り組んでいる物語そのものが、映像化には高いハードルなのだ。ふたつの時間の流れが画面上に共存するカーチェイスやアクションを形にするため、スタッフはあらかじめキャラクターの動きをアニメーション化する、カーチェイスシーンではミニカーを並べて試行錯誤するなど地道な努力を繰り返している。なかでも特筆すべきは、ジョン・デイビッドとスタントチームが挑んだ〈順行〉対〈逆行〉の格闘。なんと〈逆行〉のアクションは映像の逆再生ではなく人力で実現されており、そのリハーサル風景には目を見張るものがある。

TENET テネット
Tenet (c)2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

オペラハウスでの攻防戦、インド・ムンバイでの高層ビルのアクション、イタリアでの高速ボートレース、オスロ空港にあるフリーポートでの息詰まる潜入作戦、エストニアでの激しいチェイス。ド派手なアクションと複雑な物語構造が融合した本作を、ノーラン率いるチームはどう撮ったのか。これこそがメイキングの見どころであり、なかでも公開前から話題を呼んだ、本物のジェット機をセットに激突させたシーンの舞台裏は言わずもがな必見。本編だけでは伝わらない、ハードな撮影現場の様子を目撃してほしい。

映画監督クリストファー・ノーランの狙いは、誰も観たことのない映像を、また大スケールのエンターテイメントを、巨大なスクリーンで見せることにある。かつてないプロットと映像表現のために人々が突き進むさまは、まるでそれ自体が壮大な物語のようだ。『インターステラー』に続いて監修を務めた理論物理学者キップ・ソーン、ノーラン作品の常連者である美術のネイサン・クロウリー、衣裳デザイナーのジェフリー・カーランド、そしてノーランと初タッグの作曲家ルドウィグ・ゴランソン&編集者ジェニファー・レイムら、強力なキーパーソンたちが次々に姿を見せる構成もどこか本編とダブって見えてくる。

コロナ禍で映画館が休業を余儀なくされたあと、ノーランはいち早く、「映画館が闇に包まれた。しかし、映画の価値が減ずることはない」との声明を発表し、映画と映画館に対する支持を表明。本作の公開後には、映画を配信でリリースする動きについて慎重な姿勢を示してもいる。なぜノーランがその態度を貫きつづけているのか、その理由は『TENET テネット』の本編と舞台裏を見ればきっと分かることだろう。おそらくノーランは今でも、“誰も観たことのないものを見せる”という任務の途中なのだ。

映画『TENET テネット』2021年1月8日(金)ブルーレイ&DVD発売・レンタル開始/デジタルレンタル配信開始。ダウンロード先行販売中。

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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