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『TENET テネット』セイター役ケネス・ブラナー、『オリエント急行殺人事件』ポアロ役との共通点とは ─ 映画監督として語る「ノーランの凄味」

TENET テネット
© 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

クリストファー・ノーラン監督最新作TENET テネットにて、“ノーラン史上最悪の悪役”とされるアンドレイ・セイターを演じているのが、イギリスの名優ケネス・ブラナーだ。恐るべき精神性と暴力性をスクリーンに叩きつけたブラナーは、その一方で近年、かの“名探偵”としても親しまれている。

2017年製作オリエント急行殺人事件、2020年12月18日(金)公開ナイル殺人事件でブラナーが演じているのは、“ミステリの女王”アガサ・クリスティーが生んだ名探偵エルキュール・ポアロ。この2作品で、ブラナーは主演・監督の一人二役をこなしているのだ。

オリエント急行殺人事件
『オリエント急行殺人事件』©2017Twentieth Century Fox Film Corporation

1960年、北アイルランド・ベルファストに生まれたケネス・ブラナーは、幼少期にイングランドに移住。アンソニー・ホプキンスやロジャー・ムーア、のちにトム・ヒドルストンやタロン・エジャトンらを輩出した名門演劇学校・RADA(王立演劇学校)を卒業したのち、やはり名門のロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに参加。シェイクスピア俳優としての経験は、現在に至るまで多くの作品に活かされている。

『炎のランナー』(1981)で映画デビューののち、シェイクスピアの戯曲を自身の主演・監督で映画化した『ヘンリー五世』(1989)がアカデミー賞の主演男優賞・監督賞候補となる。その後も多くのシェイクスピア作品を映画化し、一般には『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(2002)のギルデロイ・ロックハート役で知名度を急上昇させる。その後、『ワルキューレ』(2008)や「刑事ヴァランダー」(2008-2016)、『マリリン 7日間の恋』(2011)『ダンケルク』(2017)など渋味あふれる重鎮として映画・ドラマで活躍した。

映画監督としての岐路になったと自身が認めているのが、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に参加して手がけた初の大作映画『マイティ・ソー』(2011)。いまやハリウッド屈指のシリーズとなったMCUの礎を築いたブラナーは、のちに『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2017)に声の出演を果たした。ともあれ、ブラナーは2010年代から『エージェント・ライアン』(2014)『シンデレラ』(2015)『アルテミスと妖精の身代金』(2020)とスタジオ製作映画を連続して手がけ、その後半には、俳優としてクリストファー・ノーラン監督と出会っているのである。

TENET テネット
© 2020 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ポアロとセイター、思わぬ共通点

名探偵ポアロを演じている『オリエント急行殺人事件』と、極悪人セイターを演じた『TENET テネット』、この2作品のブラナーには共通点がある。もともとはイギリス英語の話者であるブラナーだが、ポアロはベルギー人、セイターはロシア人とあって、それぞれの英語には強い訛りがある。『オリエント急行殺人事件』の撮影前には、訛りを習得するため、数ヶ月にわたって週3回の訓練を受けた。

ブラナーは訛りの特訓について、「僕は外国語が話せないので、フランス訛り(※フランス語はベルギーの公用語のひとつ)を勉強することは、フランス語の勉強を始めるのと同じことでした」振り返っている。「それからワロンの訛りでフランス語を喋ってみるわけです。スパで生まれ、ロンドンに住んでいる男のワロン訛りです(※ワロン、スパはベルギーの地名)」。ポアロらしさを体現するため、発音はなるべく具体的に、細部までこだわる必要があったという。この姿勢は『TENET テネット』にも一貫しており、ブラナーはセイターが喋るロシア訛りの英語を完璧にマスター。主演のジョン・デイビッド・ワシントンによると、撮影ではロシア訛りのセリフを逆再生で喋るという離れ業(!)さえやってのけていたそうだ。

TENET テネット
© 2020 Warner Bros Entertainment Inc. All Rights Reserved

また『オリエント急行殺人事件』の場合、ブラナーはせりふの訛りを習得するだけでなく、アガサ・クリスティーによる原作シリーズのすべて(長編33作と短編50作)を読破し、トレードマークともいえる口ひげを6ヶ月以上かけて作り上げた。ブラナーいわく、口ひげは「ポアロのスーパーパワー」。なぜなら、ポアロと出会った人はポアロ本人よりも先に口ひげに目が行ってしまうからだとか。

主人公のポアロを演じながら、豪華キャストを演出する。さぞかし大変だっただろうと思われるが、ブラナーは「監督と探偵には“真実を探す”という共通点があります。人の目を見つめながら話を聞いて、それぞれを信じられるかどうかを判断する。ふたつの仕事が結びついていましたね」とも語っている。「ウィレム・デフォーには、すごく自然な現場だったと言われましたよ。ポアロが捜査をしているし、僕はいつも最後にセットに入ってくるから」。

このように俳優・監督としての難題をやってのけるブラナーだが、『TENET テネット』ではクリストファー・ノーラン監督の技量にすっかり驚かされたことを明かしている。ノーランといえば“時間”をモチーフとする作品で知られるが、ブラナーは作品の内容だけでなく、「ノーランは本当に時間を操れるんだと思う」とまで言っているのだ。

「映画を撮る時、難しいことをやるために時間を止めているような気がするんです。特殊効果が大変なシーンを撮る時、クレーンはあるし、アクションはあるし、機材や車は同時に動くので、役者がパニックになることがある。僕は監督の経験が乏しいので、そういうことがたまにあるんですが、(ノーランには)まったくない。[中略]『マトリックス』みたいに時間が止まって、何事もないかのように演出するんです。リハーサルに丸一日使っておいて、それから恐ろしいカオスを解き放つ。このふたつを融合させられるんです。」

映画『TENET テネット』は2020年9月18日(金)より全国公開中。

Source: オリエント急行殺人事件, USA Today, nzherald.co.nz, The Philadelphia Inquire, Collider

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

THE RIVER編集部。「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。劇場用プログラムや各種媒体への寄稿なども喜んで承りますので、お気軽にお尋ねください。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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