『TENET テネット』VFXショット数は「ラブコメ映画より少ない」、ノーランこだわりの実写撮影ふたたび

映画監督クリストファー・ノーランは、できるかぎりCG/VFXに頼らず、実写撮影にこだわり続けてきたフィルムメーカーだ。過去にもさまざまな逸話が残されているが、最新作『TENET テネット』でも大型旅客機・ボーイング747の実物を購入して建物にぶつけたことが判明済み。このシーンは予告編に収められており、早くも“新たな伝説”として語られている。
ICG Magazineでは、劇場公開に先がけて『TENET テネット』のVFXショット数が明らかになっている。編集を担当したジェニファー・レイムによると、本作のVFXショット数は300未満。ノーラン監督も「だいたいのラブコメ映画よりも少ない」と豪語する量だ。“時間の逆行”という、おおよそCGなしには描けなさそうなテーマでありながら、『TENET テネット』チームはあくまでも実写に注力したのである。
実は「300」という数字は、過去のノーラン作品と比較しても明らかに少ない。各作品おおよその数値ながら、『ダンケルク』(2017)が430、『ダークナイト ライジング』(2012)が450、『インセプション』(2010)が500、『バットマン ビギンズ』(2005)が620だというから、比較すれば一目瞭然だろう。ちなみに『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)は2,000ショット以上と伝えられており、こちらはこちらですさまじい。
本作のキーパーソンとなったのが、前作『ダンケルク』からノーランとタッグを組む、VFXスーパーバイザーのアンドリュー・ジャクソンだ。実写・CGの豊富な経験を持つアンドリューは、どのように実写撮影を安全に行うか、実写が不可能な場合はVFXにどんな可能性があるかを見極めつつ、特殊効果チームや美術監督、スタントチームなど各部門と連携して作業にあたっていたそう。VFXの専門家ながら実写撮影のために奔走し、いくつものシーンを具現化した仕事ぶりを、ノーランも「アンドリューは自分で自分の仕事を奪っているようなもの」と冗談まじりに絶賛している。

ちなみにアンドリューは、どんな規模の映画であれ、撮影が始まる前から、“実写でやるべきか、CGでやるべきか”をチェックし、製作の可能性を模索するために大量のテスト撮影を行っているとのこと。これらがのちに参考資料として役立てられるというから、まさしくプロフェッショナルの仕事である。「CGしか打つ手がなく、しかも手法に合うという場合でもないかぎり、CGよりも2Dの素材を組み合わせるほうがいい」とはアンドリューの談。ノーラン組にぴったりの人材であることが、この一言だけでも十分にうかがえるだろう。
ところで一連の証言からは、『TENET テネット』のわずか300ショット未満は“どうしてもCGを使わなければならなかった300ショット”だったのだろうという結論が浮かび上がってくる。その理由はさまざまだろうが、ノーランは「ものすごく難しいVFXがあった」ことも認めているのだ。IMAXカメラを再び駆使しての本気の実写撮影と本気のVFX、これらの融合がもたらす映像体験とはいかなるものか。お披露目の時は少しずつ近づいている。
映画『TENET テネット』は2020年9月18日(金)全国公開予定。
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Sources: ICG Magazine, Indie Wire, The Art of VFX