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タイムリープSFの代償を逆手にとった「ラザロ・プロジェクト」 ─ 世界を救うか、恋人を救うか?トロッコ問題的スリラー全8話完走必至

ラザロ・プロジェクト
© Sky Studios Limited (2021). All Rights Reserved.

時間を越えて過去や未来に移動する“タイムリープ”という仕掛けは、様々なジャンルの作品で用いられてきた。例えば、時間が逆行する世界で戦う『TENET テネット』や、同じ戦闘を何度も繰り返す『オール・ユー・ニード・イズ・キル』はSFアクション。“ループもの”に恋愛を絡めた『恋はデジャ・ブ』や『パーム・スプリングス』はラブコメ。主人公が死ぬ誕生日を繰り返す『ハッピー・デス・デイ』や日本の『時をかける少女』は、それぞれホラー、青春物語に属する。ここまで多用されながらもタイムリープが廃れないのは、どの作品も「時間の移動」を通して、ストーリーに別の深い意味を与えているからだろう。

「Giri/Haji」の奇才ジョー・バートンが脚本・製作総指揮を務める英国ドラマ「ラザロ・プロジェクト 時を戻せ、世界を救え!」は、『TENET テネット』と似たトーンを持つタイムリープSFアクションだ。世界滅亡を阻止する組織にスカウトされた主人公が、国境を越えて奔走する姿を描く。迫力満点のカーチェイス、ド派手な爆発、スリリングな銃撃戦など、全8話を通して映画並みの大規模なアクションが満載。それだけで観る価値十分といえるが、本作はタイムリープの代償にスポットを当てることで、作品の面白さを一層高めている。

2022年7月1日。アプリ開発者のジョージは目を覚まし、恋人・サラに見送られながら、起業資金の融資を受けるため銀行へ行く。面談は成功し、祝杯をあげるジョージ&サラ。その背後では、新たな感染症「新型コロナ」のニュースが流れていた(なお、本作の脚本が書かれたのは2019年)。

サラの妊娠を機にふたりは結婚するが、やがて新ウイルス“マーズ22”が猛スピードで蔓延。感染者だらけの病院でサラが「私たち死ぬの?」と問うと、突然時間が巻き戻る。ジョージが目を覚ますと、その日はすでに経験したはずの2022年7月1日だった。

ラザロ・プロジェクト
© Sky Studios Limited (2021). All Rights Reserved.

タイムリープ作品といえば、時間を移動する際の独自ルールがあるものだ。例えば、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』では主人公が死んだら出撃前日に戻り、『バタフライ・エフェクト』では主人公が日記を読み返すとその当時に戻る。そして本作で基点となるのは、毎年の7月1日。この日を“チェックポイント”と呼び、翌年6月30日を過ぎるまでの丸1年間は、いつ時間をリセットしても必ず同じ7月1日に戻る。それより前に行くことはできない仕組みだ。

再び2022年7月1日となり、ワケもわからぬまま前回と同じ1日を過ごしたジョージ。すべてが繰り返されていることをサラに説明するが、もちろん全く信じてもらえない。そんなジョージの前に、この怪現象を知る女性・アーチーが現れる。彼女の正体は、世界を滅亡から救う多国籍組織“ラザロ・プロジェクト”(通称:ラザロ)のエージェント。時間を戻しながら、核戦争やウイルス拡散といった世界滅亡の危機を「防いだり、なかったことにしている」という。つまり今回時間が戻ったのは、前代未聞のパンデミックを止めるための万策が尽きたからだ。

ラザロ・プロジェクト
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そしてアーチーいわく、ジョージはタイムジャンプを認識できるミュータント。この能力は人工的にも与えられるが、彼は細胞の特異変化によって自然に開花させた「一億人に1人」の珍しい存在だという。これによってスカウトを受けたジョージは、突然世界を救う組織の一員となる。ただしラザロの他のメンバーは、元MI5や特殊部隊など選りすぐりの精鋭ばかり。ミュータントとはいえ、アプリ開発者の肩書きしか持たないジョージは至って平凡だ。危険な現場へ向かう際は及び腰で、「自分は行かなくていいよね?」と言わんばかり。この“普通の人”感は、多くの視聴者に親近感を抱かせるだろう。

「世界を滅亡から救う」ラザロの活動は、必ずしも正義とは限らない。なぜなら、時間を戻した後に起こす小さな変化が、誰かの運命を変える可能性だってあるからだ。これこそが、タイムリープの代償である。実際ラザロはパンデミックの阻止に成功するが、ジョージが前回と違う行動をとったことで、最愛の恋人・サラが死亡。これによって、ジョージは重大な葛藤に苛まれることになる。大勢のためにひとりを犠牲にしてもいいのか?ひとりのために大勢を犠牲にしてもいいのか?本作はこの“トロッコ問題”のようなモラルジレンマを問いかけながら、物語を思わぬ方向に導いていく。

ラザロ・プロジェクト
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哀しみに暮れるジョージは、サラを生き返らせたいあまり、こんな考えに辿り着く。裏で大災害を起こせば、ラザロが時間を戻すだろう、と。折しもラザロの前に立ちはだかるのは、核弾頭を強奪したテロ集団。そこでジョージは起爆装置を手に入れ、世界を焼き尽くそうとする。先ほどの問いに立ち返れば、「ひとりのため大勢を犠牲にする」道を選んだのだ。

主人公が愛する人を救うためなら何でもするという点では、本作は壮大なラブストーリーだ。多かれ少なかれ共感できるし、「もし自分だったら?」と考えさせられる。しかしこの型破りな計画を実現するため、ジョージの行動はどんどんエスカレートし、やがて取り返しのつかない状況となる。中盤以降の予期せぬ展開の数々には、誰もが度肝を抜かれるだろう。

ラザロ・プロジェクト
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こうしてジョージは親近感のわく主人公から、世界を滅亡寸前に追い込むヴィラン的な立ち位置へと舵を切る。この善から悪に向かう主人公のアークについて考えた時、ふと筆者の頭に浮かんだのは「ブレイキング・バッド」だ。これは後から知ったことだが、バートン自身も「参考にしたのは、常に『ブレイキング・バッド』。最初はすごく共感できる主人公が、物語が進むにつれて本質的に作品の悪になっていくアイデアです」と明かしている。モラル的にグレーなキャラクターの物語はいつだって興味深く、視聴者を虜にするのだ。

ジョージ役を演じるのは、英国ドラマ界で活躍するパーパ・エッシードゥ。名門劇団ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー出身で、ハムレット役を務めたこともある実力派だ。HBOとBBCによる傑作ドラマ「I May Destroy You(原題)」では主要な役どころを務め、エミー賞助演男優賞など数々の賞にノミネートされた。ほかにも、英クライムドラマ「ギャング・オブ・ロンドン」、A24製作のホラー映画『MEN 同じ顔の男たち』、「ザ・キャプチャー 歪められた真実2」といった注目作に次々出演し、今後さらなるブレイクが期待されている。

そして脚本・製作総指揮のジョー・バートンは、「Giri/Haji」の次に手がけた本作で、その実力を確固たるものにしたといえるだろう。これを証明するように、本作はRotten Tomatoesで100%という驚異的な高評価を獲得し、すでにシーズン2の製作も決定している。バートンは今後も、マイケル・ベイ監督とタッグを組むアクションドラマや『クローバーフィールド』シリーズ最新作など、話題作が目白押しだ。

ちなみに脇を固めるキャストは、アーチー役の「ボディガード-守るべきもの-」アンジリ・モヒンドラ、サラ役の「ピュア」チャーリー・クライヴほか、『Mank/マンク』トム・バーク、「ザ・スプリット 離婚弁護士」ルディ・ダーマリンガム、『ボイリング・ポイント/沸騰』ヴィネット・ロビンソン、「奇術探偵ジョナサン・クリーク」キャロライン・クエンティンらが名を連ねている。

SFアクションを軸にタイムリープの代償に真っ向から挑んだ本作は、観るものを1秒たりとも退屈させないはず。同ジャンルのファンはもちろん、誰もが夢中で全8話を完走するだろう。

ラザロ・プロジェクト
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ドラマ 「ラザロ・プロジェクト 時を戻せ、世界を救え!」全8話は、「スターチャンネルEX」 で字幕版・吹替版ともに2023年4月5日(水)より配信開始。毎週1話ずつ更新となる。また「BS10 スターチャンネル」STAR1では字幕版が5月29日(月)夜11:00より、STAR3では吹替版が6月9日(金)夜10:00より放送開始だ。

参照:RadioTimes
Supported by スターチャンネル

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KyokoKyoko Okajima

アメリカ留学、大手動画配信サービスの社員を経て、ライターに転身。海外ドラマが大好きで、永遠のNo.1は『ブレイキング・バッド』と『ベター・コール・ソウル』。

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