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「観客はバカにされたくない、そんな時代は終わった」 ─ 『THE MONKEY/ザ・モンキー』オズグッド・パーキンス監督インタビュー

THE MONKEY/ザ・モンキー
Matt Winkelmeyer_Getty Images

“ホラーの帝王”スティーヴン・キングの短編「猿とシンバル」を原作に、『ソウ』シリーズなど数々のヒット作を生み出してきたジェームズ・ワンがプロデュースを務め、『ロングレッグス』のオズグッド・パーキンスが監督と脚本を務めた映画『THE MONKEY/ザ・モンキー』が2025年9月19日より日本公開となる。

父親が遺したぜんまい仕掛けの謎の猿のおもちゃを双子の兄弟が見つけたことをきっかけに、周囲で“不慮の死”が相次いで起こりはじめる。猿がドラムを叩くと誰かが死ぬと気づいた兄弟はこれを葬ろうとするのだが……?

ねじを巻いて、あとはお楽しみ。常軌を逸した、笑えるほどに残虐な死亡シーンが次から次へと爆発的に飛び出し続ける狂気の映画。THE RIVERでは、今ホラー界で最も注目を集めるオズグッド・パーキンス監督に個別でインタビューを行い、本作のねらいや昨今のホラー映画事情について話を聞いた。

THE MONKEY/ザ・モンキー
© 2025 C2 MOTION PICTURE GROUP, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

『THE MONKEY/ザ・モンキー』オズグッド・パーキンス監督 インタビュー

──このクレイジーな映画『THE MONKEY/ザ・モンキー』は、前作『ロングレッグス』とは真逆と言えるアプローチです。前作はジワジワとした恐怖感がありましたが、今作は大胆で残虐な暴力全開。こうしたトーンの変化や、新しいアプローチについてお聞かせください。

全ての映画は異なるものだと思います。自分の個性をそこに注ぎ込んでいるのなら、そうなるものです。僕たち人間は複雑なもの。幸運なことに僕は、大舞台に立つアーティストになることができた。だから、自分自身と観客に対して、提供するものに多様性を持たせる義務があると思うんです。

例えばビートルズでも、ボブ・ディランでも、あるいはスタンリー・キューブリックでも、世界に大きな影響を与えたアーティストのような人たちの作品は全て、それぞれの本質に合致していますよね。

この映画の場合、実は、僕は「怖いスティーヴン・キング」というのはあまり好みではないんです。むしろ、スティーヴン・キング(の作品)を怖いと思ったかどうかさえ、あやしい。それよりも彼の作品に感じるのは、ノスタルジーです。遊び心があるし、感情中心。彼の物語は、家族や子供、親、その喪失というものが題材になっていて、実に人間らしいんです。

だからこそ、今作は人間味あふれる映画になると思いました。それに、悪役がおもちゃの猿という性質もあるから、シリアスにやりすぎるのは不自然だと思ったんです。だから、猿がトリックスターであるということを踏まえれば、僕ならではのユーモアのセンスがうまくマッチすると思って、楽しい映画にすべきだと思ったんです。

THE MONKEY/ザ・モンキー
© 2025 C2 MOTION PICTURE GROUP, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

──スティーヴン・キングの原作小説のどのような部分を強調したり、拡張したりしましたか?

僕にとってのスティーヴン・キングはこうだ、という作品を作りたかったんです。僕たちはみな、異なるアーティストから受けた経験を持っていて、それによって、その人ならではのものが引き出される。お話ししたように、スティーヴン・キングの作品にはある種の魅力、独特の魅力を感じています。ずる賢い知性のようなものがあって、彼のやるところにはどこかニヤリとした笑みが潜んでいる。その感覚を捉えたかったんです。観客に対するちょっとしたウインクというか。「一緒にいるよ、疎外感は感じさせないよ、親しみがあって面白いものだよ」という気持ちです。

──劇中では、クレイジーな死亡シーンが山ほどあります。スタジオから「流石にやりすぎ」と止められたことはありましたか?それとも、もっとクレイジーにやるよう後押しされた?

「やりすぎ」と言われたことは一度もないですね。「ホラー」と「笑顔になれるホラー」のバランスをしっかり取っていましたから。もっと漫画的な感じにするつもりでした。映画のテーマやキャラクター描写、雰囲気が地に足着いていて誠実に感じられる範囲内でね。僕としては、好きなだけクレイジーにやっていい許可をもらった気分でした。

だから、引き下がったり、何かをカットしたり、省いたりしたことはありません。むしろ最終的には、いくつか追加要素も加えたほどです。そのほうがこの映画はうまくいくと気づいたから。言うならば、遊園地のジェットコースターに、アップダウンをもう一つ加えたような感じですね。

THE MONKEY/ザ・モンキー
© 2025 C2 MOTION PICTURE GROUP, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

──ムチャクチャな死亡シーンは、アニメ「Happy Tree Friends」を思い出しました。また、死のドミノ描写は『ファイナル・デスティネーション』シリーズもありますね。何かインスピレーションを受けたものはありますか?

インスピレーションを受けたのは、バッグス・バニー、ワイリー・コヨーテとロード・ランナー、シンプソンズ、イッチー&スクラッチー、それから、パンチとジュディもそうですね。お互いを殴り合うパペット・コンビです。僕らがやっていたのは、そういうアメリカン・カートゥーンに近いかもしれません。

──ところで、もともと猿の人形はシンバルを叩くものだったけれど、『トイ・ストーリー3』に登場したため権利がディズニーにあって使えなかった、というのは本当ですか?

僕もそう聞きました。「やりたいことをなんでもやっていいけど、一つだけ、シンバルの猿人形は使えません。『トイ・ストーリー』に出ていたからです」とね。だから権利がディズニーにあるということらしくて。実際のところ、彼らが権利を持っているかどうか、詳しい事情は知りません。

でも、同じことを繰り返したくないという思いもありました。代わりにドラムになったことが、むしろ幸いしたと思います。ドラムの方がリズム感が出るし、サーカスのドラムロールみたいになった。一般的に、ジョークの時もリムショットを使うものですから、ドラムの方がハッピーな状況に合うでしょう。そういう(シンバルを使えないという)制約が、むしろ広がりを作ったと思います。

THE MONKEY/ザ・モンキー
© 2025 C2 MOTION PICTURE GROUP, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

──かなりのバイオレンス描写ですが、同時に笑えてしまいました。ただの恐怖だけではなく、笑いも求めたのですね。

はい。まさに、それが本作の狙いです。人は誰しも、いずれ死ぬということに向き合う。そういうことです。良い死もあれば、良くない死もある。綺麗な死もあれば、とんでもなくメチャクチャな死もある。計画的な死もあれば、全く予想外の死もある。そして、我々は皆、そのことに向き合わなくてはならない……。

この考えと観客を結びつけるために、死をとにかく馬鹿馬鹿しく、シュールで、ハイパー非現実的なものにしたかったんです。メリー・ポピンズが“A Spoonful of sugar helps the medicine go down(ひとさじの砂糖で薬は飲める=楽しみが少しあれば苦痛も受け入れられる)”と言っていましたが、それと同じです。死にも楽しいものがあれば、“僕たちはいつか死ぬ”という事実が受け入れやすくなると思って。

──中でもお気に入りの死のシーンはありますか?限界を超えたぞと思えるような。

やっぱり、プールでスイマーが爆発するシーンですね。……

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者、運営代表。執筆・編集から企画制作・取材・出演まで。数多くのハリウッドスターに直接インタビューを行なっています。お問い合わせは nakataniアットriverch.jp まで。

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