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DC『The Sandman』は「贅沢なひと時」 ─ 森川智之、オーディオドラマの可能性語る【インタビュー】

DCコミック原作、ニューヨークタイムズでベストセラー入りを果たした伝説的ダーク・ファンタジー『The Sandman』が、Amazonオーディブルにて初のオーディオ・ドラマ化を果たした。傑作コミックの物語が、作り込まれた音風景とともに日本語音声で楽しめるとして、既に高い評価を得ている。

『The Sandman』オーディブル版では、作家のニール・ゲイマンが共同制作総指揮を、多数の受賞作品をもつダーク・マグスが脚色と監督を務めた。楽曲は英国アカデミー賞受賞の作曲家、ジェームズ・ハニガン。類を見ない映画的な音風景を再現している。

その声のみを日本語にして製作された日本版では、ナレーターを俳優の今井翼、主人公・サンドマン役を声優の森川智之、デス役を女優の南沙良が担当。DCコミックスの世界観の中で、ギリシャ神話などもモチーフにした哲学的で壮大なダーク・ファンタジーが紡がれる。THE RIVERでは、夢と物語と想像を司る不死の王、“サンドマン”ことモルフェウスを演じた森川智之にインタビューを行った。

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音声だけで展開される作品としては、古くは「カセット文庫」「CDドラマ」「ラジオ小説」などとして親しまれたものがあった。森川自身も声優としてのキャリアで経験していたものだが、『The Sandman』は最新の音響やSE技術を活用した進化型だ。森川は、「これまでやってきたこととは一線を画しています。作り込みがすごくて、まるで映画のよう」と舌を巻く。

コロナ禍が到来するほんの数年前まで、声優の収録は共演者らで集まって、一本のマイクを前に入れ替わり立ち替わりで演じるのが慣例だった。「僕は昔の人間」という森川はかつての共演型収録を懐かしみながら、今では1人ずつの収録がスタンダードになったと語る。

『The Sandman』でも、森川は1人での収録を行った。すでに収録済みの日本版声優の音声を聴きながら演じた部分もあれば、オリジナルの英語版を相手に演じるシーンもあった。

収録にあたっては、定められたタイミングぴったりにセリフを発する必要があった。『The Sandman』はオリジナルの英語版を基にグローバル展開される作品。SEやBGM、タイミングなどが緻密に設計されているので、日本語版のみセリフの尺を独自に変更することが許されないためだ。その制約は、ベテランの森川をもってしても「すごく大変だった」という。

タイミング通りに演じるという点では、従来のアニメや洋画吹替とも同じと思えるが、森川は「全然違います」と説明する。「画があると、画に助けられるんです。画が芝居するからです。しかしオーディオドラマでは、声だけで“間”を成立させないといけない。会話のシーンで一番大切なのは、“間”。それが“生き間”になるか、“死に間”になるかで、会話が成立するかどうかが変わる。なかなか大変でしたよ」。

『The Sandman』は全20チャプター。収録量も多く、その規模には森川も驚かされた。数日間にわたった収録は、まるで暗闇を手探りで進むようなものだった。初の試みだったゆえ、「完成形がわからなかった」からだ。「アニメや映画の吹替だったら、やり慣れているから、こういう感じに仕上がるだろうと想像できる。オーディオドラマは初めてのものだったので、完成された時にどう聴こえるのだろうかと、不安でした」。

完成された本作を聴いて、改めて『The Sandman』の持つパワーに圧倒されたという森川は、「本当に楽しいです」と手応えを語る。声優の中には、担当した作品を自分で鑑賞することを嫌う者もいるが、森川は「自分の作品を鑑賞するのは大好き」という。「もちろん、めちゃくちゃ反省しますよ。こうすればよかった、ああすればよかったって。でも、それは後の祭り。これは出来上がったもので、これ以上のものはもう無いわけですから。それはそれで、自分の関わった作品を思い切り楽しもうという感じで、よく観ています」。

『The Sandman』はDCコミックが原作であるため、劇中にはゴッサムシティやジャスティス・リーグ、ジョン・コンスタンティンといった、DCでお馴染みの設定やキャラクターが登場する。森川は、これまでにDC映画『バットマン & ロビン Mr.フリーズの逆襲』(1997)ロビン役や『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(2020)ブラックマスク役の吹替を担当しており、DCユニバースへの縁も深い。

「ダークなところが好き」と、森川はDCの魅力を語る。「人間の裏側にあるものを、ストレートに表現してくれる。ダークヒーローには憧れます」。『The Sandman』は、まさに森川の好むDCらしさがよく現れた深奥なダーク・ファンタジーだ。

オーディオドラマは、声優の力量が特に問われるフォーマット、とも言えるかもしれない。オーディオドラマという特性に合わせて、森川は敢えて「全てわかりやすくしすぎない」演技プランを設計した。状況説明めいたものはSEやBGMに任せ、自身の演技は、「聴き手を少し飢えさせる」よう、余白を持たせる演技を心がけている。森川自身も、製作側からイメージボードなどは受け取っておらず、手渡されたのは収録用の台本のみ。想像力を働かせながら収録に挑んだ。

受け手は、耳で聴くセリフやナレーション、SEやBGMだけを頼りに、頭の中で音風景を思い描いて楽しむ。「一人ひとりが、音だけで匂い、距離、温度、風を感じて、自分だけの『The Sandman』の世界を脳内で作り上げる。ハイセンスな大人の娯楽になると思います。聴き手の想像力を掻き立てるような、刺激的なフォーマットです」。

森川はオーディオドラマを「新しいエンターテインメント」と表現し、その最初期の作品となる『The Sandman』に携われたことが嬉しいと笑顔。「今後オーディブルで様々なオリジナルドラマが登場するのでは」と期待をにじませた。「今は情報社会。すべて人が作って、100%出来上がったものを与えられて楽しんでいる現代の若者に、自分の頭の中で物語を作り上げるという贅沢なひと時を経験して欲しいですね」。

『The Sandman』はAmazonオーディブルにて配信中。

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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