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【レビュー】『最後のジェダイ』はいかにしてスター・ウォーズの伝説をリセットしたか ─ 「古いものは滅びるべき」

©Walt Disney Studios Motion Pictures ©2017 & TM Lucasfilm Ltd. 写真:ゼータ イメージ

「古いものは滅びるべき」

かつてフォースを「カビのはえた宗教」と笑ったハン・ソロに、『フォースの覚醒』は「全て真実だ。ダーク・サイドも、ジェダイも」と認めさせることで、ジェダイやシス、フォースの神秘性を維持した。『最後のジェダイ』で、再びこの神秘を「カビ臭い」としてゲラゲラ笑いながら燃やした人物は、ヨーダだった。「弟子に超えさせることが、マスターにとって真の重荷」とは、新世代に受け継がなければならないスター・ウォーズそのものを示唆していた。ダース・ベイダーのリフレインであるカイロ・レンのマスクはスノークから「バカげたもの」とこき下ろされた後に粉砕され、そのカイロも「古いものは滅びるべき」と言った。1977年から続くスター・ウォーズの歴史は、『最後のジェダイ』で完全に大転換を迎えた。「スター・ウォーズにはね、」──ファンが嬉々としてこう語ることはもう無いのだろう。「全作かならず、どこかに”嫌な予感がする”というセリフが登場するんだよ。」

戸惑うファンの心情は、シリーズ皆勤賞のC-3POにピタリと重なる。ユーモアと箸休めの象徴だったこの黄金のプロトコル・ドロイドは、「不安な顔」をして登場する『最後のジェダイ』ではまるで邪魔者かのように背景の一部に追いやられた。彼は、共に新キャラクターのポー・ダメロンとホルド提督、その両者の間で「不正だ!」として立ち往生していた。新たなキャラクターに全く馴染むことの出来ない心情の写しを見た。一方で相棒のR2-D2は、もはやカメオ登場に近い扱いとなった。

「フォースはそういうものじゃない」

『最後のジェダイ』では、ルーカスフィルム/ディズニーが提示する新しいスター・ウォーズに付いていく覚悟があるかどうかを観客に尋ねていく。フォースの概念は、「ミディ=クロリアン」とは異なったベクトルで蛇足的説明と新設定が加えられる。

我々は『新たなる希望』でオビ=ワン・ケノービから「フォースはジェダイの力の根源だ。生命体がつくり出すエネルギーの場で、我々を取り囲み、満たしてくれる。銀河全体を結びつけるものだ」と教えられていた。『最後のジェダイ』では、改めてレイの感覚を通じてフォースとは何たるかを観客に示そうとする。「何が見える」「島、生、死と腐敗、新たな生、暖かさ、冷たさ、平和、暴力、バランス、エネルギー、フォース…」レイの体感するフォースは、ナショナル・ジオグラフィックめいた大自然の映像で提示され、かつて仄めかされた詩的な印象をデリカシーなく打ち消す。

そして新しいスター・ウォーズのフォースは、見境ない力を纏って威厳すら捨て去っていく。『フォースの覚醒』でシールドの破壊方法を探るフィンが「フォースを使おう」と口走ると、ハン・ソロは「フォースはそういうものじゃない」と注意した。しかし、『最後のジェダイ』では突然、「フォースはそういうものじゃない、のでは」と疑問を抱かせる描写が続々と、さもドラマチックに登場する。宇宙空間に投げ出されたレイアはクリプトン星人さながらに飛行して生還し、レイとカイロ・レンはフォースを通じてSkype通話を行う。ルークの分身の術は、今後のスター・ウォーズが“もう何でもあり”であることを示唆する。想い出の場所であるべきミレニアム・ファルコン号の内部に勝手に巣を張る珍妙なポーグのように、『最後のジェダイ』は聖域に土足で立ち入って行く。

新キャラクターたちの行方

新たなスター・ウォーズをキャラクター・ドリブンな物語とすることで、可能性を広げたい思惑は理解が出来る。しかし、肝心のキャラクターたちは上滑りする。とりわけ批判の中心となりそうなのはローラ・ダーン演じるホルド提督だ。ただ作戦内容を聞きたかっただけのポー・ダメロンに対し必要以上に嫌味な態度をとることで観客に嫌悪感を与え、しかしながら「レイアの旧友らしいから」という特権で「フォースと共にあらんことを」のセリフばかりか、自らを犠牲にして仲間を救う美点だけを奪って退場していく。その大仕事をアクバー提督に与えてやるべきだったのではないかという意見が単なる懐古主義だとしても、わずかな時間でホルド提督を見直し、彼女の犠牲を惜しむのはあまりにも困難ではないだろうか。

『帝国の逆襲』(1980)で敵か味方か掴みかねる様子だった助っ人のランド・カルリジアン伯爵はすっかり人気キャラクターとなったが、ベニチオ・デル・トロ演じる吃音症のならず者DJはどうだろうか。”関わるな(Don’t Join)”を通り名の由来とし、大義を持たないDJは「善も悪も表裏一体」とするスター・ウォーズのテーマのひとつ(ジェダイでなくいち民間人の立場で見つめる様子は『ローグ・ワン』的)を彷彿とさせたが、DJはフィンとローズを大きく裏切って消えた。今のところ、DJの魅力は明らかにデル・トロの演技力に由来するものではないか。

Writer

中谷 直登
中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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