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『トップガン マーヴェリック』の大ヒット、『スパイダーマン』ソニー幹部はどう見たか ─ 「彼らは我々の挑戦から利益を得ている」その真意は

スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
©2021 Columbia Pictures Industries, Inc. and Marvel Characters, Inc. All Rights Reserved. MARVEL and all related character names: © & ™ 2022 MARVEL

トム・クルーズ主演『トップガン マーヴェリック』は、いまや全世界興行収入12億ドルを突破し、トム・クルーズ&パラマウント・ピクチャーズ史上最大のヒット作となった。2020年からコロナ禍に苦しんだ映画業界にとって、全世界で老若男女を問わない支持を得ている本作は“業界の復活”を象徴するような一本だ。

コロナ禍で10億ドルの大台を超えたのは、ソニー・ピクチャーズ製作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021)の世界興収19億ドルに続いてまだ2作目。その快進撃を眺めながら、ソニー・ピクチャーズを統括するサンフォード・パニッチ&ジョシュ・グリーンスタイン氏が現在の心境を米Vultureに明かしている。

そもそもコロナ禍において、大手スタジオは厳しい対応を迫られてきた。『TENET テネット』(2020)でいち早く劇場公開に臨んだワーナー・ブラザースは、苦境を受けて2021年の公開作品をすべてHBO Maxで同時配信する奇策を講じ、残念ながら小さくない傷を負っている。ディズニーもディズニープラスでの配信展開に重きを置き、スカーレット・ヨハンソンに訴えられたほか、ピクサー映画は劇場公開を見送られ続けた。そんな中、ソニーは大手スタジオの中では自社サービスを唯一持たず、各プラットフォームに作品を売却しつつ、話題作を劇場に放つタイミングを見計らってきたのである。

ヴェノム レット・ゼア・ビー・カーネイジ
『ヴェノム: レット・ゼア・ビー・カーネイジ』©2021 CTMG. © & ™ 2021 MARVEL. All Rights Reserved.

『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』を米国公開した2021年10月の時点で、「ほかに大作映画はまったくなかった」とはグリーンスタイン氏の談。『ヴェノム』の公開が延期され続けてきたように、このタイミングで話題作を公開するのは「大きなギャンブルだった」のである。その後もソニーは『ゴーストバスターズ/アフターライフ』(2021)や『アンチャーテッド』(2022)を投入しているが、グリーンスタイン氏は当時の様子をこう振り返った。

最大の賭けは『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』でした。ありとあらゆる大作映画が逃げ出している中で、我々にとって最も大きく、最も重要なIP(知的財産)で勝負するわけですから。」

勝負の結果は冒頭に触れた通りだが、ソニーは本作にかかわらず、『ヴェノム』『ゴーストバスターズ』『アンチャーテッド』の興行をいずれも成功と言える水準まで持っていくことを実現している。そのプロセスはコロナ禍からの復活に対する投資活動のようでもあったのだろう、パニッチ氏は『トップガン』のヒットに対する率直な思いをこう語った。

「いま、『トップガン』について“これが映画業界の復活だ!”という報道がたくさん出ていますよね。けれども私に言わせれば、変な話ですが、『トップガン』は我々の挑戦から利益を得ているわけです。『トップガン』の達成を叶えたストーリーは『ヴェノム』から始まっている。こういうことはたった一夜で起きるものではなく、種を植える必要がありますから。」

ブレット・トレイン
『ブレット・ トレイン』

2022年夏の映画興行で、あえてソニーはシリーズ作品やリブート作品ではなく、よりオリジナル性の高い話題作を仕掛ける。伊坂幸太郎原作&ブラッド・ピット主演の『ブレット・トレイン』や、世界的ベストセラー小説『ザリガニの鳴くところ』(早川書房)を映画化した『Where the Crawdads Sing(原題)』だ。グリーンスタイン氏は「大人の観客も我々の業界において重要な存在」だと言い、パニッチ氏も「IPはこれまでもこれからも重要な価値を持つものですが、私たちはオリジナリティにも重きを置いている」と述べた。

『トップガン マーヴェリック』が大ヒットしている今、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』などでその先鞭をつけていたソニー・ピクチャーズは、すでに新たな目標に向けて走り出しているのかもしれない。『ブレット・トレイン』は2022年9月1日に日本公開予定、次なる勝負にも要注目だ。

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Source: Vulture

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。