「ベタな映画」にみられる「王道」と「普遍性」 ― 2018年、アカデミー賞有力候補作品から

2018年、アカデミー賞有力候補作品から
2017年が終わり、2018年が始まりました。つまり、2017年公開作品の賞レースへの締め切りが到来し、アカデミー賞をはじめとする年度の映画を対象とした賞が始まります。主だった2017年の米国公開作品を確認すると、第90回アカデミー賞の有力コンテンダーには際だって高い評価を受けているものがなく、予想屋の方々にとっては少々結果を読み辛いものになりそうです。
前哨戦で名前が挙がってきた作品の中で、本稿の題と関連する意味で私は2つの作品に注目しています。
『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』、『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』(ともに2018年3月30日公開)です。
前者は第二次世界大戦前夜、就任直後の英国首相ウィンストン・チャーチルが、自由と理想のためにナチスドイツと闘うか、平和交渉の道を選ぶか模索する様を描く実話映画。かたや、後者はベトナム戦争に関する極秘文書を暴露したワシントン・ポストの記者の実話映画です。
他の有力作品にも大なり小なり言えることですが、この2作品には特によく当てはまるものがあります。それは「よく似た企画の作品で権威のある賞に関わったものを容易に挙げることができる」ことです。
『ウィンストン・チャーチル』は「英国首相チャーチル」を「英国王ジョージ6世」に変換すると『英国王のスピーチ』(2010)と大まかに一致します。どちらも「戦時下における偉人伝」という、今までに何度となく作られてきた映画なのです。
古くはジョージ・パットン将軍を主人公とした『パットン大戦車軍団』(1970)などがその例であり、こういった比較的近代の偉人を演じた俳優は賞でのウケがいいことも過去の例が示しています。実際、パットン将軍を演じたジョージ・C・スコットもジョージ6世を演じたコリン・ファースもアカデミー賞で主演男優賞に輝いています(スコットは受賞を辞退)。チャーチルを演じるゲイリー・オールドマンもゴールデングローブ賞という権威ある賞で主演男優賞を獲得しており、アカデミー賞でも有力候補と言われています(本稿執筆時点で主演男優賞へのノミネートが決定)。不朽の名作と名高い『アラビアのロレンス』(1962)も「戦時下の偉人伝」で「比較的近代の実在の人物が主人公」の作品であり、そういった意味では同じ括りに入れることができそうです。
一方、『ペンタゴン・ペーパーズ』は「ベトナム戦争に関する極秘文書」を「ウォーターゲート事件」に変換すると『大統領の陰謀』(1976)と概ね一致します(本稿執筆時点で作品賞へのノミネートが決定)。「ジャーナリストによる告発」も古くから少なからず作られてきた企画です。グレゴリー・ペック扮するライターがユダヤ人差別を告発する『紳士協定』(1947)はフィクションですが、「ジャーナリストによる告発」という点では同じ枠に入れることができるでしょう。『紳士協定』はアカデミー賞の作品賞を獲得しており、この題材は古くから賞のウケがいいことがわかります。
そのためか「あからさまな賞狙い」と批判する向きがあるようですが、私はこういった既視感のある企画が作られることを特に悪いとは思いません。こういった映画は類似するものが多い「ベタな企画」ともいえますが、これだけ世間で高く評価されているということは、それだけ多くの人に受け入れられてきたということでもあり、言い換えれば「普遍的な企画」ともいえるからです。
アカデミー賞映画に共通するもの
このような文章を生産し、せっせと寄稿していることから当然推測がつくかと思いますが、私はそれなりに熱心な映画ファンです。それなりに熱心ですので、話題作は大体鑑賞していますし、「アカデミー賞受賞」「アカデミー賞候補」という宣伝文句がついているものは脊髄反射的に飛びついてしまいます。
アカデミー賞は芸術性と娯楽性のバランスが取れた中庸的な作品を好む傾向にあります。言い換えると多くの人に好まれる普遍的な内容のものが好まれる印象です。しかしその中には、鑑賞すると「期待以上でも期待以下でもない」という感想を持たされるものが毎年一本はあります。私にとって、ここ数年は以下の作品がその典型例でした。