テレビドラマ、映画からみるアメリカの捜査機関 ― リアリティへのあくなきこだわり

刑事ドラマはアメリカで非常に人気のあるジャンルです
2017年、視聴率ランキングの上位に度々顔をのぞかせたものだけでも、『クリミナル・マインド FBI行動分析課』(2005-)、『NCIS ~ネイビー犯罪捜査班』(2003-)、『シカゴ・P.D.』(2014-)などの名前が並びます。『クリミナル・マインド』と『NCIS』はすでに開始から10年以上が経過し、『NCIS』は2本のスピンオフ作品も好調の作品です。また『シカゴ・P.D.』と世界観を共有する刑事ドラマ『LAW & ORDER:性犯罪特捜班』(1999-)は2017年9月で19シーズン目を迎えるなど、刑事ドラマはアメリカにおいて安定した人気を誇っています。

わが国でも、現役長寿ドラマには『相棒』(2000-)があります。『相棒』の主人公である杉下右京は警視庁の刑事です。警視庁は東京を管轄とする警察組織であり、それとは別に警察庁があります。
日本の行政区分を大雑把に説明すると各都道府県に県警が存在し、その上に警察庁という構造になっています。つまり、警視庁と警察庁は字面上はそっくりですが別の組織です。それゆえに、『相棒』では時折、警視庁と警察庁の確執が描かれることもあります。

一方のアメリカは世界第3位、日本の約25倍という広大な国土を誇ります。そのため行政区分も日本より細かく区切られており、それによって各捜査機関の管轄範囲も変わってきます。さらに犯罪の発生率は日本の15倍とも20倍とも言われており、犯罪の種類も多種多様です。それゆえ捜査機関は日本と比べ物にならないほど多様に存在します。

今回は映画、テレビドラマにみられるアメリカの捜査機関を「地理的な管轄」と「専門分野上の管轄」の2つに分けて整理していきたいと思います。

地理的な管轄

日本の都道府県制度のように、アメリカにももちろん地理的な行政区分があります。国の下に州(state)、その下に郡(county)、さらにその下に市(city)が存在するのです。
アメリカ最大の都市であるニューヨークは少々特殊で、ニューヨーク市の下にマンハッタン、ブルックリン、クイーンズ、ブロンクス、スタテンアイランドの5区(5 boroughs)があり、これらは郡に相当する行政区分として扱われています。数々のスピンオフ作品を生み出したドラマ『LAW & ORDER』(1990-2010)には代々、地方検事と検事補が登場してきましたが、同作の舞台はマンハッタンで、彼らはマンハッタン検事局の所属です。
なお、これらの行政区分とは別に自治連邦区プエルトリコ、海外領土のグアム、首都のワシントンD.Cが属するコロンビア特別区(D.CはDistrict of Columbiaの略称)などが存在します。

アメリカの捜査機関は、これらの行政区分を地理的な管轄の違いとしています
まず、ニューヨークやロサンゼルスなどの都市で事件が発生した場合、最初にその管轄となるのが各市警察が抱えている「分署」です。分署は日本でいうところの「所轄署」のような存在で、ニューヨーク市警やシカゴ市警など大警察の刑事たちは大抵がどこかの分署に所属することになります。
『LAW & ORDER』の刑事たちはニューヨーク市警察27分署の殺人課の所属。同作と世界観を共有する『シカゴ・P.D.』の刑事たちはシカゴ市警察21分署の特捜班の所属です。『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY』(2012-)のグレッグソン警部が所属しているのも分署なら、『パーソン・オブ・インタレスト』(2011-2016)でファスコ刑事と仮の身分を得たリースが所属していたのも分署です。

分署の管轄を跨いだ範囲で事件が起きると、その上部組織である市警察の出番となります。
刑事ドラマにおいて事件を解決するのはより現場に近い分署の刑事たちですが、市警察本部所属の刑事たちが出てくる場合もあります。
『LAW & ORDER: クリミナル・インテント』(2001-2011)に登場するのは本部の組織である重要事件捜査班(MCS)所属の刑事たちです。本家『LAW & ORDER』の刑事が聞き込みによる地道な捜査を行っていたのに対し、『クリミナル・インテント』のゴーレン刑事は鋭いひらめきを持ったシャーロック・ホームズ型の刑事で、重要事件捜査班はエリートチームという設定になっていました(なお実際のニューヨーク市警察重要事件捜査班は通常、殺人は捜査しないとのこと)。

また、市の管轄を跨いだ範囲で事件が起きると郡警察の出番です。
80年代のヒット作となった『特捜刑事マイアミ・バイス』(1984-1989)とこちらもヒット作となった『CSI:マイアミ』(2002-2012)はともにマイアミ・デイド郡警察の刑事を描いた物語です。ちなみにマイアミは度々ドラマの舞台になっていますが、同じく人気作の『デクスター ~警察官は殺人鬼』(2006-2013)で主人公たちが所属するのは、同じマイアミでもマイアミメトロ警察の所属で管轄範囲が違います。

郡の管轄を跨いで犯罪が起きると州警察が出てくることになります。
州を管轄する捜査機関はあまり例がないのですが、『メンタリスト』(2008-2015)で登場人物が所属するCBI(架空の組織)はカリフォルニア州を管轄としており、現実世界における州捜査局にあたるものと考えられます。『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』(2014)の刑事はルイジアナ州警察の所属。同作の舞台はルイジアナの田舎町となっていますが、州警察が呼び出されたのは地元に凶悪事件に対応できる捜査機関が存在しなかったためと考えられます。映画『ディパーテッド』(2006)の刑事たちが所属していたのも州を管轄とするマサチューセッツ州警察です。

そして州の管轄を跨ぐ犯罪が起こった場合、いよいよFBI(連邦捜査局)の出番です。
FBIは様々な映画やドラマに登場しますが、今日の代表例は人気長寿ドラマとなった『クリミナル・マインド』でしょう。同作の捜査官たちはFBIのクワンティコ本部に所属する行動分析課(Behavioral Analysis Unit、BAU)のプロファイラーたちです。彼らは事件があれば全米各地どこにでも駆け付け、地元の捜査機関と連携して事件を捜査します。
なお、この描写は実情をかなり正確に反映しているといえるでしょう。FBIのプロファイラーの先駆け的存在となったロバート・レスラー(1937-2013)は、自著『FBI心理分析官』シリーズで自身の捜査の様子を度々描写していますが、彼は職務内容ゆえに地元捜査機関との関係に気を付けていたようです。

このようにアメリカの捜査機関は細かく地理的に管轄が分かれていますが、それ故に連携が上手くいかないということがあります。1968~1974年に発生し、今日も未解決であるゾディアック事件は、この行政区分による管轄を犯人が故意か偶然か巧みに跨いでいました。そのためサンフランシスコ・ベイエリア一帯の捜査機関で上手く連携が取れず、そのことが現在も事件を未解決としている一因と言われています。

専門分野上の管轄

アメリカでは多様な犯罪が起きるため、それぞれの分野を持ったスペシャリストたちが存在します。
人気ドラマ『NCIS』シリーズは、それまで一般にあまり知られていなかったNCIS(アメリカ海軍犯罪捜査局、Naval Criminal Investigative Service)を有名にしました。
NCISはアメリカ合衆国海軍省傘下の法執行機関で、脱走兵の追跡逮捕、海軍と海兵隊内部で行われる汚職や犯罪の捜査(軍法違反)、証人保護、国境を越える麻薬犯罪、反テロリズム、テロ対策、大規模国際詐欺、コンピュータ犯罪と防諜活動など職務内容は多岐に渡ります。NCISが海軍省傘下の組織であるように、陸軍にもCID(アメリカ陸軍犯罪捜査司令部、United States Army Criminal Investigation Command)があります。

NCIS、CIDはどちらも軍隊に関連する事件のスペシャリストであり、アメリカの捜査機関には様々なスペシャリストが存在し、それらの組織は必要があれば互いに連携を取る場合があります。

そうした組織同士の連携が描かれていたのが『NUMBERS 天才数学者の事件ファイル』(2005-2010)です。
主人公のドン・エップスはFBIロサンゼルス支局に所属するFBI捜査官でしたが、本作にはFBI以外に様々な組織が登場しました。銃の密輸や爆発物関連の事件ではATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)の捜査官が、麻薬関連ではDEA(麻薬取締局)の捜査官、逃亡犯の追跡ではUSMS(連邦保安官)が主人公たちと捜査を共にしています。

またアメリカには、特定の分野に特化した捜査機関が実際にいくつか存在します。
シークレットサービスは大統領の警護を行う組織ですが、同時に偽造貨幣の捜査を行う組織でもあり、もともとはそのために組織されたようなものでもあるのです。ニューヨーク市警察のような巨大な組織には、特定分野の犯罪のみを捜査する部署も存在し、特殊なものだとタクシー犯罪専門の部署や地下鉄の犯罪専門の部署などが存在します。

情報機関

最後にアメリカ情報機関についても述べておきたいと思います。つまり、ほぼイコールCIA(中央情報局、Central Intelligence Agency)です。
CIAは外国での諜報活動を行うアメリカ合衆国の情報機関であり、もちろん捜査機関とは違うものの、テロなどの危機を未然に防ぐために存在する組織なので、他の刑事ドラマに出て来る組織と広義においては同じと言えるでしょう。

このCIAの存在を、おそらくもっともリアルに描いているのが映画『シリアナ』(2005)です。
『ジェイソン・ボーン』シリーズのジェイソン・ボーンなどとは違い、ジョージ・クルーニー扮するCIA局員ボブ・バーンズは大立ち回りをするようなことが一切ありません。髭を生やして日焼けし、アラビア語を流暢にあやつり、一目では現地人と見分けがつかないように目立たないように振舞っています。
元CIA局員で同作の原作者であるロバート・ベアをモデルとしたボブ・バーンズは、CIAでも「ケースオフィサー」と呼ばれる立場の存在です。彼らは任地に赴いて情報の収集を行うことを職務としています。身分を偽って軍隊や政府などの関係者に接触し、信頼を得たと確信すると身分を明かし、彼らを寝返らせて情報源にします。そのため現地人に溶け込む必要があり、何よりも「目立たない」こと重要視します。
このように徹底的にスター俳優の存在感を消したCIA局員が登場するのは今のところ『シリアナ』だけであり、これ以上にCIAをリアルに描いているものはおそらく存在しません。

また補足ですが、対テロにおいてもCIAは国外での脅威に対応する組織です(アメリカ国内でのテロの脅威に対応するのはFBI)。『24 -TWENTY FOUR-』(2001-2014)に登場するCTUは架空の組織で、FBIとCIAの機能を併せ持った存在として描かれています。

 

米国刑事ドラマ、リアリティへのこだわり

アメリカのテレビ業界は超がつくほどの競争社会です。
ケーブル局を含めた多チャンネルをアメリカの家庭では普通に見られる状況で、各局は互いにしのぎを削りあっています。ですが、その中でも人気を誇っているものを見ると『NCIS』にしても『クリミナル・マインド』にしてもベタな設定で王道的な作りです。そうした刑事ドラマがなぜこれほどの支持を得ているのか、それはひとえに品質の高さにあると思うのですが、特にリアリティへのこだわりには壮絶なものを感じます。

『LAW & ORDER: クリミナル・インテント』が日本に輸入されたとき、最初に同作を放送したスーパー!ドラマTVは「現役の刑事から最もリアルに感じるキャラクターと評された」と紹介しましたが、これはリアリティへのこだわりの一端と言えます。
また、『NCIS』で長きにわたって看板キャラクターのギブス特別捜査官を演じているマーク・ハーモンは、シーズン1の撮影中にリチャード・W・ワーマック特別捜査官の依頼でNCISロサンゼルス支局に赴き、捜査官のフリをして審査官に支局の運営管理報告を行うというイタズラを敢行しましたが、審査官はハーモンが本物のNCIS捜査官だと信じて疑わなかったそうです。

本稿で書いてきた通り、アメリカには様々な捜査機関がありそれぞれに流儀が存在します。制作者はその作品が舞台としている捜査機関をその都度逐一調べ上げ、リアリティを実現しているという事になります。筆者はリアリティの有る、無しで作品を評するタイプではないのですが、こういった細かい積み重ねで作られる刑事ドラマを見ると制作者たちに敬意を感じずにいられません。

アメリカのテレビ界は『CSI』シリーズで「鑑識」という目立たない職務を徹底的に取材してスタイリッシュに描き、『NCIS』はそれまでマイナーな存在だった海軍犯罪捜査局をリアルに魅力的に描いて認知度を大きく向上させました。
おそらくまだ、一般にあまりに認知されていないスポットの当たらない捜査機関や職務は存在するのでしょう。群雄割拠するアメリカのテレビ界は、次に何にスポットライトを当てるのでしょうか。

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フリーエンジニア兼任のウェイブライターです。本職の傍ら映像制作にかかわっています。  何かあれば(何がかわかりませんが)こちらへどうぞ→scriptum8412@gmail.com 記事のご依頼、あるいは拙作を公開してくださる奇特な劇場主方等大歓迎です。

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