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アメリカン・ホラーがたどった進化 ─ 『クワイエット・プレイス』が象徴する新世代ホラーの特徴とは

クワイエット・プレイス
(C) 2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

クワイエット・プレイス』(2018)が面白い。そして、『クワイエット・プレイス』が登場した文脈には、アメリカン・ホラー映画の紆余曲折を感じずにいられない。一時期、停滞の気配すら漂わせていたアメリカン・ホラーがどうして10年代に入り蘇ったのか。ここでは、アメリカン・ホラー復活までの序曲を駆け足で解説していきたい。 

クワイエット・プレイス
© 2018 Paramount Pictures. All rights reserved.

ホラー映画が人気ジャンルになった理由

ホラー映画(Horror Movie)という言葉が一般化する前から、恐怖はアメリカ映画の人気モチーフだった。映画館をアトラクションだとしたら、ライド系と同等の迫力をスクリーンで味わうのは難しい。しかし、ホラーハウスと同等の恐怖なら与えられる。また、神話や都市伝説に出てくるモンスターは、スター俳優を用意できない小さなスタジオの看板役者にもなりえる。戦前、半漁人や吸血鬼、異星人などを扱った低予算映画が大量生産されたのは当然だった。

それでも、「ヘイズコード」と呼ばれた映像規制により、出血をともなう暴力シーンはアメリカ映画のご法度だった。しかし、当然ながら外国映画にはヘイズコードが適応されない。ヨーロッパやアジア発の、過激な暴力描写を含んだ映画は「グラインド・ハウス」と呼ばれる、2本立て、3本立て専門映画館の目玉になった。やがてヘイズコードが解禁され、暴力描写の限界が広がってからはアメリカでもスプラッタ・ホラーが製作されるようになっていく。

アメリカン・ホラーが経験したネタ切れ

その後、ホラー映画が発展してきた歴史を挙げるときりがないので、ここでは大幅に省略しよう。ただし、安定した人気を誇る一大ジャンルながら近年のホラー映画は「ネタ切れ」感をかもし出していたのも事実だ。確かに、アメリカ映画はジョン・カーペンター、ウェス・クレイヴン、ジョージ・A・ロメロといったホラー映画の天才たちを次々に輩出した。だが、彼らはいずれも70年代以前にデビューした監督であり、80年代以降、アメリカから革新的なホラー映画監督は数えるほどしか出てきていない。コーエン兄弟、フランク・タラボン、ジェームズ・キャメロンのように、活動初期はホラー界隈を拠点にしていたものの、やがて他ジャンルへと鞍替えしてしまった映画作家が大半だった。

90年代後半に日本で起こった「Jホラーブーム」にアメリカが食いついたのも、裏を返せば自国で新しいホラー・ムーブメントが停滞していた証でもある。アレハンドロ・アメナーバル、ギレルモ・デル・トロ、ピーター・ジャクソンなどはすべて外国人作家で、ハリウッドが輸入した才能だ。2000年代になると、アメリカン・ホラーはマイケル・ベイ製作映画のように、人気シリーズのリメイクやリブートで延命しているジャンルと化したのだった。

重要作だった『スクリーム』シリーズ

そんな中、決定打こそ欠いたものの、静かな流れと呼べそうな作品群が現れ始める。ケヴィン・ウィリアムソンが脚本を手がけた『スクリーム』(1996)から連なる学園ホラーたちだ。ホラー映画は10代や20代の若者がメインターゲットであるため、学園が舞台になっていること自体何も珍しくない。ただ、ウィリアムソンの映画は「メタ構造」という点で新しかった。『スクリーム』は単なるジャンルのパロディ映画とも誤解されがちだ。しかし実際に見てみると、映画作品のタイトルが次々に台詞で出てくるだけであり、直接的なパロディはさほど多くない。パロディというよりも、ホラー映画の「あるある」を逆手にとって観客を翻弄する、批評性に支えられた映画だといえる。

そして、『スクリーム』はホラー映画だけでなく80年代の学園ドラマの構造をも意識的に取り込んでいた。「学園を舞台にしたホラー映画」ではなく、「学園の人間関係が緻密に描写されたホラー映画」として、『スクリーム』は10代から絶大な支持を受ける。ウィリアムソン脚本の学園ホラー路線は『パラサイト』(1998)で集大成を見たといえるだろう。

ウィリアムソンはメタ表現としてのホラーに、新たな可能性を提示した。しかし、本人がホラー以上に「学園ドラマ成分」を好む人だったため、いつしかTVドラマ『ドーソンズ・クリーク』の製作総指揮を活動の中心にしてしまう。アメリカン・ホラーはウィリアムソンという重要キャストを欠き、再び過渡期へと舞い戻るのだった。

Writer

石塚 就一
石塚 就一就一 石塚

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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