【インタビュー】『アス』ジョーダン・ピール監督が語る「恐怖映画の作りかた」 ─ 『ゲット・アウト』手がけたスリラーの新旗手、クリエイティブの秘密とは

「僕の個人的に考える『アス』とは、家族や国とすごく関係があるものです。だから、この作品にはアメリカ的なシンボルがたくさん登場します。だけど普遍的な要素も確かにありますよ。特に、社会経済的な格差はどんな国にでもあるんじゃないかと思いますしね。
今回の作品は、僕が育った80年代を振り返るところも多いんです。当時のアメリカでは、楽観主義や愛国心に不安が付きまとっていました。楽観主義や愛国心というものが素朴だった時代だと思います。ロナルド・レーガン政権下で、Hands Across America(※1)やチャレンジャー号の事故(※2)が起こった頃のアメリカと、それから現在のアメリカ。この映画を作るにあたって、それらが僕の頭にあったことは間違いありません。」

(※1)1986年8月25日に開催されたチャリティーイベント。人々が15分間にわたって手をつなぎ、アメリカ全土を横断する“人間の鎖”を作った。参加者の寄付金などがアフリカに寄付された。
(※2)チャレンジャー号爆発事故。1986年1月28日、スペースシャトル「チャレンジャー号」が打ち上げの73秒後に空中分解し、乗組員7名が死亡した。
ストーリーテリングの旗手、物語への探求心
『ゲット・アウト』『アス』を世に放ち、プロデューサーとしても数々の映画やテレビドラマに携わるピール監督は、ハリウッドで最も注目されるストーリーテラーとなった。野心的なテーマ設定と緻密なストーリーテリング、そして監督としての優れた演出力は、時に「ヒッチコックの再来」とも呼ばれるほど。しかし、ピール監督による物語の発想法は、そんなイメージからすれば少々意外なものでもある。
「僕の場合、テーマよりも先にイメージが思い浮かぶんです。それは一瞬をとらえた画だったり、ひとつのシーンだったりするんですが、とにかくまずはイメージが見えて、そこから掘り下げていく。イメージの裏にある真実は何なのか、どうしてそのイメージに直感的に惹かれたんだろうか、と考えていくと、それが自然にテーマの本質に行きつくというタイプですね。まずはインスピレーションが先にあって、それが作品になるんですよ。」

『アス』には、前作『ゲット・アウト』と同じく、過去の名作映画へのオマージュもたくさん埋め込まれている。ピール監督自身の映画的記憶が、作品の創作にそのまま活かされているところもクリエイターとしてのポイントだろう。監督は「映画好きなら気づけるような仕掛けに惹かれます。ちょっと考えないと分からないような方法にも魅力を感じますね」と語っているが、まさしく『アス』はそんな一本だ。随所にあるオマージュから、物語の展開やテーマをひも解いていくのも面白いにちがいない。
ちなみに、ますます今後の活躍が期待されるピール監督は、いわゆる大作映画に関わることにまったく関心を示していないことでも知られている。かねてより「大作には興味ありません、ヒーロー映画は撮りません」と豪語してきた監督は、現在もその意志を曲げていないらしい。改めて聞いてみると、「ノー、やりません」と即答された。「自分で描きたい、オリジナルの物語がたくさんありすぎるんです。だから誰かの物語で成功するより、自分の物語で失敗したい」。
映画『アス』は2019年9月6日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中。