『ヴェノム』トム・ハーディがモーションキャプチャーを使用しなかった理由

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)や『ダンケルク』(2017)などで知られる人気俳優トム・ハーディが、『ダークナイト ライジング』(2013)以来のコミック原作映画に挑んだ『ヴェノム』。マーベル史上最も残虐なダークヒーローを複雑な感情をもって体現し、ヴェノムとして見事に変貌してみせた演技は全編を通してじっくりと味わうことができる。
ところが本作では、意外にも、ハーディは近年のヒーロー映画ではおなじみとなったモーションキャプチャー(パフォーマンス・キャプチャー)を使用していない。英Total Filmでは、ハーディの口からヴェノムそのものを演じる裏側が語られている。

トム・ハーディ、モーションキャプチャーを使用せず
前述の通り、ヒーロー映画において、いや近年のハリウッド映画において、人間以外のキャラクターを俳優が演じる際にはモーションキャプチャーが使用されることは一般的なものとなった。たとえば『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)ではジョシュ・ブローリンがサノス役を演じ、表情の演技までも細やかに表現されたことは記憶に新しい。『猿の惑星』3部作や『GODZILLA ゴジラ』(2014)、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)では、この分野の第一人者である名優アンディ・サーキスがその実力をいかんなく発揮した。
実はサーキスは、2017年10月に『ヴェノム』に携わることを認める発言をしていた。作品名こそ明言しなかったが、「トム・ハーディもパフォーマンス・キャプチャーで新たなキャラクターを演じます」と述べて、自身の設立したスタジオ「ジ・イマジナリウム」が本作に技術を提供する可能性を示唆していたのである。
ところが結果として、『ヴェノム』でハーディにモーションキャプチャーは使用されなかった。どういうことなのか……。
すでに複数のメディアで述べられているように、Total Filmのインタビューでも、ヴェノムの演技についてハーディは「モーションキャプチャーではありません」と明言している。その背景には、人間とヴェノムの根本的な違いがあったようだ。
「クリーチャーの、ヴェノムの目玉や口は、僕の目や口には合わないでしょう(笑)。だからモーションキャプチャーの要素はすぐに放り投げてしまったんです。表面的に、みなさんの目や歯、舌はこのキャラクターにはマッチしないんですよ。それにフィジカルなショットを撮るには、ライクラ(編注:ストレッチ素材)のスーツを着た7フィート(約213センチ)のバスケットボール選手が必要でしたしね。」

すなわち、ハーディ自身よりも大きく、また人間とは似ても似つかない顔のパーツを有するヴェノムを演じるうえで、ハーディがモーションキャプチャーを使用する必然性はなかったのだろう。
もちろんハーディが明かしているように、『ヴェノム』に一切モーションキャプチャーが使用されなかったわけではない。ハーディ自身の演技には採用されなかったが、ヴェノムのサイズや動きをCGで造形するため、スタントパーソンに対して技術はきちんと活用されているのだ。
本作におけるヴェノムがいかなる作業プロセスを経て表現されているのか、その詳細はわかっていない。ただしハーディは、スタントや実物を用いた視覚効果、VFXの融合について「精神的なパズル」と呼び、複雑な造形とキャラクターを演じる難しさをほのめかしてもいる。それにしても改めて驚かされるのは、主人公エディ・ブロックとヴェノムをきちんと演じ分け、それぞれのキャラクターに唯一無二の魂を吹き込んだハーディの表現力だ…。
『ヴェノム』公式サイト:http://www.venom-movie.jp/
Source: Total Film 2018 September