「ブルース・ウィリスがディープフェイク用にデジタル肖像権を売却した」は誤り、代理人が否定

引退を表明した俳優ブルース・ウィリスが自身のデジタル肖像権をディープフェイク関連会社に売却したとの報道が、ウィリス側によって否定された。米The Hollywood Reporterが報告した。
英Telegraphによる先の報道では、ウィリスが自身の顔を利用した“デジタル・ツイン”の製作を可能にするため、米Deepcake社に肖像権の使用許可を認めたとされた。同社Webサイトでは、ウィリスの声明として「自分のキャラクターの精確(な描写)が気に入りました」「私にとっては過去に戻る良い機会」と掲載された。
ウィリスは2022年3月に失語症のため俳優引退を表明。ディープフェイク技術は、ウィリスが再びスクリーンに戻れる好機と見られた。近年では類義技術を用いて亡くなった役者をデジタル蘇生させるケースが増加しているが、肖像権や倫理問題がネックとなっていた。ウィリスはハリウッド俳優で初めて自身のデジタル複製を恒久的に認めた事例になるとして注目を集めた。
ところが後になって、ウィリスの代理人が報道を否定。Deepcake社とはいかなる同意も交わしていないと明らかにした。
これを受けてDeepcake社の広報は、ウィリスのデジタル肖像権はデフォルトで当人に帰属するため売却はできず、同社と当人はCAA(エージェンシー)代理人の仲介に基づくものだったと主張。同社は実際に2021年の広告キャンペーンでウィリスのデジタル・ツインを製作した事例があるが、将来的な使用可否はウィリス次第であるとした。
同社が製作した広告とは以下の動画。拘束された男性の顔が、ほとんど違和感なくウィリスに置換されている。
Deepcake社とウィリスが、ディープフェイクを用いた映像を製作したことは事実であり、本件は同社Webサイトに実績として掲載されている。同欄には、「我々は、ヨーロッパの広告企画でデジタル・ツインのブルース・ウィリスを“雇用”しました」との見出しがある。これを受け、ウィリスがデジタル肖像権を永久的に売却したとの誤読が生じ、報道により話題が拡散されたものとみられる。
役者のデジタル肖像権については近年最も活発に議論されるトピックの一つだ。『スター・ウォーズ』ダース・ベイダー役声優のジェームズ・アール・ジョーンズは、自身の音声アーカイブを人工知能で再利用することを許可した。ウィリスの事例は事実ではなかったものの、実際にデジタル肖像権の使用を許可するケースが伝えられる日もそう遠くないはずだ。
Source:The Hollywood Reporter,Telegraph