【10 クローバーフィールド・レーン 考察レビュー】アメリカ人の潜在的恐怖を刺激する「密閉空間」と「世界の終わり」

「密閉空間」と「世界の終わり」

 恋人との諍いから家を飛び出したミシェル。しかし、何者かの車によって追突され、気がつけば地下室らしい空間に監禁されていた。食事や薬を運んでくるハワードという初老の男は、地上が謎の攻撃によって壊滅状態にあること、毒ガスのせいで大気が汚染されていることを告げられ、もしものときに備えてハワードが作ったこのシェルターから出てはいけないと厳命される。

ハワードの言葉は真実なのか、それとも妄想なのか、あるいは他の目的があってミシェルを監禁しているのか。ミシェルと観客は疑心暗鬼のままストーリーに引き込まれていく。

現在公開中の『10 クローバーフィールド・レーン』(’16)は、同じくJ.J.エイブラムス製作の『クローバーフィールド/HAKAISHA』と同じ地名をタイトルに冠しながら、その関連性も分からないままにストーリーが進行していく、異質のスリラーだ。果たして、『~HAKAISHA』同様にモンスターは登場するのか、それとも全く別の世界観を持つ映画なのかも明かされていない。タイトルからして、実に巧妙なギミックが仕掛けられている。

ところで、本作を見ていて思ったのは、アメリカ映画で度々登場する「世界の終わり」と「密閉空間への避難」というシチュエーションのことである。そこにはアメリカ人ならではの潜在的な、「ある恐怖」が垣間見えそうだ。

 「最後の審判」という潜在的恐怖

10 クローバーフィールド・レーン 考察レビュー

 「ある恐怖」を非常に分かりやすく説明してくれているのは、意外にもスクリューボール・コメディー『ディス・イズ・ジ・エンド 俺たちハリウッドスターの最凶最期の日』(’13)である。セス・ローゲン、ジェームズ・ブランコらハリウッドスターが本人役を演じる本作は、聖書にある最後の審判が到来し、世界が終焉を迎えたという設定。ブランコ宅でパーティーを行なっていたスター達は、世界に放たれた魔物から身を守るために立てこもる。善人はみんな天国に召され、地獄と化した地上に残ったのは悪人だけ。金と女とドラッグのことしか考えていないスター達はみんな悪人というわけだ。

キリスト教の聖典、『ヨハネの黙示録』によれば、世界の終焉には、全ての人間はキリストにより永遠の命を得る者と、地獄に送られる者に選別されるという。つまり、国家の形成においてキリスト教が大きく反映されているアメリカ人にとっては、「最後の審判」こそが潜在的な恐怖なのであり、フィクションにおいても度々モチーフにされているのだ。

 ラジオ版『宇宙戦争』のトラウマ

 さて、最後の審判的シチュエーションと、「密室への避難」を掛け合わせた最初の例は、オーソン・ウェルズが演出したラジオ番組『宇宙戦争』(’38)だろう。H.G.ウェルズのSF小説『宇宙戦争』を原作に、宇宙人からの侵略を単なるドラマとしてではなく、まるで臨時放送のように演出したことで、アメリカ中の家庭がパニックに陥ったという。以後、マイケル・ナイト・シャマラン『サイン』(’02)やフランク・タラボン『ミスト』(’07)など、ラジオ『宇宙戦争』のトラウマを再現したかのような作品は数多く製作されることとなった。外敵から身を守るために密閉空間へと避難する登場人物が、ラジオの前で『宇宙戦争』の放送に震えていたかつてのアメリカ国民と近い恐怖心を抱いているのは間違いない。また、『サイン』では実際にラジオで状況を確認するシーンも用意されている。ちなみに、今挙げた二作品とも信仰心が重大なモチーフになっており、「最後の審判」を意図的に連想させる構成になっている。

 最後に深読みをお許しいただきたいのだが、ギャレス・エドワーズ『GODZILA ゴジラ』(’14)における敵怪獣、ムートーについてである。ゴジラがムートーを倒した後で、実はムートーがつがいだったと判明する。旧約聖書では、最後の審判には「海の怪物」と「陸の怪物」の二匹が登場するという。だとすれば、ムートーもまた、「最後の審判」になぞられて設定された怪獣だったのかもしれない。

 長々と書いてしまったが、『10 クローバーフィールド・レーン』に怪獣が登場するかどうかが日本人観客の興味になるのは当然のことだが、アメリカ人にとっては、「世界の終わり」と「密閉空間」という組み合わせの時点で、十二分にトラウマを刺激される映画なのだと意識しながら見てみてほしい。

About the author

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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