THE RIVER編集部メンバーが選ぶ2021年のベスト3 ─ ポップカルチャーを愛するメンバーの、今年本当に良かった映画とは

コロナ禍から、少しずつ日常が戻りつつあった2021年。しかし、映画館の休業要請期間も長く続き、映画ファンにとって引き続き苦難の一年となった。
それでも、配信作品を含め、数多くの素晴らしい映画作品たちが、まだまだ厳しい2021年を彩ってくれた。仕事でも趣味でも、日々たくさんの映画を観るTHE RIVERの編集部メンバーにとって、特に心に残った作品は何だったのだろう?
読者のみんなで作る「THE RIVER AWARD 2021」の結果も楽しみだが、ここでは、海外ポップカルチャーをこよなく愛するTHE RIVER編集部4名の今年のベスト3を、それぞれ発表しよう。
SAWADYの選ぶ 2021年ベスト映画
第3位:『ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけている』
近年のポップ・シーンを席巻し、そのこれからを背負っていくビリー・アイリッシュに迫ったドキュメンタリー映画。今や共同クリエイターとして活動を共にする兄フィニアスとの子ども時代や音楽作り、そしてビリーを支えるオコンネル家……世界から発見される前と後のビリーの姿が映し出されていく。
この映画は、世界的ポップスターの知られざる側面を単にドキュメントしているだけでなく、パブリックイメージそのものの怖さを提示してもいる1作。表現者は、扱う題材やジャンルを象徴する存在だと思われてしまう傾向にあるが、必ずしもそうとは限らない。少々世話を焼きすぎな母親に甘えたり反抗したり、憧れだったジャスティス・ビーバーと対面してキュンキュンしたり、ボーイフレンドとの関係にヤキモキしたり、ありのままのビリーを見ていると、他人に抱くイメージとは幻影に過ぎないのだと強く考えさせられる。
第2位:『MINAMATA-ミナマタ-』
一等賞ではないものの、突出した何かのおかげで観る者を魅了する特別賞は欠かせない。ジョニー・デップが主演・製作を務めた『MINAMATA-ミナマタ-』が筆者にとってのそれだ。本作は、ジョニー演じる写真家のユージン・スミスの視点から、四大公害病の1つ、水俣病の真実を写し出した1作である。
その突出した何かとは、和室に佇むユージンやアイリーンたちにゆっくりとズームインしていくラストシーンの美しさだ。何も語らず、登場人物それぞれがカメラを見つめるだけの沈黙の時間には、「さて、これを観たあなたはどうする?」と言われているかのような、映画の強い力を感じたのだ。アイリーン役の美波には、目を奪われた。
第1位:『Tick, tick… BOOM! : チック、チック…ブーン!』
2021年の1位には『Tick, tick… BOOM! : チック、チック…ブーン!』を選ばせていただいた。傑作ミュージカル『RENT』生みの親にして、同作の成功を見届ける前に亡くなったジョナサン・ラーソンをアンドリュー・ガーフィールドが演じ、現代ミュージカルの最重要人物であるリン=マニュエル・ミランダがメガホンを取った1作だ。
ミュージカル映画としての評価は言わずもがな、ジョナサン・ラーソンという才能を蘇らせたアンドリューのパフォーマンスは非の打ちどころがなかった。お気に入りの楽曲は「スーパービア」のワークショップ本番のシーンで流れた「SEXTET」。一つの死が基になっている、悲劇が見え隠れしているストーリーではありながらも、映画を観終わった後に背中を押されるような希望に満ちた映画である。ミュージカル映画としての前衛的な仕上がりからは、フィルムメーカーとしてのリン・マニュエル・ミランダに大きな可能性を感じた。それにしても、今年は音楽映画に助けられた1年だったなあ。
ちなみに、最も多く観た映画は『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』。6代目ジェームズ・ボンド、ダニエル・クレイグが残してくれた5つの作品は、人生のバイブルとして大切にしまっておきたい。『007』60周年となる2022年、何かしらのビッグアナウンスに胸を踊らせながら、まずはダニエルの功績を称えることにしたいと思います。
MINAMIの選ぶ 2021年ベスト映画
3位:『17歳の瞳に映る世界』
ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した本作の主人公は、アメリカ・ペンシルベニア州に住む友達も少なく目立たない高校生、オータム。望まない妊娠をした主人公は、従妹であり親友でもあるスカイラーとともに、中絶に両親の同意が必要ないニューヨークにいくことになる。
どうして妊娠したのか。その理由を彼女は語らない。原題である『Never Rarely Sometimes Always(一度もない、めったにない、時々、いつも)』という質問を受けた少女の瞳から溢れる涙に胸が締め付けられるだろう。誰もが言葉に出せないままに直面している苦しみや生きづらさを抱えているはず。それでも、そばで支えてくれるのが友人というかけがえのない存在なのだ。繰り返しにはなるが、本作では主人公たちの想いの多くは言葉では語られない。しかし、それにより彼女たちが抱える想いが深く重くのしかかってくる。そのリアリズムに筆者は打ちのめされた。