ダニエル・クレイグ演じる6代目「007」を振り返る ― 成長するジェームズ・ボンド、ドラマ性の重視

そうした傾向が急に変わったのが6代目ボンドの時代でしょう。
シリーズ2作目となる『慰めの報酬』の監督がマーク・フォースターと発表になったとき、筆者驚きを禁じ得ませんでした。なぜならフォースターは『チョコレート』(2001)や『ネバーランド』(2004)など人間ドラマの演出で知られる人物です。のちに『ワールド・ウォーZ』(2013)というアクション大作も手掛けていますが、同作は『慰めの報酬』を経たの後であり、当時は全くアクションのイメージがない、「007」シリーズには縁遠そうな存在でした。
さらに驚かされたのは、シリーズ3作目となる『スカイフォール』の監督をサム・メンデスが務めると発表された時です。メンデスは舞台演出の出身で、フォスター以上に「007」シリーズへ繋がるイメージの薄い監督です。彼がアカデミー賞を受賞した『アメリカン・ビューティー』(1999)は典型的な小規模のドラマで、これを見て「007」のイメージと結びつける人は恐らく皆無でしょう。
ところが、メンデスの演出は6代目の「007」と水と油どころか豆とニンジンでした。『スカイフォール』は007の生い立ちにまで踏み込んだ過去に類例のないドラマだったのです。『スカイフォール』はアクションも非常に優れていましたが、さすがはメンデスでやはりキャラクターの扱いは出色でした。ドラマパートでは思い切ってステージング(長回し)を使うなど舞台演出家らしいアイディアも見られ、これはキャンベルやグレンのような職人では出てこない発想だったに違いありません。
『スカイフォール』は英国国内のシーンも多かったため、英国人でドラマを得意とするメンデスの起用はむしろこれ以上ない人選だったといえるでしょう。
そして次作は、サムと同じく英国人でドラマを得意とするダニー・ボイルです。今では映画監督として知られているボイルですが、キャリアの当初は舞台演出でキャリアを築いてきた人物です。メンデスとイメージの重なる部分が多い演出家であり、彼の起用もまた自然な流れという感じがします。また、2012年のロンドンオリンピックで開会式の演出を担当した際には、クレイグ演じるボンドにエリザベス女王をエスコートさせるという仕掛けで話題になりました。思わぬシリーズ再登板となりましたが、映画ではどのような仕掛けを見せてくれるのでしょうか。
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