【レビュー】『メッセージ』は「ハードSF」の皮をかぶった純文学映画だ

そして、この冒頭シークエンスに映画の叙述トリックが潜んでいたわけです。
終盤になって「ルイーズが娘を亡くしたのは過去ではなく未来のことだ」という時系列のトリックが判明するのですがこれが本当に見事でした。回想シーンは現在進行形の出来事と見分けがつくように画面の色調を変えるのが常套手段です。しかし、この映画では未来におきる出来事が明らかに回想らしく演出されており、ミスリードされてしまったのは私だけではないはずです。
またクライマックスになると「これでもか」とルイーズのクローズアップが多用されます。この映画は群像劇的な要素がほとんどなく、徹頭徹尾ルイーズの一人称による物語です。中盤までは引き目の客観的な画が多いため、クライマックスの怒涛のクローズアップ連打が画面的にも絶大な効果を発揮しています。
そしてこの「未来が見えたことでルイーズが感じたこと」は、映画のテーマとしてはっきりと明示されています。これこそ信号のやり取りのみだった『未知との遭遇』や、「また会おう」という曖昧なメッセージを残して異星人が去って行った『コンタクト』との決定的な違いです。もっともテーマについて必要以上に言語化してしまうのは野暮だし、陳腐化してしまいかねませんので、本記事ではテーマに関する言明は避けようと思います。
おわりに:良し悪しはともかく邦題が核心を突いている
しばしば映画の邦題は、原題のタイトルをまったく別の横文字で迎え撃つという、良いのか悪いのか判断に困るつけ方をされることがあります。たとえば『トゥモロー・ワールド』(2006)の原題は『Children of Men』、『ファミリー・ツリー』(2012)の原題は『The Descendants』と、原題と邦題が似ても似つかないものになっていることも少なからずあるのです。
この『メッセージ』も原題は『Arrival』ですから、邦題が原題を全く無視した形でつけられています。直接的すぎるきらいはありますが、この邦題、たしかに核心を突いているように思います。
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