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『アントマン&ワスプ』は30~40代男性必見 ― あらゆる性別・年代に訴えかけるマーベル映画のマーケティング力

アントマン&ワスプ
(C)Marvel Studios 2018

毎日が日曜日のよう
毎日何も起こらずどんよりしているだけ
(モリッシー「Everyday is like Sunday」)

 アントマン&ワスプ2018)で、主人公のスコット・ラング(ポール・ラッド)の着メロがモリッシー「Everyday is like Sunday」なのは、ブラックジョークだと捉えるべきだろう。英国を代表するロックシンガーが、休暇中にリゾート地で感じた退屈を歌ったヒット曲だが、2年間も自宅で軟禁状態にあるスコットの現状と重なる。もちろん、スコットは「どんより」とはしておらず、趣味のマジックやドラムに精を出しているのだが……。

1988年に英国でリリースされた陰鬱なナンバーを、このハリウッド超大作に使用しているのは、ジョーク以外の意図もあるはずだ。モリッシーといえば、元々所属していたバンド、ザ・スミスと併せて熱狂的なファンを持つミュージシャンである。そして、ドラムを愛するスコットもまた、青春時代はザ・スミスやモリッシーの洗礼を受けて育ってきたのではないだろうか。

『アントマン&ワスプ』は、スコットのようにモリッシーへの信望を共有できる世代がしっかりと楽しめる作品になっている。また、筆者のような日本人の感覚からすると、スコットと同年代の30代後半から40代の男性をターゲットにした超大作は、非常に貴重だと思えるのだ。

アントマン&ワスプ
MARVEL/PLANET PHOTOS 写真:ゼータ イメージ

「若い女性」をターゲットにした映画の動向

大前提として、世界中で映画業界が主なターゲットとして設定しているのは「若い女性」である。ファッションやカルチャーへの関心が高く、高確率で友達や恋人と一緒に劇場へと来てくれるからだ。もちろん、こうした宣伝戦略自体には何の問題もない。メインターゲットを大切にするのはありとあらゆる業界の鉄則である。

ところが、日本映画の現状を見てみると、「若い女性を狙った映画」が蔓延し、その結果、狭いターゲットを複数の映画会社が奪い合っていることが分かるだろう。試しにシネコンのスケジュールを見てみてほしい。少女マンガや恋愛小説の映画版、イケメン俳優や女性に人気のファッションモデルがメインキャストを張る映画があふれ返っている。ただし、このうちの何本が実際にヒットしているのだろう?

客観的に数字を追ってみる。映画公開時点で原作が100万部を突破していた、若い女性に人気の恋愛映画の興行収入を見てみよう。2004年の『世界の中心で、愛をさけぶ』は85億円の大ヒット。しかし、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016)や『君の膵臓をたべたい』(2017)の興行収入は『世界の中心で、愛をさけぶ』の半分にも満たない。もちろん映画自体の出来など、細かい要素の積み重ねによって興行収入は左右される。

とはいえ、2004年からの約15年間で同ジャンルの映画が増えすぎた結果、観客が分散しているという現象が起こっているのも事実だろう。純粋な発行部数でいえば小説をはるかに凌いでいるはずの少女マンガ原作映画でいえば、興行収入5億円前後で話題にもならないまま上映終了を迎えるケースも少なくない。

「難しいターゲット層」をどう狙う?

健全な映画産業は、一部のターゲットだけが楽しめるような仕組みになっていない。観客が年齢を重ねるごとに、テーマや作風として親しみやすい作品に出会えて、常に「見たい映画」がある状態こそ理想的といえるのではないだろうか。これは道義上の問題ではなくビジネスの話である。目先のターゲットだけを相手にしていると、シーンは必ず衰退する。しかし、配給側にとっては「難しいターゲット層」があるのも事実だ。

たとえば、(熱心な映画ファンをのぞけば)「中年男性」は訴求しづらい部類に含まれるだろう。特に、働き盛りとされる3040代の観客は映画を見に行く時間を確保しづらいし、パパさんたちは数少ないお小遣いを映画に回しにくいという問題もある。こうした層への訴求を後回しにして、若い女性向けに映画を作りたい事情は理解できなくもない。それでも『アントマン&ワスプ』のような作品が一定のヒットを収めている状況を見ると、アメリカ映画界から日本が学べる点は山ほどあるのではないかと思わされるのだ。

確かに、アメリカと日本では市場規模も制作費も違いすぎる。少なくともこれから先の10年で、『アントマン&ワスプ』レベルの超大作が日本で作られる可能性はゼロに近い。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)のレベルであれば、間違いなくゼロになるだろう。それでも、物語の中に含まれた「ターゲットとなる観客への訴求力」については、参考にするべきではないか。

Writer

石塚 就一
石塚 就一就一 石塚

京都在住、農業兼映画ライター。他、映画芸術誌、SPOTTED701誌などで執筆経験アリ。京都で映画のイベントに関わりつつ、執筆業と京野菜作りに勤しんでいます。

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