【レビュー】『バビロン』は観る人を選ぶ、映画愛と脂身たっぷりの強烈作

先輩世代の映画界を描く「下向上」
本作は「映画についての映画」だ。そこで描かれるハリウッドの映画界は一見華やかだが、すぐにそこかしこでセックスにふけるような堕落が目につくようになり、それは理不尽で、傲慢で、ずる賢く、正気ならば近寄りがたいほど歪で怪しいものであることに気付かされる。
1960年代末の映画界を描いた『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で、1963年生まれのタランティーノはギリギリでリアタイ世代だった。スティーブン・スピルバーグ監督は『フェイブルマンズ』(2022)で幼少期の記憶を通じて昔の映画作りを懐かしんだ。いずれも基本的に自身の原体験を活用しているのに対して、1985年生まれのチャゼルは『バビロン』で、1920年代のハリウッドを多くのリサーチに基づいて再現している。

『ワンス・アポン…』と『フェイブルマンズ』は賞レースで熱烈に歓迎されたが、一方で「ハリウッドの若き天才」と持て囃されるチャゼルが、先輩の先輩の、そのまた先輩の時代のハリウッドを描いたこの映画は、ほとんど「下克上」のように受け止められたのかもしれない。アカデミー賞では、作品賞などの主要部門ノミネートに加えてもらえなかった。
全米では初登場週にファミリー映画『長ぐつをはいたネコと9つの命』にも圧倒的な差をつけられ(およそ1/4にしか及ばなかった)、最終的に米興収わずか1,535万ドルに終わった。これは監督の前作『ファーストマン』4,494万ドルと比較しても明らかに見劣りし、原点作『セッション』1,309万ドルと同程度ですらある。豪華スターが集った本作の製作費は8,000万ほどと伝えられるが、海外分を足しても興収は5,000万ドル程度で、残念ながら大赤字作品である。
3時間9分という上映時間に身構えられることもあったかもしれない。しかも、この長い尺の中で『バビロン』は何度か寄り道をする。米CNNなんて、「3時間超の耐久テスト」とすら書いている。筆者はこれらを贅沢な余興として楽しんだが、そう思えない意見だってもちろん大いにあり得るだろう。
要するに、削ろうと思えば削れる箇所はいくらでもあるのだ。しかしチャゼル監督は、そうした“脂身”をあえて残すことで、物語にコクを出したかったのだと思う。自然と、アクは強くなる。

さて、ようやく公開となった日本での客入りはどうか。最近の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が主に「3時間超え」「3Dで疲れそう」「世界観に馴染みがない」との理由で海外ほどヒットしなかったと考えられるのと同じように、『バビロン』もその長尺と、脂ギッシュなビジュアル、どうしても馴染みのない世界観が、”タイパ(タイムパフォーマンス)”至上のカジュアルな観客を遠ざけてしまうことだろう。
そうは言っても、映画ファンを丹念に楽しませる豪華絢爛な作品であることは間違いない。劇場でのみ真価を発揮する、狂気的なまでの「映画愛」が炸裂するラストシーンは非常に大胆で、これまでに全く体験したことがない。ノレない観客を完全に置いてけぼりにすることは間違いないが、ハマった観客は恍惚ものの感激を覚えられるだろう。「凄まじいものを観た」というのが、鑑賞直後の筆者の素直な感想である。
そういうわけで、映画『バビロン』は観る人を選ぶ刺激的な映画だ。国内の映画ファンによってどのように語られるのか。2023年2月10日より公開中。
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