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【特集】『バトルシップ』ピーター・バーグ監督が目指した「リアルなSF戦争映画」その3つの掟

Public Domain (U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Moses McKelvey/RELEASED)

2012年公開の映画『バトルシップ』は、メガホンを取ったピーター・バーグ監督にとって“キャリアの分かれ目”ともいうべき作品だ。『プライド 栄光への絆』(2004)、『キングダム/見えざる敵』(2007)といった現実の出来事を基にした作品を経て、SF映画『ハンコック』(2008)を撮った彼が、現実さながらのリアリティをもってSF映画に挑んだ一本なのである。
本作のあとピーター監督は、アフガン戦争下の米軍特殊部隊を描いた『ローン・サバイバー』(2013)、2010年のメキシコ湾原油流出事故を映画化した『バーニング・オーシャン』(2016)、そして2013年のボストンマラソン爆弾テロ事件を扱った『パトリオット・デイ』(2016)と、実話映画へその軸足を置くようになっている。

いささか意外なのは、本作でピーター監督が“真夏のエンターテインメント・ムービー”を志向していたことだ。もちろんその裏側には、のちの作風にもつながる異様なこだわりが見え隠れしているわけだが……。本記事では、監督が「いかにSF映画として戦争を撮ろうとしたか」、そして「いかに戦争映画の中でSFを描こうとしたか」を“3つの掟”から紐解いていきたい

c Universal - Hasbro - Stuber Productions / 写真:ゼータイメージ
c Universal – Hasbro – Stuber Productions / 写真:ゼータイメージ

掟①あくまで脚本は「楽しいSF映画」

『バトルシップ』の原作となったボードゲームは、海軍の船舶同士が激突する“海戦ゲーム”だ。しかし蓋を開けてみると、映画版で描かれているのは人類とエイリアンの激突である。この理由には、ボードゲームをもとにリアルな戦争映画を作ることに監督が反対したという背景があった。異星人を登場させるというアイデアすら、監督がひらめいたものだったのだとか。

「何よりも私は、大規模で楽しい夏の映画を撮りたかったんです。ダークで現実的な戦争映画はやりたくなかった。そういうものを作る準備はあったんですが、どういうことになるかは理解していましたし、それはこの映画で作りたいものとは大きく違ったんです。」

本作でピーター監督が目指していたのは「世界でヒットする映画」だったという。そこで監督は、たとえばアメリカとロシアが対決するような『バトルシップ』ではそうはならないだろうと予想したのである。「ポップコーンを食べながら、椅子に座って楽しんでほしかった」と監督は語っている。

「いったんエイリアンを出すと決めてからは、どうやって批評家たちを黙らせるか、満足してもらえる映画を作るか、ユニークな作品にするかを考えましたよ。それがまるで違う、シリアスな話し合いになっていきました。」

それもそのはず、ピーター監督の目論みは脚本の時点ですでに始まっていたのだ。物語のないボードゲームを長編映画にするため、監督が見出したのは「暴力の起こる緊張感」というテーマだったという。そこでエイリアンに与えられたのは、“地球を侵略しに来たわけではない”という設定だった。“なぜ戦いが起こってしまうのか”という困難な問いかけすら、監督は物語に織り込もうとしていたのだという。
ちなみにこちらの記事では、監督が“ボードゲームを映画化する難しさ”を語った内容をご紹介している。

掟②SF要素も船舶も、俳優も本物主義

こうして“人間 vs エイリアン”という主軸を用意した『バトルシップ』だが、「その代わり」というべきか「だからこそ」というべきか、ピーター監督は製作において徹底した「本物主義」を貫いている。SF要素の根幹部分でも、インスピレーションを受けたのはかの有名な物理学者スティーブン・ホーキングのドキュメンタリーだったというのだ。

「ゴルディロックス惑星(地球に似た環境で、生命が誕生している可能性のある惑星)やエイリアンについてはホーキングのドキュメンタリーから着想したんです。私たちは、そういった星々にビーコンで狙いを定めて研究を進めてきたわけですね。しかしホーキングが登場して、“これは恐ろしい考えだ。もしも接触が実現してしまったら、きっと本当に悪いことが起きる”と言うんです。科学の面だけでなく、映画に登場するエイリアンの要素全体に影響を受けましたよ。」

ピーター監督によると、本作ではルイジアナ州立大学の天文学者が科学考証を担当。さらに海軍の船舶上で撮影されたシーンでは、リアルな描写になるよう海軍のコンサルタントが監修を行ったという。
また本編に登場する船舶は、第二次世界大戦に従軍した戦艦ミズーリを含めて戦艦や駆逐艦の実物が撮影に使用された。しかも劇中には現役の軍人が多数出演しているほか、退役軍人役にも真珠湾攻撃を戦った日米の元軍人たちがキャスティングされているのである。

なお陸軍退役中佐のミック・キャナルズ役を演じたグレゴリー・ガトソンは、現実にアメリカ陸軍の大佐だった人物であり、イラク従軍中に両脚を失った過去を持つ。詳細は別記事に譲るが、そのキャスティングに秘められたエピソードを知れば、きっと『バトルシップ』をまた違った角度からも観ることができるだろう。

掟③敬意を作品に詰め込む

荒唐無稽にも思えるSF映画に、実在の戦艦や駆逐艦を(時に本物を使って)登場させ、現実の軍人・元軍人をキャスティングする……。こうしたアプローチから見えてくるものは、ピーター監督の海軍に対する敬意そのものだ。そんな監督の思いは、劇中で軍人たちを演じる俳優陣にもストレートにぶつけられたという。自身が俳優からキャリアをスタートさせたとは思えないほど、彼は俳優たちに厳しい指示を与え続けたのだ。

サマンサ・シェーン役のブルックリン・デッカーは、オーディションの時点でその厳しさを味わったことを明かしている。

「ピーターに“君の鼻から鼻水の泡が出て、目から涙が出るのを撮らなきゃいけないんだ。できなきゃ役はあげられない”って言われました。」

また映画初出演となったリアーナは、役づくりのために重いサンドバッグを背負って腕立て伏せをするなど非常に厳しいトレーニングを求められたという。その結果、彼女は「腕立て伏せなんて大っ嫌い」と言い放つに至っているのだ。
さらに主演のテイラー・キッチュは、オープニング・シーンの撮影から屋根に登らされ、天井から落とされ、テーザー銃で撃たれるという厳しい撮影を(海軍への敬意はさておき)体験したという。テイラーはその厳しさを「絶対に僕への個人的な復讐だと思った」と振り返っている。むろん冒頭からその過酷さである、その後の撮影のことは言うまでもないだろう……。

しかしピーター監督は、自分自身にも大きな挑戦を課している。それは2012年に、エンターテインメント映画で軍隊をとことんポジティブに描くこと。それは監督自身の思想をストレートに表明することでもあった。ある意味で「楽しい映画」をシンプルに作ることとは対極の、のちに本作を「戦意高揚映画」と形容する批判にも繋がった行為だが、監督にとってはこれこそが「非常に重要なことだった」という。

「退役軍人や我が国に尽くした人々への尊敬と賞賛を、私は広く表明しています。だから彼らへの敬意を払いたかったし、それが映画の楽しさを奪うことにはならないと思ったんです。」

もちろん監督は、その選択に伴うリスクもよく理解していた。しかし彼にとって何より大切なのは、あくまで『バトルシップ』が純粋なエンターテインメントたろうとすることだったのだ。

「もしもこの映画を観て、プロパガンダを見せられたと思ったなら、きっとそれは純粋な反応でしょう。(この映画が)好きじゃなかったということですよね。
……それでもこの映画は、『ブラックホーク・ダウン』(2001)でも『パール・ハーバー』(2001)でもないんですよ。」

映画『バトルシップ』のブルーレイ&DVDは現在発売中。

Sources: https://www.newsarama.com/9533-battleship-director-talks-adapting-board-game-to-film.html
http://www.bbc.com/news/entertainment-arts-17588527
http://www.denofgeek.com/movies/18985/peter-berg-interview-directing-battleship-filming-at-sea-kevin-costner-ilm-effects-and-more
Eyecatch Image:?Public Domain (U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Moses McKelvey/RELEASED)

Writer

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中谷 直登Naoto Nakatani

THE RIVER創設者。代表。運営から記事執筆・取材まで。数多くのハリウッドスターにインタビューを行なっています。お問い合わせは nakatani@riverch.jp まで。

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