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『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は主役不在の「喪失」をいかに描いたか ─ 脚本再執筆の舞台裏、「これは水の映画だ」

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー
© 2022 MARVEL.

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は、誰にも予想できなかった悲しみとともに製作された一作だ。主人公のブラックパンサー/ティ・チャラ役を演じたチャドウィック・ボーズマンが2020年8月に逝去したとき、監督のライアン・クーグラーは脚本の初稿を書き終えたばかり。当時、悲しみに暮れていた監督は、このまま映画界を引退することも考えたという。

Entertainment Weeklyにて、クーグラー監督は「あの時期は、“もうこの業界からは去ろう”と思っていました。次の映画も、次の『ブラックパンサー』も作れるかわからなかった」語っている。「なぜなら、あまりにも辛かったから。これ以上辛いことなんてあるのか、って」。

チャドウィックの死から数週間が経過したのち、クーグラー監督は彼との思い出を振り返り、以前の映像を見返し、彼のインタビューを聞き直したという。いかにティ・チャラやワカンダが、チャドウィックにとって重要なものだったか。その言葉を聞きながら、監督はもう一度未来について考えることができた。「自分たちの会話を振り返って気づいたのは、彼の人生が終わりに向かっていたのだということ。そこで“続けるべきだ”と思いました」

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー
©Marvel Studios

この記事には、映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』オープニングのネタバレが含まれています。

脚本の大幅リライト、その課題とは

残念ながら、チャドウィックはクーグラーの執筆した脚本を読むことなくこの世を去った。しかし、あらかじめ監督は続編の構想をチャドウィックに話しており、すでにネイモア率いる海底帝国・タロカンのアイデアはその耳に入っていたという。チャドウィックは満面の笑みを浮かべ、「そうなるとは思ってなかった、最高だね」と語り、大いに熱意を燃やしていたそうだ。

そこで、クーグラー監督と共同脚本のジョー・ロバート・コールは、実に200ページにおよぶ改稿に挑んだ。ほとんど不可能にも思われたその仕事は、すでに書かれていたワカンダとタロカンの衝突を描く物語と、シュリやラモンダたちの“追悼”をめぐる新たな物語を、違和感なくひとつのストーリーとして織り上げるというもの。コールは「映画のスケールを維持しながら、どのようにチャドに敬意を払うのか。代役を立てない以上、彼の死を映画に組み込む以外の道はありませんでした」と米IndieWireにて回想した。

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー
© 2022 MARVEL.

また、クーグラーも「フィルムメーカーとして、僕の仕事は自分自身に正直なものを作ることでした」と語る。「自分の作品を信じられなければ、周囲に最高の仕事を求めることは難しい。最高の仕事をしてもらうには、彼らにも作品を信じてもらわなくてはいけません。だから、自分に嘘のない選択をすべきなのです。作り手が自分に嘘をつけば、それは全員に伝わってしまうから」。

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の物語は、別室で命の危機にあるティ・チャラを救うため、妹のシュリが懸命に手立てを探っているシーンから始まる。しかし努力もむなしく、ティ・チャラは永遠の眠りにつく。その知らせを届けるのが、母であるラモンダ女王なのだ。ティ・チャラを弔う物語が、彼女たちふたりから始まることは必然的だったのだろう。

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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