【ネタバレ解説】『ブレードランナー2049』最大のサプライズは、いかにして実現したか ─ 超えるべきは『スター・ウォーズ』

前作への想い入れの強い方ほど、『ブレードランナー2049』は語りたい作品となるだろう。しかし皮肉なことに、今作は「何を語ってもネタバレになる」類の作品だ。特に、劇中に忍ばされた思いもよらないサプライズは…、おっと、これ以上は大変なネタバレとなってしまう。この先は、かならず『ブレードランナー2049』を鑑賞してからお楽しみ頂きたい。

『ブレードランナー2049』は、1982年のオリジナル版を継ぐ様々な要素が登場する。ディストピア的なロサンゼルスの雨雲とネオン、スピナー、ハリソン・フォード演じるデッカード…。その中でも思いもよらぬ形で登場するのが、前作ラストでデッカードと逃避行を共にした美しき女性レプリカント、レイチェルだ。
『ブレードランナー2049』レイチェルはいかにして復活したか
レイチェルを『2049』に蘇らせる──この大胆なアイデアは、脚本のマイケル・グリーンによるものだった。劇中のデッカード(ハリソン・フォード)の台詞は、産みの親であるリドリー・スコットの提案によるものだ。マイケル氏はEntertainment Weekly誌のインタビューに対し、以下のように語っている。
「一体どうやればあのシーンをうまく見せられるか、行ったり来たりを繰り返しました。(出来には)とてもとても感謝しています。最終的に完全なバージョンになるまで、繰り返し進化させました。すばらしい瞬間でしたよ。リドリー・スコットが”彼女の瞳は緑だ”の台詞を提案してくださったんです。すぐに書き足して、自分のものにしました。」
『ブレードランナー2049』のレイチェルは、『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015)のブライアン・オコナーや『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)のターキン提督やレイア姫と同様のデジタル蘇生が施された。オリジナル版でレイチェルを演じたショーン・ヤングは健在だが、実際の撮影では別の女優が代役を演じ、後にデジタルで若きレイチェルの表情を緻密にペインティングしている。本作で視覚効果監督を務めたジョン・ネルソン氏は、Entertainment Weekly誌のインタビューにその舞台裏の一部を語っており、米IDG社運営のメディアDigitalArtsでは蘇生の裏側プロセスの一部始終を明かしている。それぞれのWebページでは、代役が務めたレイチェルがいかにして若きショーン・ヤング姿に変遷したかが画像でも紹介されているので、各自の目で確かめて欲しい。ジョン・ネルソンは語る。
「デジタル・ヒューマンは聖杯のようなもので、非常に困難でした。私のキャリア史上最困難な仕事になるだろうとは思っていました。この映画では様々なチャレンジを行っていますが、これが一番難しかった。」
困難を極めたこの仕事を担当したのは、イギリスのVFX制作会社のMPC(ムービング・ピクチャー・カンパニー)だ。まずMPCは、オリジナル版のレイチェルを演じたショーン・ヤングの頭部をスキャニングした。彼女の表情には、前作から経過した35年分の加齢が表れているものの、頭蓋骨の形や構造は変わらない。MPCのモデレーターは、スキャニングで得たショーン・ヤングの頭蓋骨のデータを元に、レイチェルの鼻の高さや頬骨、顎の位置を緻密に算出していった。
続いて、前作『ブレードランナー』より、レイチェルの皮膚や表情の細かな情報を抽出していく。ところが、前作のレイチェルといえば暗闇での登場がほとんどだったため、MPCではモデレーターとアーティストは苦労が強いられた。