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『キャプテン・アメリカ』続編映画、新キャラクターが早くも物議醸す ─ 「パレスチナ問題」どう扱うか

キャプテン・アメリカ:ニュー・ワールド・オーダー(原題)
 (c) 2022 Marvel

『キャプテン・アメリカ』シリーズの第4作『キャプテン・アメリカ:ニュー・ワールド・オーダー(原題)』に登場する新キャラクターが物議を醸している。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)はパレスチナ問題をどう扱うのか」という問題が浮上しているのだ。

2022年9月10日(米国時間)、マーベル・スタジオはディズニーの大型イベント「D23 Expo」にて、『キャプテン・アメリカ:ニュー・ワールド・オーダー』にイスラエル人のエージェントであるサブラを登場させることを発表。Netflixドラマ「アンオーソドックス」(2020)のシラ・ハースが演じることもあわせて明らかになった。

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サブラは1980年にコミックに初登場したキャラクターで、イスラエルの警察官から、のちに「モサド」ことイスラエル諜報特務庁のエージェントとなったミュータント。当時からイスラエルとパレスチナの紛争をマーベルの世界にも正式に取り入れるものだと指摘され、1981年に「Incredible Hulk」#256で本格登場した際には、パレスチナ人(劇中では“アラブ人”)の少年の死を嘆く描写もあった(その描写自体が一種のプロパガンダだと批判されたことも忘れてはならない)。

『キャプテン・アメリカ:ニュー・ワールド・オーダー』にサブラが登場することが発表されたことを受け、米国に拠点を構えるパレスチナの支持団体「Institute for Middle East Understanding(IMEU)」はマーベルを厳しく批判。「イスラエル人の軍事的“スーパーヒーロー”を登場させることはアイロニーではなく、パレスチナ人やイスラム教徒に対する攻撃であり、非人間化であり、積極的な加害である」として、モサドにはパレスチナ人の虐殺や投獄に対する責任があると主張した。また、「イスラエル軍や警察を美化することで、イスラエルのパレスチナ人に対する暴力を助長し、現在も続くイスラエルの独裁的な軍事支配によるパレスチナ人への圧力を認めるものだ」とも記している。

一連のツイートでIMEUも指摘しているように、「サブラ(Sabra)」という名前も物議を醸す要素のひとつだった。“Sabra”とは、イスラエル人にとっては「イスラエル生まれのユダヤ人」あるいは「生粋のイスラエル人」という意味だが、パレスチナ人にとっては1982年のサブラー・シャティーラ事件を思い出す言葉。1982年9月16日~18日、レバノンのサブラー&シャティーラにあったパレスチナ人の難民キャンプをイスラエルの国防軍と民兵が襲撃して大勢の死者が出たのである。

この事件からちょうど40年を迎える2022年9月に、マーベルがサブラの登場を発表したことも印象は良くなかった。すでにSNS上では、ユダヤ人(イスラエル)によってアラブ人(パレスチナ)の教育や移動、雇用といった基本的人権が制限されていることを踏まえ、サブラやマーベルを「#キャプテンアパルトヘイト(#CaptainApartheid)とのハッシュタグで揶揄・批判する動きもある。

先述の通り、コミックにおけるサブラの初登場はサブラー・シャティーラ事件より早かったわけだが、ここにはいくつもの論点が見受けられる。「サブラ」という名前を使うことやモサドのエージェントという設定の是非、そして1967年の第三次中東戦争からとりわけ大きな問題となった、イスラエルのパレスチナに対する占領や弾圧をどう理解するかということだ。少なくともキャラクターの名前はそのままになりそうだが、設定には改変の余地がある。

こうした動きの中、マーベル・スタジオは「我々のキャラクターやストーリーはコミックにインスパイアされていますが、映画や現在の観客のため、いつも新しく創造されています。コミックでは40年以上前に初登場したサブラに、作り手たちは新たなアプローチを採用しています」との声明を発表した。その言葉通り、実写映画ならではの新解釈、現実の問題を乗り越えていくだけの切り口を期待するほかない。

近年のMCU作品には、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021)で、コミックではあまりにステレオタイプなキャラクターだったためにそのまま登場させられなかったシャン・チーの父親を、映画独自のキャラクター(シュー・ウェンウー)として再創造した例もある。マンダリン/シュー・ウェンウー役を演じた名優トニー・レオンの演技もあいまって、事前の懸念はきちんと解消しての実写化が実現したのだ。

果たして『キャプテン・アメリカ:ニュー・ワールド・オーダー』は、サブラというキャラクターをいかに創造し直すのか。監督は『ルース・エドガー』(2019)のジュリアス・オナー、脚本は「ファルコン&ウィンター・ソルジャー」(2021)のマルコム・スペルマン&ダラン・マッソンが務める。米国公開日は2024年5月3日の予定だ。

Sources: Variety, The New York Times

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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