「作家になる唯一の方法は、常に書き続けるということだ」 ─ 『カオス・ウォーキング』原作者ロングインタビュー

Real Writers Don’t Write, They Write Anyway.
──ところでパトリックさん、作家としてのキャリアはどう始まったのですか?
今振り返ると、偶然が重なった感じですね。一番最初は、本を一冊書き上げたことが始まりでした。これは作家志望者の失敗あるあるなんですが、本の一部分をちょっと書いただけで、大きな契約が掴めると思っている人が多いんですよね。実際はそんなこと稀ですよ。ほぼ全ての作家は、一冊全てを自力で書き上げなければいけません。
私も、仕事をやって働きながら書きました。出社前に書いたり、時には仕事中にも書いたり。とにかく書き上げた。それからエージェントを見つけて、エージェントが出版社に話をつないでくれたんです。少しだけお金にはなりましたが、生活していくにはまだまだ不十分の額でした。そこからは、ひたすら書き続けたんです。うまくいくように、ただ努力を続けました。
作家になる唯一の方法は、常に書き続けるということです。常にです。常に作り続けるんです。それをやってこそ、世間が反応するんです。「この人の本を出版したい!」「この人の本を映画にしたい!」と思われるんです。
英語にはこんな言葉があります。どう訳していただけるかはわかりませんが。
“Real writers don’t write, they write anyway.”
(※前節でのwriteには、“意識的に、能動的に”書くというニュアンスが、後節のwriteには“無意識的に、当たり前のように”書くというニュアンスが含まれていると思われる。確かに日本語訳の難しい一文であるが、「真のライターは、“書く”どころではない。ひたすら書いている」といったような意味だ。)
本が出版できるかどうか、映画化されるかどうかなんて関係ない。とにかく書くのみですよ。たとえ書いた脚本が映画化されなかったとしても、それを読んだ誰かが「この人は面白そうだ。何か書いてもらおう」と頼んでくれるかもしれない。常に、何かを持っておくことです。そうすれば仕事も、良い話も飛び込んでくる。
──訪れるかもしれない機会に、常に準備をしておくということですね。
そうです。書ききることが一番大変なんですよね。
──本当にその通りだと思います。ちなみに、あなたが1冊書き上げるのに、大体どれくらい時間がかかりますか?
本の時は大体1年ですね。たいてい、初稿を5〜6ヶ月かけて書いて、そこから6ヶ月かけてリライトして仕上げます。脚本の時は、6週間の時もあれば、6ヶ月の時もありますね。
とにかく書ききることが重要です。どれだけ言っても言い足りないくらい。書き始めておいて、書ききらないままの人が多すぎる。全て書き終えた時の気持ち良さ、すーんごいですよ。出来たんだ!という達成感。それがすごく大事。本当に、最後まで書き切らない人が多すぎるんです。だから、仕上げてください。ライティングに関する私からの最大のアドバイスは、「仕上げろ」ということです。書き切ったときの気持ち良さ、信じられないくらいですよ。
──今回の映画では、共同脚本家との作業だったと思います。他の人と一緒に書くという経験はいかがでしたか?
面白かったですよ。主にご一緒したのはクリス・フォードという方。『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)も書いている人です。監督が現場での偶発性を好む方で、当日その場でシーンを書くこともありました。脚本家が複数名いたのは、そのためです。彼の望みに答えるように書くにはどうすれば良いかと考えるのは、楽しかったですね。良い訓練になったと思います。

──2010年のインタビューでお話しされていましたが、アイデアに詰まった時はランニングをするそうですね。今も続けられていますか?
続けています。物書きは、ライティング以外の趣味を持つと良いですよ。キーボードや椅子から離れるんです。もちろんランニングや運動でなくとも構いません。私も運動は苦手です(笑)。とにかく、書く以外の何かをやって、脳の違うところを使うんです。そうすれば、アイデアが湧いてくるかもしれない。例えば、編み物とか、動物の毛繕いとか、何でも良いんです。ライティングでさえなければ。
──貴重なお話をありがとうございました!ちなみにパトリックさん、日本に来られたことはありますか?
ありますよ。日本は大好きです。好きで好きで好きで。お気に入りは三鷹の森ジブリ美術館。完璧でした。いろんなところで言ってるんですよ、「世界最高のミュージアムだぞ」って。
それから、富士山も見に行きました。富士吉田をめぐったんですが、一日中曇ってて、富士山は一切見えなかった(笑)。東京でも素晴らしい時間を過ごしました。本当に好きだから、またすぐにでも行きたいです。
──落ち着いたら是非またお越しくださいね。それでは最後に、日本の観客にメッセージをお願いできますか?
もちろん!あぁ、気にってくれたら嬉しいです。ついに日本で公開されるんですね!映画が気に入ったら、原作本が3巻あるので、チェックしてみてくださいね。皆さんからの感想も、是非聞きたいです。気に入ってくれたら、知らせてください!
トム・ホランド主演のSFアクション映画『カオス・ウォーキング』は2021年11月12日(金)、TOHOシネマズ日比谷ほかにて公開。