『ブラックパンサー』監督、チャドウィックの死で引退を考えた ─ 「これ以上辛いことなんてあるのか」

『ブラックパンサー』(2018)で監督を手掛けたライアン・クーグラーが、同作主演のチャドウィック・ボーズマンとの死別を受けて引退を考えていたことを明らかにした。米Entertainment Weeklyにて語られた。
クーグラーは同作以前、長編映画としては『フルートベール駅で』(2013)を手掛けたばかりの新鋭監督だった。マーベル・スタジオより『ブラックパンサー』に起用されると、同作は世界中で社会現象を起こす大ヒット。クーグラーは一躍ハリウッドの要注目株となった。
クーグラーの才覚はもちろんのこと、同作には主演チャドウィック・ボーズマンの熱演も大きく貢献した。クーグラーとボーズマンは揃って、アフリカ系文化を代表する新時代の存在となった。
ところがボーズマンは病が悪化し、2020年8月に急逝。喪失感に苛まれたクーグラーは、当時の胸中をこう打ち明けている。
「あの時期は、”もうこの業界からは去ろう”と思っていました。次の映画も、次の『ブラックパンサー』も作れるかわからなかった。なぜなら、あまりにも辛かったから。これ以上辛いことなんてあるのか、って。」
ボーズマンの死から数週間の間、クーグラーは彼との思い出を頭の中で思い出していたという。そして、自身とボーズマンが一緒に映った昔の映像や、ティ・チャラやワカンダがどれだけ意義深い存在なのかを語る友人たちのインタビュー音声を聞いた。やがて、死期が迫っていた彼との会話の多くを深く思い返し、「続けることに意味があるんだ」との境地に至った。
監督はボーズマンの遺した大切な意志と共に再起し、続演『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』に続投を決めた。ケヴィン・ファイギらスタジオ側は、「世界はまだチャドの死を受け入れている最中だ」と判断し、ティ・チャラ役をリキャストしたり、デジタル技術で蘇らせることはしなかった。おそらく劇中でもティ・チャラは何らかの出来事によって不在になっており、ワカンダの戦士たちも喪失を抱えたまま物語を前進させる。
クーグラー監督が掲げた本作のテーマは「どうにもならないような逆境を前に、私たちはいかにして前進するのか」。あまりにも大きすぎる喪失を経て、『ブラックパンサー』は、世界中のファンは、どのように歩むべきなのか。映画『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は2022年11月11日(金)より全国公開。