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【インタビュー】『シラノ』ケルヴィン・ハリソン・Jr. ─ 不朽の名作を『WAVES/ウェイブス』の気鋭俳優はどう読み解いた?

シラノ
© 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

演劇史に残る不朽の名作シラノ・ド・ベルジュラック」が、現代屈指のキャスト&スタッフの手で甦る。日本を含む世界各国で愛されてきた物語を再構築したロマンティック・ミュージカル『シラノ』が、2022年2月25日(金)に全国公開となる。

本作で主人公シラノの部下であり恋敵のクリスチャン役を演じるのが、『WAVES/ウェイブス』(2019)『ルース・エドガー』(2019)などの新鋭ケルヴィン・ハリソン・Jr.だ。社会派のドラマ映画、スリラー、ラブコメなど幅広い作品で確かな演技力を示すケルヴィンにとって、本作は初めて挑む古典作品にしてミュージカル。これまでとは一風異なるイメージで新境地を切り開いた。

ハリウッドで未来を期待される次代のスター俳優は、この物語やクリスチャンという役どころ、ジョー・ライト監督の演出、そしてピーター・ディンクレイジやヘイリー・ベネットとの共演をどう受け止めたのか。その語り口からは知性とユーモアがうかがえる。

『シラノ』クリスチャン役ケルヴィン・ハリソン・Jr. インタビュー

──クリスチャンはルックスこそ良いものの、ロクサーヌに向けて語る言葉を持たない人物です。役づくりはどのように行いましたか?

「愛を語る言葉を知らない」「自分の言葉に自信を持てない」という人に向き合うときは、まず心の中がどうなっているのかを見つめなければいけません。クリスチャンには誠実さや純粋さ、人々への愛情、そしてコミュニティに加わりたい、自分を受け入れてもらいたいという願いがある。それゆえに、あらゆる面でシラノと繋がることができるわけです。所属したい、求められたいと思うからこそ、シラノとの友情をすぐに築くことができた。これがクリスチャンを演じるコツだと思ったんです。

だから、シラノが愛しているロクサーヌとクリスチャンがデートするのは僕自身(ケルヴィン)にとってはつらいこと。そこには誤解があると思います。クリスチャンは、まさかシラノがロクサーヌを求めているとは思っていない。もし知っていたらシラノにそんな仕打ちはしないし、「いいね、一緒に出かけろよ」って言うと思う。けれどもクリスチャンは何も聞かされていないから何も知らない。シラノが何も言わなかったことが、クリスチャンに行動させてしまったんです。クリスチャンもロクサーヌを愛しているし、うまく彼女と関われると信じているから。

──『シラノ』は三角関係をめぐる物語ですが、ピーター(・ディンクレイジ)やヘイリー(・ベネット)との共同作業はいかがでしたか?

最初にジョー(・ライト監督)が3週間の稽古をしてくれたのが本当に良かったですね。どの映画でも行っているそうですが、はじめに脚本を読み合わせてから具体的なシーンについて話し合いました。クリスチャンがロクサーヌを愛していることをシラノが知るのはこの瞬間だとか、この場面では裏切られているとか、ここで彼は純粋さを失うのだとか……。ヘイリーやピーターの狙いや、ふたりが役柄のどこに惹かれていて、互いをどう補い合っているのかを知れたのも良かったですね。

ピーターと一緒に面白いと思ったのは、シラノとクリスチャンの間には兄弟愛があるということ。ふたりとも今のままでは生きていけないと思い、より優れた人を求めていたわけです。けれど、チームになると冗談も言うけれど嫉妬も生まれる。女性をめぐって戦うというより、もっと特別な関係になるのです。ヘイリーのアプローチも同じで、シラノが自分を愛しているのか、それともクリスチャンが愛しているのかと考えていく中に微妙なニュアンスを与えています。ロクサーヌはクリスチャンが好きなのか、それともシラノとクリスチャンの両方を愛しているのか? 今回の翻案では、こういう問いが生まれるのが面白いし、一方で僕たちはそのすべてに回答を出さなくてもいい。人生において、だいたいのことは答えが出ないものだから。

シラノ
© 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

──事前の稽古はどのようなプロセスで行われたのでしょうか? 監督の取り組みについてお聞かせください。

稽古はジョーがいつも必要としているもので、もしも参加できなければ僕は出演できなかったと思います。ジョーから連絡を受けたとき、「(稽古に)来られないなら出演してもらうことができない」という話がありました。きっと監督なりに作品を守っているんだと思います。ジョー・ライトの手腕ならばそれだけの要求は叶えられるし、それはスタジオも監督の方法に敬意を払っているから。監督に誰が敬意を払っているのかも大きいと思います。

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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