【インタビュー】『シラノ』ピーター・ディンクレイジが体現する複雑なヒーロー像「あるときは英雄、あるときは卑怯者」 ─ 初のミュージカル映画に挑む

演劇史に残る不朽の名作「シラノ・ド・ベルジュラック」が、現代屈指のキャスト&スタッフの手で甦る。日本を含む世界各国で愛されてきた物語を再構築したロマンティック・ミュージカル『シラノ』が、2022年2月25日(金)に全国公開となる。
タイトルロールでもある物語の主人公、シラノ・ド・ベルジュラック役を演じるのは、「ゲーム・オブ・スローンズ」(2011-2019)のティリオン・ラニスター役で知られるピーター・ディンクレイジ。『X-MEN: フューチャー&パスト』(2014)『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)などの大作から、『スリー・ビルボード』(2017)をはじめとする小・中規模の良作まで、どの作品でも豊かな存在感を示す、いまや映画界・ドラマ界に欠かせない俳優のひとりだ。
ピーターは、「容姿のコンプレックスゆえに愛を伝えられない」というシラノの人物像にどう挑んだのか。本作の基となった舞台版のエピソード、ミュージカルへの挑戦、そして「ゲーム・オブ・スローンズ」やシェイクスピア劇での経験など、あらゆる角度から“ピーター・ディンクレイジによるシラノ・ド・ベルジュラック”を紐解いた。
『シラノ』シラノ・ド・ベルジュラック役ピーター・ディンクレイジ インタビュー
──舞台でシラノ役を演じた経緯をお聞かせください。妻であり、舞台の演出を手がけたエリカ・シュミットさんのアイデアだったのでしょうか?
はい、完全にエリカのアイデアでした。僕がプロジェクトに加わったのは後からのことで、先に彼女が翻案の依頼を受けていたんです。彼女はリスキーなことをやろうとしていて、「シラノから大きな鼻をなくしてしまう」というのが最初のアイデアでした。(原作では)シラノの鼻は彼の自信と不安を表していて、全編にわたり言及されるもの。それをなくしてしまい、さらに愛についての長いモノローグも歌にしてはどうかというアイデアだったんです。
僕自身は、どちらのアイデアも現代的かつ賢明な選択だと思いました。これは僕自身の身長ゆえかもしれませんが、ハンサムな俳優がニセモノの鼻を付けて苦しみを訴え、長所と短所を演じるための支えにするというのは……。舞台を下りたら鼻を外して家に帰り、日常を送れるのだと思うと、俳優としても、人間としてもたくさんの疑問が生まれるんです。シラノは僕のためにエリカが書いた役ではありませんでしたが、僕にとっては可能性が開けたし、ぜひ演じたいと思いました。
──初めて「シラノ・ド・ベルジュラック」をご覧になったのはどの作品でしたか?
最初に観たのはジェラール・ドパルデューの『シラノ・ド・ベルジュラック』(1990)でした。ドパルデューの演技が素晴らしかったし、非常によくできていて、オリジナルのフランス語もとても美しいと思いましたね。(原作者の)エドモン・ロスタンはもともとフランス語で戯曲を書いたわけですから。映画を観たあと、ロスタンの戯曲を読みました。舞台版を生で観たことはありませんが、ケヴィン・クライン主演のニューヨークでの舞台の映像は観ています。それから、スティーヴ・マーティン主演の『愛しのロクサーヌ』(1987)はまったく解釈が違い、純粋なコメディだったので、個人的には大きな鼻が他の作品よりも効果的だと思いました。

──劇中には歌唱シーンもありますが、歌に抵抗はありませんでしたか?
僕はいつも、何か怖いものがあることは良い兆しだと考えているんです。おそらく役者というものは──少なくとも僕自身は──どこかで楽をしてしまうもの。自分が得意なこと、できることに固執してしまうんです。だからこそ歌を歌うとか、やったことのないものにリスクを背負って挑戦する価値はあると思う。大きなリスクを背負うことで、より素晴らしい表現が生まれるわけだから。
大切なのは、自分が才能あふれる人たちに囲まれていること。ザ・ナショナルのアーロン&ブライス・デスナーが曲を作り、マット・バーニンガーとカリン・ベッサーが詞を書いて、素晴らしい楽曲を用意してくれました。そのおかげでリラックスし、心から歌うことができたんです。誰でもひとりでいるときは最高の歌手なんですよ。家でシャワーを浴びながら好きな歌を歌っているときはね。だけど(プロとしての)問題は、きちんと心で歌えるかどうかだから。