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『ドクター・ストレンジ』祝アカデミー賞ノミネート!製作の裏側には監督の“自腹500万円”と苦悩があった

いよいよ日本上陸が迫った、映画ドクター・ストレンジが、めでたく第89回アカデミー賞で視覚効果賞にノミネートされた。レースを争うのは、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』『ジャングル・ブック』という同じくディズニー発の力作や、メキシコで起きた海底油田爆発事故を映画化した『バーニング・オーシャン』、注目のアニメーション『Kubo and the Two Strings(原題)』だ。

今回のノミネートに至るまでには、もちろん作り手の並々ならぬ努力があった。そのひとつが、スコット・デリクソン監督による500万円の自腹である。コミックの「ドクター・ストレンジ」を愛してきた彼は、なんとしても映画版を撮りたかったのだという。そのために監督が選んだ常軌を逸したアピールは、今回のアカデミー賞ノミネートにも無関係ではなさそうだ。

ホラー映画の名手による“奇策”

マーベル・スタジオは、『ドクター・ストレンジ』製作のために監督オーディションを行っていた。かつて高予算の映画を撮った経験こそあるものの、デリクソン監督は、もっぱら低予算のホラー映画を主戦場とする人物である。そこで監督は、ある奇策を用いてマーベルにアピールしたという。

「この仕事(『ドクター・ストレンジ』監督)をつかむため、ビジュアル・プレゼンテーションを準備するのにスゴい金額を使ったんだよ」

デリクソン監督は、90分間のプレゼンテーションに臨むため、なんと45,000ドル(約500万円)もの自腹を切ったという。その内容は、もはやプレゼンのレベルではなく、作品のプリプロダクション(撮影前の準備作業)にも相当するクオリティだった。

ストーリーボード(絵コンテ)を作ったんだ。プロのストーリーボード・アーティストを雇ったんだよ。事前に12ページぶんの脚本を書いて、それらを完ぺきに図解して、コンセプトアートも描いたのさ」

『ドクター・ストレンジ』コンセプトアート http://www.thisisinsider.com/doctor-strange-concept-art-2016-8/#doctor-strange-will-introduce-the-possibility-of-other-realms-into-the-marvel-cinematic-universe-we-may-be-seeing-one-of-those-here-3 © Marvel
『ドクター・ストレンジ』コンセプトアート
http://www.thisisinsider.com/doctor-strange-concept-art-2016-8/#doctor-strange-will-introduce-the-possibility-of-other-realms-into-the-marvel-cinematic-universe-we-may-be-seeing-one-of-those-here-3 © 2016 Marvel
努力と投資は報われ、デリクソン監督は『ドクター・ストレンジ』の監督に見事抜擢される。しかしその後、監督を襲ったのは尋常ではないプレッシャーだった。

監督もマーベル側も全員が心配した『ドクター・ストレンジ』

『ドクター・ストレンジ』の製作に入る以前の心境を、デリクソン監督はこう振り返っている。

「マーベル・スタジオはダメな映画を作ってない。『ドクター・ストレンジ』は14本目の映画だけど、これまで13回連続で、高評価のヒット作を世に出してる。誰にもできなかった、ピクサーでさえ叶わなかったことだよ。彼ら以上の成績を持ってる人たちはいない」

「(映画を撮る)プレッシャーに耐えたよ。でも契約にサインする前、とても慎重に考えたんだ。“この映画を監督するんだ、責任はきちんと取る、でも『フッテージ』と同じやり方で挑もう”って」

http://collider.com/sinister-images/ (C) Alliance Film (UK) Limited All Rights Reserved.
『フッテージ』(2012年)はデリクソン監督の代表作であるサスペンス・ホラー映画。『ドクター・ストレンジ』はホラー映画ではないのでご安心を。 http://collider.com/sinister-images/ (C) Alliance Film (UK) Limited All Rights Reserved.
しかしプレッシャーを味わっていたのは、デリクソン監督だけではなかった。彼を選んだマーベル・スタジオも気持ちは同じだったのである。

「映画の情報解禁が近づくほど恐ろしく、怖くなったんだ。そうならない方が難しいよ。不安にならない方が難しい。そこでマーベルに行ったんだけど、彼らもアーティストだからね、映画のことをすごく気にしてるのさ。とても不安がってたね。だから僕はさらに不安になって、すると彼らはもっと不安になって……結局、みんなで一緒に不安がったんだ」

大成功、しかし「いつかダメな映画を作るヤツが出る」

結果として『ドクター・ストレンジ』は映画として高い評価を受け、とりわけその映像表現とアクションには感嘆の声が集まった。興行成績も『アイアンマン』(2008年)を超えて、マーベル・シネマティック・ユニバース史上もっともヒットした1作目となったのである。

Writer

稲垣 貴俊
稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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