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『ドクター・ストレンジ/MoM』なぜマルチバースを描くのか?物語のテーマが明かされる ─ 「今回はストレンジ自身の物語」

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス
©Marvel Studios 2022

マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)最新作『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』は、タイトルの通り、ここしばらくのMCU作品が取り扱ってきた“マルチバース”を掘り下げる一作だ。『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)や「ロキ」(2021-)『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021、日2022)で明らかになったのは、この概念によって物語の可能性がぐっと広がったこと。従来なら難しかったキャラクターの登場さえ、マルチバースを使えばいともたやすくなった。

しかし一部ファンの間で危惧されているのは、マルチバースがただの“サプライズ製造機”に堕してしまう可能性だ。すでに本作も、作品の内容やマルチバースの役割よりも先に、劇中に大量のサプライズが仕込まれているという情報が先行する事態となった。それでは、いったい作り手たちはマルチバースで何を描こうとしているのか?

脚本家のマイケル・ウォルドロンは、英SFX Magazineにて、マルチバースは「単なるマクガフィンではない」と明言した。マクガフィンとは、物語を進行するためのキーアイテムやキーコンセプトではあるが、それ自体が何であるかは重要ではないもののこと。物語の描き手として、マルチバースを扱う危険性をウォルドロンは重々承知している。

「(マルチバースの)危険性は自分の視野が広がりすぎかねないこと。登場人物に向けたものとして扱わず、どんどん規模を大きく、幅広くしてしまえば、物語上大切なハードルがどんどん下がってしまいます。その一方、マルチバースではキャラクターに文字通りの“もしも”を突きつけることができる。別人である自分自身や、あるいは知っている人の別人と対峙させられるんです。登場人物に鏡を見せるには面白い手段だと思います。」

ウォルドロンは、本作においては「マルチバースが物語上の精神的な核を築いているし、そうでなければいけません」と述べている。「異なる現実や、異なる自分自身と出会うことが(物語としての)精神的な核心でなければいけない。“もしも自分が別人だったら? かつて別の選択をしていたらどうなっていたのか?”。これは感情的に複雑な問題ですし、だからこそスリリング。素晴らしい俳優陣にふさわしいのです」。

この観点から整理すれば、すでにいくつかの心理的ドラマの予兆は見て取れる。ドクター・ストレンジ/スティーブン・ストレンジの元恋人であるクリスティーン・パーマーは、いまや別のパートナーと結婚しようとしているし、ワンダ・マキシモフ/スカーレット・ウィッチも「ワンダヴィジョン」(2021)で受けた傷を癒せてはいないようだ。では、もしも彼らが過去に別の選択をしていたら? マルチバースのストレンジやワンダはどんな人生を歩んでいるのか?

ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス
(c) Marvel Studios 2022

またウォルドロンは、あくまでも本作が『ドクター・ストレンジ』であることを大切にしたとも強調している。「まず何よりも、これはドクター・ストレンジの物語」だと言うウォルドロンは、真っ先に前作に回帰し、前作から学んだことを認めた。

「ドクター・ストレンジはいろんな作品に登場してきましたが、今回は彼自身の物語であり、彼自身のシリーズ。[中略]最初に僕が把握しておきたかったのは、前作の彼がどんな人物だったか、そして最後にはどう変わったかということ。その後『アベンジャーズ』などで何を経験し、『スパイダーマン/ノー・ウェイ・ホーム』に至ったのかということ。そこから物語を始めたかったのです。」

マーベル・スタジオは秘密主義を徹底しており、現時点では物語の全貌どころか、その出発点さえほとんどわかっていない。しかしウォルドロンの言葉を信じるなら、本作でマルチバースを扱うことには物語上の必然性と狙いがあるようだ。ドクター・ストレンジはマルチバースに対峙し、そこでどんな危機に直面するのか。そして、その先にはいったい何が見えてくるのか。

映画『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』は、2022年5月4日(水・祝)映画館で公開

Source: SFX Magazine

Writer

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稲垣 貴俊Takatoshi Inagaki

「わかりやすいことはそのまま、わかりづらいことはほんの少しだけわかりやすく」を信条に、主に海外映画・ドラマについて執筆しています。THE RIVERほかウェブ媒体、劇場用プログラム、雑誌などに寄稿。国内の舞台にも携わっています。お問い合わせは inagaki@riverch.jp まで。

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