【レビュー】「エコー」、こんなマーベル・ドラマが観たかった ─ 地に足ついた物語とハードなアクション

うん、これだ。これぞマーベル・ドラマに求めていたものだ。新ドラマ「エコー」は、あらゆるレベルのファンが納得できる仕上がりである。
多くのマーベル・ファンはこう考えていることだろう。「エコーが主人公?企画として弱すぎない?だいたい、スピンオフドラマ『ホークアイ』のサブキャラを描く二重スピンオフだなんて、あまり興味が湧かない」。「デアデビルやキングピンが出ると言われているけれど、そもそもNetflix版『デアデビル』を観ていないし」。「最近のマーベルはついていけない。映画やドラマが複雑に絡み合っていて、今回の『エコー』も予習がいるのでは?」。
2024年1月10日の全5話一挙配信に先駆けて、第3話までを先行視聴した限り、「エコー」はこれらの懸念をほぼクリアしている。「地に足ついた」という表現が、非常にしっくりくるドラマだ。

最も重要なポイントは、本作が「Marvel Spotlight」という新ブランドによる第一弾企画ということだ。これは、「広いMCUの継続性よりもストリート・レベルの危険を主に取り扱う」という趣旨のもので、要は予習不要ですよということである。ユニバース拡大の一方で物語の相互作用が複雑化しすぎたことに対する、マーベル・スタジオの反省のようなところもあるのだろう。
それから、異星人やマルチバースと、荒唐無稽スレスレのSF物語が主題になりつつあるマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)に対するセルフ・カウンターでもある。「エコー」のキャラクターは、もっと個人的な脅威と戦う。MCUのフェーズ1~2あたりの物語が主にそうだったように。
主人公のエコーことマヤ・ロペスは、かつてニューヨーク裏社会のボス、キングピン/ウィルソン・フィスクに育てられた、聴覚障害と義足の右足を持つ戦士。「エコー」第1話では、ドラマ「ホークアイ」で描かれたマヤの出自がダイジェスト的に再登場する。そういうわけで、「ホークアイ」を観ていなくても大丈夫だ。
Netflix版「デアデビル」をご覧になったことがない方は、キングピンがとんでもない大ボスで、極めて残忍な一面を持ち、裏社会の首領ながらあらゆるところで絶大な権力と影響力を持つ実業家であるという点を押さえておいてほしい。演じるのは、かつて『フルメタルジャケット』(1987)の“微笑みデブ”の怪演で映画ファンに強烈なインパクトを残したヴィンセント・ドノフリオ。キングピンはドノフリオにとって最高のハマり役で、グラグラと煮えたぎる大鍋が吹き溢れそうになっているのを、いつも薄い蓋でどうにか防いでいるような演技がとにかく恐ろしくてたまらないのである。

さらに、キングピンの宿敵である盲目のヴィジランテ、デアデビルもゲスト登場する。デアデビルは、昼間は弁護士、夜は悪の処刑人として活動するヒーロー。耳が聞こえぬエコーと、目が見えぬデアデビルの対比。劇中では製作陣の気概をガッツリ感じられる、見応え抜群のワンカットアクションを披露する。しかし、ここまで本気のキングピン&デアデビルを見せつけられると、「ホークアイ」「シー・ハルク」時の2人は一体なんだったのかと腕を組む。ともかく、かつてNetflix版でシビれさせられた、あの時のキングピン&デアデビルが、「エコー」に堂々と帰還している。「デアデビル:ボーン・アゲイン」にも俄然期待である。
本作のシドニー・フリーランド監督は、MCUキャラクターのカメオ登場が多数あると事前に語っていたが、第3話まで視聴した限りではそうでもなく、きちんとマヤの物語に集中している印象だ。
かつて父親を“ローニン”状態のホークアイ/クリント・バートンに殺害されたことで、復讐心に突き動かされていたマヤは、今度はフィスクの追手に狙われる立場になっている。ニューヨークで暗躍したマヤは、育ての親キングピンこそが父の死に関わっていたと知ると、「ホークアイ」の最終話でキングピンを射殺。そこから逃げるようにして米オクラホマ州の故郷タマハに帰還すると、ネイティブアメリカン(チョクトー族)としてのルーツに立ち返っていく。しかし、あの男の“圧”が、各話でジリジリと接近する悪寒。撃ち殺したと思っていたキングピンが生きており、再びマヤに迫ろうとするのだ。
見応えあるアクションと共に、マヤは次々と襲ってくる窮地をなんとか切り抜けていく。心臓の鼓動だけが聞こえるマヤの世界で追体験する必死の格闘映像は斬新だ。そんな折、マヤは自らの祖先につながる奇妙なヴィジョンを見るようになり、眠っていた神秘の力の覚醒を示唆する。
ストリートレベルの物語でありながら超常的な描写が織り込まれる様は『ミズ・マーベル』的でもあるが、本作はもっと硬派だ。MCU初のR指定(TV-MA)ドラマとして、アクションシーンは『ジョン・ウィック』シリーズのように容赦ないもので、VFXを多用したファンタジックなアクションとは対極にある。

本作は確かに「ホークアイ シーズン1.5」「デアデビル シーズン3.5」のような要素もあるのだが、それらは上手い配分で速やかに調理され、あとはマヤの物語を義足と共に立ち上げ、そして力強く走り出させている。第3話までの時点では、ジェームズ・ガンの言うところの“カメオ・ポルノ”的な演出は見られず、一筋のストーリー・アークに誠実に向き合っている。関連作については、「観ていなくても楽しめるが、もしも観ていればもっと楽しめる」という原理を思い出して回帰したような印象だ。
第4話と第5話の情報がまだ得られていないのだが、第1~3話はそれぞれ40分程度のボリュームだったので、おそらく全5話200分程度。少々長めの映画一本ぐらいの尺感になるだろう。各エピソードに見せ場が設けられているが、全5話を通して「キャラクターの物語を最後まで描き切る」、「非常に映画的な構成」に仕上げていることを、マーベル・スタジオのエクゼクティブ・プロデューサー、ブラッド・ウィンダーバウムは語っている。
「壮大」であることは、時として万能ではない。近頃のMCUがそれを実証していたのであれば、「エコー」は非常に興味深い取り組みである。あるいはMCUがしばらく忘却していたかもしれない、キャラクター主体の物語の醍醐味を、ハードなバイオレンス描写とともに打ち出したドラマだ。
ここ最近のMCUに疲弊していると感じている方は、2024年1月10日から一挙配信されるうちの、第1話だけでも観てみては。こんなマーベル・ドラマが観たかったと満足する方も多いはずだ。気に入れば、そのまま2話以降も同日のうちに鑑賞することができる。
