【解説】『エルヴィス』でエルヴィスが夢中だったヒーローはDC『シャザム!』キャプテン・マーベル・Jr

世界最高のソロアーティスト、エルヴィス・プレスリーの描く映画『エルヴィス』が公開中だ。エルヴィスの伝説的な人生を、幼少期から遡ってエネルギッシュに描く本作。オースティン・バトラー主演、バズ・ラーマン監督による本作の劇中では、エルヴィスがあるアメコミヒーローに強く憧れていたという事実も明かされている。
映画『エルヴィス』の内容に触れています。
少年時代はテネシー州メンフィスの黒人居住地で育ったエルヴィスは、黒人音楽のリズムやグルーヴに親しんだ。同じ頃エルヴィスが夢中になっていたのはコミック誌で、映画では『キャプテン・マーベル・Jr』に憧れていたと描写された。
アメコミにお詳しい方には説明不要だが、ここでいうキャプテン・マーベルは、2019年のマーベル映画でブリー・ラーソンが演じた女性ヒーローではなく、DCの『シャザム!』に関連するキャラクターのことだ。少しややこしいのだが、シャザムはかつてキャプテン・マーベルとの名称だったのだが、ある時点で変更されている。
「キャプテン・マーベル」から「シャザム」へ名称変更の経緯
シャザムといえば、2019年にザッカリー・リーヴァイ主演で実写映画化もされたヒーロー。主人公の少年が不思議な力を授けられたことで、「シャザム!」と叫ぶと大人のヒーローに変身する……という設定は、ファンにはすっかりお馴染みだろう。
シャザムがコミックで初めて描かれたのは1940年。ちなみにエルヴィスは1935年生まれだ。当初は「キャプテン・マーベル」という名前だったこのヒーローは、エルヴィスが9歳だった1944年には年間1,400万部を売り上げる人気シリーズになった。
このヒーローには、ちょっとややこしいポイントが2つある。まず、「キャプテン・マーベル」は元々DCコミックスの作品ではないということ。フォーセットコミックスという出版社が、当時大人気だったスーパーマンを研究して生み出したヒーローなのだ。それゆえ、後にDCから盗作だと咎められ、訴訟問題に発展。1953年、「キャプテン・マーベル」は連載誌ごと終了となった。
それから約20年後の1972年、新キャラクターを求めていたDCコミックスが「キャプテン・マーベル」の復活を試みた。ここが2つ目のややこしいポイントだ。実は1962年の時点で、ライバルのマーベル・コミックスが「キャプテン・マーベル」という同名ヒーローを誕生させており、ちゃっかり商標登録まで済ませていたのである。ブリー・ラーソンが演じたのはこちらのキャプテン・マーベルだ。そのためDCは「キャプテン・マーベル」との名称を使用できず、代わりに『シャザム!(Shazam!)』に変更した、というわけである。
つまり、『エルヴィス』劇中でエルヴィス少年が憧れていたヒーローは、今でいう『シャザム!』。もっとも、エルヴィスが好んだのはキャプテン・マーベル/ビリー・バットソンではなく、キャプテン・マーベル・Jr/フレディ・フリーマンの方だ。
キャプテン・マーベル・Jrは青いコスチュームに身を包んだ少年ヒーローで、変身後も少年の姿のまま。フレディは2019年の映画にも主人公の親友として登場している。松葉杖を持つヒーローオタクの少年で、ジャック・ディラン・グレイザーが演じていたキャラクターだ。

ちなみにエルヴィスは劇中で、「永遠の岩(ロック・オブ・エターニティ)」に行くことが夢だとも語っていた。「永遠の岩」とは魔術師シャザムが住む神秘の場所で、映画『シャザム!』にも登場した。『シャザム!』の主人公ビリーは普通の少年だったが、「永遠の岩」で魔力を授かり、スーパーヒーローに変身する。
エルヴィス・プレスリーとキャプテン・マーベル・Jrの関係
映画『エルヴィス』では、若きエルヴィスがステージに立つ前に緊張から自信を失うも、ひとたび演奏が始まると、まるで稲妻に全身を打たれたかのように、スーパースターとしての素質を身にまとうような描写もあった。音楽という魔力によってヒーローへと変身するという「キャプテン・マーベル」のようなテーマは、エルヴィスの生涯に大きな影響を及ぼすこととなった。
- <
- 1
- 2